読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

名水の里・島本町で事業立ち上げ「鍋×アイデアで世界を笑顔にする」【キュエル】

2023年1月に大阪府三島郡島本町で、株式会社CUEL(キュエル)を立ち上げた上野和樹さん。世界に向けた事業の核となるのは、鍋料理事業。味や素材へのこだわりはもちろん、コミュニケーションとしての鍋料理の開発を目指している。京都の老舗料亭「下鴨茶寮」での商品開発経験など、上野さんのこれまでのキャリアを伺いながら、CUELの展望を伺った。

日本の鍋を世界に愛される食文化に

CUELが運営するECサイト「鍋奉司 円奏」を覗くと、島本ジビエ(鹿肉)のもみじ鍋やとらふぐ、牛すき、鮭などの食材を使用した、美味しそうな鍋料理が並んでいる。

「CUELには鍋料理をメインにしている事業があります。CUELという社名は、クリエイトユニバーサルエンターテイメントライフ(Create Universal Entertainment Life)の頭文字。造語ですが、世界中の心躍る生活を創造します、という意味です」

上野さんは元々、起業するならば世界をターゲットにしたいと考えていたそう。さらに食に関してはこんな想いも抱いていた。

「人って食べないと生きていけないし元気が出ない。世界にはまだまだ飢餓に苦しんでいる人々がいる。まずは心躍る生活の第一歩を目指して食の分野をやっていきたいというところからスタートしました」

食の中でも鍋に特化したのは、自身の実体験が大きかった。

「僕、疲れると世界に逃亡する癖があって(笑)。各国をまわったんですけど、鍋料理は歴史が古い分、どこの国にもあるんですよ。ポトフも鍋料理ですし、モロッコにはタジン鍋、韓国には火鍋とか。どこに行っても煮るという料理スタイルがある。鍋ってもしかしてどこでも通じるものじゃないのかなと思ったんです」

「鍋が世界でなんと呼ばれているのか調べたんですけど、基本的にフライパンのパンかポットなんですよね。日本の鍋のイメージじゃない。ということは、鍋という文字を寿司やラーメンのように海外に通じるものにすればいいんじゃないか、と思いました」

上野さんが感じる鍋のポテンシャルは無限大。円奏では「鍋ふりかけ」のようなユニークな商品も。『鍋奉司 円奏』のコンセプトは「NABE make you smile」。味の質や食材へのこだわりを確保しつつ、商品開発では創意工夫も散りばめられている。

「商品には謎解きが入っていて、鍋に関するクイズを楽しめます。たとえば、『鹿の角を切らなかったらどうなるでしょうか?』のようなクイズです。正解は商品に付いているQRコードを読み込めばわかります。鍋って何人かで食べることが多いので、クイズを会話のきっかけにしてもらいたいですね。鍋がコミュニケーションツールになるようにこだわって商品開発もしています」

下鴨茶寮で鍛えられた商品開発のいろは

鍋料理で世界の食生活を創造するという、チャレンジングな事業を立ち上げた上野さん。起業までには、食品に携わる業務や商品開発など幅広い仕事を経験してきたそう。

「出身は大阪の和泉市で、高校生のときから小売販売のアルバイトをしてきたこともあって、京都の大学を卒業してから新卒で大手製造小売企業に入りました。それから転職をして中途採用で大手GMS企業に入社。ですが僕には大企業は合わないことに気づきまして(笑)、中小企業に行こうかなと考えたんです」

当時の上野さんの核となっていたのが、小売販売の仕事が好きという想いだった。

「販売の中でも物販が好きだったので、京都の和雑貨を作っている会社に営業で入社。入社して半年後ぐらいに、オーナーから小売事業部を立ち上げてくれと言われて、部長という形でいろいろやらせてもらいました」

26歳という若さで、部門立ち上げや責任あるポジションを経験。それから5年ほどが経った頃、京都の老舗料亭「下鴨茶寮」とご縁がつながることに。

「京都の和雑貨の企業にいた元同僚が、先に下鴨茶寮に転職していたんです。社長が先代から経営を引き継いだあたりで、元同僚から『(事業を)建て直ししないといけないからどう』と誘われました」

そうして上野さんは下鴨茶寮の営業部門に入社。ECサイトや食品を扱った経験はなかったが、これまでの実績が見込まれ、通販営業部の立ち上げを担当することになった。通販の売上を伸ばすべく、商品開発にも着手。企画室の室長も兼務しながら、仕事に邁進していった。

「下鴨茶寮では『至高の昆布』という商品を開発しました。昆布のふりかけで、卵かけご飯に合うんです。天然真昆布を醤油で炊いて、3日以上かけて乾燥させて昆布の旨みを引き出しました。セットになっている『料亭の昆布ふりかけ』は、がごめ昆布に干しエビやごま、山椒も入っています。『下鴨昆布』は卵かけご飯に特化させました」

「至高の昆布」は、接待の手土産セレクション2021~2023まで3年連続の特選を受賞。さらに、おやつやおつまみにぴったりの『料亭のちりめんナッツ』も開発した。

「『料亭のちりめんナッツ』は、甘い味わいですが最後に山椒のぴりり感が出てくるおやつ。食べたことがないような味ですよ。この商品を開発したのは、現場の店長さんがお子さんにおやつとして、ドライフルーツやナッツのキャラメリゼを食べさせていたことがきっかけ。ドライフルーツやナッツって、栄養豊富じゃないですか。でもそのままだと京都感がない。京都には土産の定番でもあるちりめん山椒の食文化が浸透しているので、合わせたら意外といけるんじゃないかなと思い、試行錯誤しました」

社長のラジオ番組が商品開発のきっかけとなった『料亭のポテトチップ』では、無添加のポテトチップスの製造販売を手がけるメーカーさんとコラボレーション。下鴨茶寮の粉しょうゆを振りかけて食べるという、ポテトチップの斬新な食べ方を商品化した。

「その他には、航空会社さんや大手御菓子メーカーさんとのタイアップも経験できました。下鴨茶寮って自由なんですよ。『伝統とは革新の連続』ということをモットーにしているので、新しいことにチャレンジできますし、失敗しても許してもらえる風土。すごく好きな会社です」

下鴨茶寮でさまざまな経験や手応えを得た上野さん。培った力を活かし、CUELで目指すのは鍋事業のグローバル展開だ。

「下鴨茶寮にいたときは料亭と和食という領域だったので、洋のものはなかなか作れなかったんです。ですが鍋料理という軸にすれば、日本の鍋を作ってもいいし世界の鍋を作ってもいい。将来的には日本の鍋を海外に売っていきたいですね」

島本町と水無瀬神宮の魅力に惹かれて

CUELの拠点は大阪府三島郡島本町。京都との府境に位置し、淀川や天王山など自然の恵み豊かな町だ。上野さんに、島本町で会社を設立した理由を聞いてみた。

「好きなんです、島本が。田舎みたいな雰囲気があって星も綺麗。特急が止まらないし新幹線も止まらないんですけど、すぐに大阪と京都に行けます。人口も増えてきていて、住みたい街ランキングの関西1位になったんですよ。マンションもできるし、飲食店も増えてきているんです」

島本町は、住みたい街ランキング関西版(いい部屋ネット調べ)で、2021年・2022年連続1位。幸福度や街への誇り、愛着度でも上位に入った。

「僕も島本町を盛り上げる方法を考えてみたんです。島本町のみんなに何が誇りかと聞くと、水なんですよ。サントリーの蒸留所があるのもそうですし、水が綺麗なことを生かさないとしょうがない。鍋も水を使うので、鍋の出汁に島本町の水を使えばいいんじゃないかと考えたりしています」

島本町の綺麗で美味しい水、そのキーワードのひとつが水無瀬神宮だという。天王山の麓にある水無瀬神宮は、鎌倉時代に建立された神社。境内の御神水は「離宮の水」と呼ばれており、昭和60年には大阪府で唯一、環境省の「全国名水百選」に選定された。参拝客が名水を求めてはるばる来訪することも。

水無瀬神宮の禰宜である水無瀬さんが「この水は当社のご神前にお供えする水。手を清めるときにも使われています」と語る。

「高槻の山の上の方に水無瀬川の源水があって、水無瀬神宮の水は川の伏流水だと考えられています。川に流れてくるまでに山で水がろ過されますが、50年前の水がこちらに流れてくるらしいです。ですから僕らがこの水を汚してしまったら、50年後の人たちが困るかもしれません。絶対に大事にしたいですよね」(水無瀬さん)

神宮と呼ばれる神社は、全国でわずか24社。後鳥羽天皇に縁ある水無瀬神宮が、長い歴史の中でしっかりと守られてきたのが島本町なのだ。

「僕らとしては、当たり前のものに気付ける瞬間がすごく大事です。たとえば太陽だったり空気だったり水であったりに感謝を捧げていますが、何気ない時間って何とも思わないもの。なくなりそうになって気がつくんです。だから当たり前に感じる水の美味しさを感じたとき、恵みがあることにも気付けます」(水無瀬さん)

上野さんも島本町を訪れてから、水のおいしさや品質の高さに驚いたそう。

「水無瀬神宮の水は硬度が約87のやや硬水なんです。硬水にはマグネシウムなどのミネラル分が多く含まれていることが特徴です」

自然の恵みから生まれた水無瀬神宮の名水を活かし、商品開発にも力を入れている。

「水無瀬神宮の御神水を使用した『離宮ぽん酢』を開発しました。出汁を効かせ、ユズとスダチと御神水で作った無添加のぽん酢です。有難いことに離宮ぽん酢を使ってくれる飲食店さんもあるんですよ」

そのほか、鍋やおつまみのお供にもぴったりの『離宮の雫』は、すっきりとした味わいのクラフトビールだ。島本町の特色である美味しい水を、CUELが今後どのように展開していくかが気になるところ。さらにCUELでは、島本町のジビエにも注目。公式HPでは、「厳選もみじ鍋」を発売している。

「島本町ではジビエが盛り上がりつつあって、ジビエの品質が高いです。ハンターさんと連携して、獲ったジビエを僕が仕入れて、離宮の水で造った出汁やぽん酢とセットにして発送しています」

これからはさらに地域のお店と連携し、個性豊かな鍋を生み出していく展望だという。

「たとえばお豆腐屋さんの豆乳鍋などをやってみたいですね。今は、カルボナーラをメインにしているイタリアンレストランさんと、『カルボなーべ』という名前で鍋料理の開発をしましょうかという話も出ています。僕はジビエのハントもできないですし、カルボナーラソースも作れません。ですがお互いwin-winにしていくやり方ができたらと思います」

島本町から鍋を世界的料理に。水無瀬神宮や地域の人々との協働によって、CUELの鍋開発はもっと広がっていくはず。楽しい気分になりたいときは、鍋料理を囲んでみるのがおすすめだ。

円奏

この記事の連載

この記事の連載

TOPへ戻る