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「おせっかいのように手間をかける」富山の町の小さな干物屋さんの名物開発【しおもん屋 ハマオカ海の幸】

「ここは祖父母が始めた店。代々受け継いできた商品もあれば、母や私たち姉妹、スタッフたちが考えたものもあります。地元の人にとって誇れる手土産を作りたいし、子どもたち次世代に受け継いでいきたい味です」

富山県魚津市の「しおもん屋 ハマオカ海の幸」3代目であり、専務の浜岡愛子さんが、そう教えてくれる。港町の干物屋さんが作る商品は、あえて『映えない、いつものおかず』。おいしいものをお裾分けする気持ちで買える手土産が、地域の人や観光客をひきつけている。

毎日の料理が楽になる商品を考える

ブリやホタルイカ、白エビやカワハギ……富山湾を代表する魚介がふんだんに水揚げされる魚津港。「しおもん屋 ハマオカ海の幸」は、その港の目の前に店を構えている。店名にある「しおもん」とは生魚ではない塩干物のこと。その名の通り、店先にはげんげの干物や寒はぎの一夜干しなどの干物に、ほたるいかの沖漬けや鮭の昆布巻きなどの加工品がずらり。目移りするほどの品数の多さに驚かされる。

なかには、新巻鮭をほぐした「焼きフレーク」や、カニの身だけがどっさり入ったパックなども。家でやるにはちょっと面倒だなと感じる作業が施されている商品だ。それを伝えると浜岡さんは嬉しそうに笑ってくれる。

「そうでしょう? そい気持ち、とってもわかるがいちゃね。私たちも家でやるとなったら面倒やから、商品化したんです。鮭フレークあったら、お弁当作りも楽だし、かにの身も取り出してあったら嬉しいだろうなっていうものを考えています」

この新巻鮭フレークは、ハマオカの店の奥にある製造所で作られている。スタッフが手作業でやっているのだ。ふだんから家族のために料理をしている浜岡さんやスタッフたちだからこそ思いつけるものなのだろう。

「おせっかい」のように手間をかけることが商品の価値になる

浜岡さんは結婚を機に家業を手伝い始めた。「小さいころから親の仕事を手伝っとったからね。結婚して子育てしながら働くなら慣れていることのほうがいいなと思ってやり始めたんです。あとは、家業に対して、三姉妹の長女としての責任感みたいなものもあったかもしれんね」。

店に立つようになって改めて感じたのは、じつにさまざまなお客さんが訪れるということ。近所のおばあちゃんが晩ごはんのおかずを探しにくることもあれば、旅の途中でお土産を買おうと立ち寄る人もいる。取材中も「お客さんが()っしゃるから、手土産になるものないかね」と近所の人がやってきていた。

「お土産っていろいろなパターンがあるんですよね。さっきみたいにお客さんに手渡すものもあれば、単純に観光客が買っていくこともある。地元の手土産を選びたいって帰省中に来てくれる人もいるし、釣りに来ていた人が買っていくものもあるんです。見ていると、いわゆる『観光地のお土産』じゃなくて、地元の人が食べているおいしいものをお裾分けするみたいな感覚で選ぶ人が多いんだな、と気づいて。確かに、自分がふだん食べているおいしいものを渡したいっていう気持ちはすごくよくわかります」

日々の食卓のおかずにもなって、手土産にもなるもの。毎日安心して食べたい。誰かに喜んでもらいたい。お客さんのそういう気持ちに応えられるものをと考えているうちに「ハマオカ」の品数は増えていったというわけだ。

「カニの身を取り出すのも、鮭をほぐすのも手間がかかります。あじの開きだって一尾ずつ袋に入れなくてもいいかもしれないと思う。でも、冷凍しておくとくっついちゃって不便じゃないですか。一尾ずつなら家族の人数に合わせて解凍できますよね。そんなふうに誰かの代わりに私たちが『手間をかけること』が、付加価値になると思っているんです。付加価値をいかに嬉しいものや、ワクワクできるものにするかが大事。干物を買ってくれた方にレシピをつけるのも同じことかも。お客さんには必ず伝わると思ってやってます」

その手間は、いい意味での「おせっかい」のようなもの。おせっかいを焼いてくれる人がいれば、楽できる人がいる。あえて手間をかって出てくれているというわけだ。

それは、干物を買うとついてくる小さなメモも同じこと。干物の焼き方や調理のアレンジなどが書かれていて、これならできそう、おいしそうと思えるのだ。もちろん、口頭で伝えることも多い。

「おばちゃん、今日は何をもっていかっしゃる?」「何がおいしいかねぇ」「おいしい鮭が入っとるよ。このままトースターで焼いてもいいし、フライパンでバター焼きでもおいしいし、きのこと一緒に炊き込みご飯にしてもいいっちゃね」

そんな会話は、ハマオカの店頭では日常茶飯事。相手が近所の人であれ、観光客や釣り客であれ、変わらず続けていることなのだ。

富山湾の恵みは、立山連峰があってこそ

たくさんの干物が並ぶケースの片隅に「甘えびパウダー」なるもの見つけた。手にすると浜岡さんがすっと来て説明してくれる。「甘えびを一夜干しにすると、どうしても折れちゃったり崩れちゃったりしたものが出てくるんです。加工場ではそれを廃棄してたんだけど、おいしいのにもったいないと思って。すりつぶしたのを袋詰めしているだけ。でもこれおいしいがいちゃ。卵焼きに入れてもいいし、味噌汁に入れれば一気に風味が増すし、あとはね、チャーハンに混ぜたらめちゃくちゃおいしかったんよね!」と言われたとたんに口の中が唾液でいっぱいになる。

今まで捨てていたものも大事に使うということは、ここ数年浜岡さんが大切にしていることのひとつ。

「SDGsってよく言われとるけど、ただただもったいないと思ってやってること。富山湾でおいしい魚介が育つのは、立山連峰からの雪解け水が海に注がれて栄養になってるからなんよね。その水は、もとを辿れば海水が蒸発して雲になって雨や雪になったものでしょう? 海と山があって、自然のサイクルがうまくいっているからこそのことなんやなと思うと、無駄にはできない。それに、こういう環境のことを含めて、きちんと子どもたちにも伝えていきたいと思ってるんです」

自分たちが食べているものがどこでどう育ったのか。なぜ、おいしいものが食べられるのか。毎日口にするものから考えるきっかけになってくれたらと浜岡さんは願っている。

「天然ものもしっかり扱うようにしています。価格は高くなるし、安定して供給されるわけでもないから、正直、店としてはリスクがある。でも、天然と養殖を食べ比べるとものすごく違いがわかるんですよ。それぞれに良さがあることを知ってもらいたい。天然ものは、残そうと思わないと残らないくらいの存在になってきているからね」

天然の味を知ってもらいたいと商品化したのが「天然銀鮭の西京漬け」や「みそ漬け」だ。

「もうね、これ食べたら養殖の鮭は別物だと感じるはず。それくらいおいしい。子どもたちにもしっかり味わってもらいたい。次の世代の子たちが知ってくれれば、きっとこの先も残っていくと思うんです」

受け継いで、つないでいくふるさとの味

同じように未来へ残したいという考えで、ハマオカが力を入れている商品に「汐ぶり」がある。ぶりをさばいて内臓を取り出し、全体に塩をすり込んだら、軒先などに吊るす。潮風に当てながら干し、熟成させていくのだという。

「ずっと専門の職人さんに作っていただいていたのが、後継者がいなくなってしまって。このままなくしてしまうのは良くないと母と妹が習いにいって、うちで加工するようになったんです。ほら、ここ」と指差す軒先には、何本もの縄がかけられている。11月になればここにさばかれたぶりがずらりと干されるという。その姿はさぞや圧巻だろう。

できた汐ぶりをスライスして食べやすくした商品「寒の汐ぶり」もある。これには、ブリの形をした小さな木製のスティックがついている。

「地元の魚津産の間伐材を使って作ってるものです。山の木って、海にとってはすごく大事な存在。さっき話したように、蒸発した海水が雲になって雨や雪を降らせるでしょう? そのほとんどは川から海に流れるけれど、3割くらいは山の木が葉や根っこから吸収して大地に浸透させているんです。それがね、10年も20年もかけて海底でじわじわ溢れ出てきたのが『海底の湧き水』。この循環で栄養たっぷりのいい水質になって魚津の魚がおいしく育つというわけなんですよ。海のものは山や森の木がないと成り立たない。このスティックで少しでもそのことが伝えられたらいいな、と作ったものです」

ただ、その流れをお客様へ伝えるだけではない。間伐材のスティックは地元の森林組合に特注品として製作してもらっていて、汐ぶりが売れれば売れるほど森林環境整備への助力にもなっているのだという。

手間をかけた商品には理由があり、食べてくれる人や手土産として選んでくれる人への思い、環境への考え方、さらには次世代への願いまでが込められている。町の干物屋さんが自らに課している役目はとてつもなく大きく、良きおせっかいは限りなく続く。こんな店が全国に増えていけば、より豊かな食が広がっていき、地域の味が確実に子どもたちへと受け継がれていくはずだ。魚津港の目の前にある一軒の干物屋さんが、それを証明してくれている。

しおもん屋 ハマオカ海の幸

Photo:相馬ミナ

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