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分散型ホテルから広がる地域連携 「やわやわブルーで高岡に没入」【セカイホテルタカオカ】

富山県高岡駅前にある「SEKAI HOTEL(セカイホテル)Takaoka」は、宿泊客が街に溶け込むことができる分散型ホテル。独創性のあるコンセプトを掲げて地域のさまざまな表情を楽しめる工夫が凝らされている。ホテルの中核を担うのは、リノベーションされた旧文苑堂書店。かつては藤子・F・不二雄氏も足繁く通ったという歴史ある書店だ。セカイホテル支配人の炭谷大輔さんに、地域の魅力や高岡ならではのセカイホテルの可能性を伺った。

ブルーでいざなう高岡の日常体験

セカイホテルは、「やわやわブルー」という過ごし方を提案する分散型ホテル。ちょっと聞きなれないその言葉には、どんな意味が込められているのだろう。

「やわやわという言葉は、富山弁で『ゆっくり』や『そろそろ』という意味があります。ブルーを付けたのは、『高岡にはいろいろな青の魅力があるよね』ということを発信したいからでした」

高岡ならではの青色を発見しつつ、地域のディープな魅力を体感することを目指しているそう。

「高岡には、雨晴海岸(あまはらしかいがん)などの自然の青もありますし、伝統文化の青もあります。高岡の街をぐるっと歩きながら、『自分の好きな青がここにあった』とか『こんな青も素敵だよね』、『青の食べ物があるんだね』というように、高岡に泊まりに来られた方に魅力を感じていてほしいという意味を込めています。セカイホテルのいたるところにも青があるんですよ」

高岡で分散型ホテルをオープンさせるに当たり、2019年に閉店した旧文苑堂書店駅前店をリノベーションした。

「文苑堂は高岡のみんなが知っている場所。藤子・F・不二雄先生が幼少期に通われていた場所で、およそ60年続いていた書店です。(ホテルとしての再利用について)文苑堂の吉岡会長にお願いしたとき、最初は断られたんです。ですがお話しをするうちに、高岡のために頑張っていきたいというところでOKをいただけました」

地域住民はもちろん、全国の漫画ファンにとっても聖地といえる文苑堂。リノベーションを経てホテルの中核地へと生まれ変わったが、文苑堂書店の看板はそのまま。閉店を知っている常連客が足を止めることも多いそう。

「『文苑堂の看板があるのにここは何や?』と二度見される方が多いです(笑)。歴史ある建物ですので、使えるところは残しました。フロント1階の床はそのままです。2階から3階に上がる階段も残しました」

建物の歴史をできるだけ残し、書店時代には公開されていなかった部分を活用しているのも面白い。

「2階に上がるときには、書店だった頃のバックヤードを見ることができます。従業員しか入れなかった場所を見ることができるようになりました」

分散型ホテルとは、いわば街ごとホテル。「セカイホテルのコンセプトは、旅先の日常に飛び込むこと」と炭谷さんが話すように、旧文苑堂建物ではチェックインや寝泊りが可能。滞在客はチェックイン後に高岡の街を散策し、地域の飲食店などで食事をしたり、ひと休みしたりする。滞在客が思う存分高岡を楽しめるかどうかは、地域との連携にかかっているとも言える。

「日常に飛び込むというコンセプトについて、自分たちがどういうところで結びつくのか、街の人たちに理解していただくことが大切ですね。地域の方々たちからは『頑張ってね』という声をいただくのですが、高岡のために何ができるのか一緒に考えていきたいと思います。

セカイホテルと提携を結んだお店を訪れると、滞在客は特別なサービスを受けることができる。セカイホテルは地域周遊パスポート「SEKAI PASS」を発行している。このSEKAI PASSを提携店で提示することで、滞在客はサービスを受けられ、「ORDINARY(日常)」に溶け込みやすくなるという。

「提携店に僕らから『このサービスをしてください』と言ったことは一度もありませんが、たとえば『居酒屋 たかまさ』では、セカイホテルの宿泊者に対して500円割引をしてくれています。提携店は飲食店が多いので、ウェルカムドリンクを無料で出してくれるお店もあります。」

セカイホテルで輝く地域の若い力

セカイホテルでは、フロントなどで若者がいきいきと接客する姿が見られる。実はスタッフには現役の大学生もいるのだとか。

「インターンの女の子が一緒に働いてくれていて、(そのスタッフは)大学でも地域活性に携わっています。若い感性や行動力をセカイホテルに落とし込んでもらうことで、高岡の地域や住民たちとの繋がりを深めていけると思うんです」

若い力に期待しているのは滞在客とのコミュニケーションだけではなく、お客さんと地域のかけ橋になることも含まれている。

インターンの大学生が、地域の人と会話をすることも少なくない。

「(セカイホテルは地元の)散歩コースなんでしょうね。旧文苑堂の看板も残していますから、住民の方がガラッと開けて『ここホテルなの?』と入ってきてくれます。すると若いスタッフがすっと対応してくれるんですよ」

街ごとホテルを元気づける若いエネルギーは、提携店でも増えてきた。「居酒屋や焼き鳥屋など、夜間に営業している提携店の店主は30代が多い」と炭谷さんが話してくれた。

業界未経験からセカイホテル支配人へ

支配人の炭谷さんは、生まれも育ちも高岡で、大学進学で東京へ。卒業後はUターン就職をして地元に戻ってきた。その時に高岡の街の変化を痛感したという。

「僕が小さい頃は(商店街の)シャッターが開いていて、大和(高岡市唯一の百貨店だったが、2019年に閉店)がありました。大和の食堂に行くのはご馳走だったんですよ。書店もありましたし、駅の辺りが中心地でした。ですが駅南に大型ショッピングセンターができてからは、買い物はみんなそちらに行ってしまうんです。大和もなくなって、ちょっと寂しくなりました」

そんな想いがよぎった頃、炭谷さんはとある講演会に参加した。登壇者は、大阪のセカイホテルを手がけていたクジラ株式会社代表取締役の矢野浩一氏だった。

「矢野さんの講演を聞いて、めちゃくちゃ面白そうだな、高岡でやったらどうなるんだろうと感じたんです。するとそのすぐ後に、大野(現在のセカイホテルTakaoka代表取締役)が『やろう』と言いまして、3か月後には大阪のセカイホテル Fuseを見に行きました。そして、気づいたときには『支配人ね』と任命されていたんです(笑)」

当時の炭谷さんはホテル勤務経験はもちろん、観光や旅行の仕事にも携わっていなかった。建築関係の仕事などを経て、大野さんの会社に入社してまだ半年ほどのことだったそう。そんな炭谷さんが抱く、セカイホテル支配人としての心構えとは。

「セカイホテルを高岡のハブにしていきたいと思っています。高岡のお店には意欲の高い人が多いのですが、街の活性にうまくリンクされていないように少し感じるんです」

その理由は、高岡を訪れる観光客が日帰りで帰ることが多いから。外からやってきた人に対して、街の魅力が伝わり切っていない可能性があるのだ。

「僕たちセカイホテルと観光客と高岡の人たちでフレンドシップをつなぐように、輪を広げていきたいんです」

セカイホテルが街のハブとして機能し、人や情報、地域の魅力を循環させる。街は分散型ホテルとして観光客を歓迎し、観光客は高岡の日常に飛び込む。街と観光客とが相互に刺激し合い、街ごとホテルを一緒に作り上げる未来を目指しているのだ。

みんなが地域づくりに関わりたくなる高岡を目指して

地域との連携はもちろん、観光客とのコミュニケーションも不可欠なのが分散型ホテル。炭谷さんにセカイホテルの展望を伺うと、「どんどん人を呼び込んで、高岡にお店を出したい人や高岡に協力したいという関係人口を増やしたい」という答えが返ってきた。

「旅先の日常に飛び込むというコンセプトのもとでホテルをやっていくと、高岡の街を循環する人たちが増えてくるはず。そうすることで、『高岡でお店を出したいな』、『高岡でもっとこんなことをやりたいな』という挑戦意欲を持った若者が出るようになってほしい。足踏みしている人に『高岡ならできるよ』と促してあげたいんです」

まだまだ高岡にオープンしたばかりのセカイホテルだが、挑戦の芽はすでに息づいている。

「提携店は6店舗ほどあります(2023年1月時点)。60代や70代など、上の年代の店主も多いです。今は昼に営業している提携店を探しています」

ホテルオープン直前の12月には、地域住民などを招待してイベントを開催。セカイホテルとの提携や地域活性に関心のある人々が30名ほど出席したという。

「イベントでは客室のことや次の出資者を集める時期などを話しました。今後、セカイホテルの客室のオーナーになりたいという方もいたんです。たとえばシャッターが閉まっている建物を部屋にしたいという声や、提携したいと手を挙げてくれるお店も出てきました。『ホテルに富山の地酒を置いたらいいんじゃないか』など、いろいろな提案をしてくれる人も増えたんです」

セカイホテルに可能性を感じる人が増えるほど、街ごとホテルとして成長していく期待も高まる。一方で、オープンしてから気づいたこともある。

「オープンして一週間ですが、新規のカフェ利用者がゼロ。ホテルと謳っている影響もあるのですが、カフェとしての認知度を上げていきたいですね。『やわやわブルー』という言葉のもとにデザインされたカフェですし、高岡の街を楽しむためのひとつのアイテムとして、今後どのような形で発信するのかは課題です」

セカイホテルのカフェスペースは午後1時から午後10時まで開店。自らの手で青色を作る「青に染めるクリームソーダ」は、思い出フォトを彩る看板メニューになりそうだ。

「高岡は、人と人との繋がりが濃いんです。何かあったとしても周りが助けてくれる関係性があります。特に経営者の方々は少なからず、この街のことを思って動いていらっしゃる方が多い。皆さん商工会議所などの団体に必ず所属されているので、必ずどこかで繋がっている。高岡で事業をやる人にすごく向き合ってくれるんです」

ホテルと地域とのつながりが強く広くなるほど、セカイホテルの魅力も増していきそうだ。高岡のディープな魅力を味わいたい人は、セカイホテルを拠点に地域に飛び込んでみてはいかが。

「SEKAI HOTEL Takaoka」

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