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「ひまわりの花」を咲かせ、人と人の絆、震災の出来事を伝えていく【NPO法人チームふくしま】

東日本大震災・東京電力福島第一原発事故が発生し、様々な課題に直面する日々を私たちは生きている。「福島を元気にしたい」「昨日よりも明日を想って生きる人の笑顔を見たい」「この出来事を忘れてほしくない」——震災をきっかけに心をひとつに”復興のシンボル”として、ひまわりの種を全国各地で育てるプロジェクトを発足したのが、「NPO法人チームふくしま」という団体だ。あれから10年余り経ち、起こった出来事を風化させず、次の世代にも伝えるために、プロジェクトを継続している。人と人が助け合いながら生きる、心の絆を築ける社会を作り出すために——全国にひまわりの花を咲かせる取り組みについて、事務局職員の清野巽さん、彼らを取り巻くキーパーソンに話を聞いた。

震災後の日本をひまわりで繋いでいく

「NPO法人チームふくしま」はもともと、「福島にいい会社を作る」ことを目的に、理事長の半田真仁さんをはじめ、福島県内の30歳〜40歳代の若手経営者が任意団体的に集まったのがはじまり。社員研修、経営支援、団体向け研修を開くなど、福島を活性化するための活動を行っていた。その後、2011年3月に東日本大震災が発生し「人のために自分がなにかしなければ」と、強い衝動を持った半田さんがいた。彼を中心に、周囲の人たちと福島のためにできることを模索した結果、ひまわりの種を全国各地で育てる「福島ひまわり里親プロジェクト」が誕生。清野さんは、大学生のときにこのプロジェクトに偶然出会い、ボランティアとして参加した縁をきっかけに職員になった。

「NPO法人チームふくしま」の職員になり、8年目になる清野巽さん。

「僕は高校生のときに福島で震災を経験し、あまりに衝撃的な映像に言葉にできない気持ちになり、涙が溢れてきました…。以来、『何か自分にできることをしたい』『震災で何があったのかを伝えていきたい』という想いが強くなり、現在の活動を続けるようになったんです」

清野さんがプロジェクトに参加して8年。現在は中心人物として活動している。「福島ひまわり里親プロジェクト」の細かな仕組みについて教えてもらった。

「震災後、原発事故による風評被害があり、観光業や農産物の流通に大きな打撃を受けました。そうした状況のなかでも福島にひまわり畑ができたら、町の人の心が少しでも明るくなりますし、その景色を見ようと、再び福島を訪れてくれる人がいるのではないか、と。そうしたささやかな願いを抱いたことも、プロジェクト誕生のひとつのきっかけです。実際に参加してくださった方を“里親”と呼び、ひまわりの種を育ててもらい、採れた種をまた福島に送ってもらう、という“日本をひまわりでつなぐ”取り組みです。ひまわりが1本育てば、何千粒という種ができます。種が福島に集まってきて、蒔いて育てると、2ヶ月経った頃には大輪のひまわりが咲きます。太陽に向かってまっすぐに育つ、明るい花姿を眺めているたびにエネルギーをもらいますし、心が洗われます。種を送ってくださるときにメッセージを添えてくれる方もいたりして。その気持ちが嬉しくて、とても温かな気持ちになりますね」と清野さん。

福島県⽥村市⼤越町牧野地区に3万本以上のひまわりが咲き誇る「牧野のひまわり畑」。この地域に住む方々が管理している。全国の“里親”から届いた種が、福島県内のいくつかのエリアで咲いている。
ひまわりの種と、活動や絆について子どもたちに伝えるための絵本『たびくまとひまわりばたけ』(はら きょうこ 作)をセットにして3,000円(税込)で販売している。

子どもたちにも伝わるメッセージで届ける

プロジェクトの取り組みを多くの人に伝えるために「絵本を作る」というアプローチに辿り着いた。それは、ある幼稚園児との会話がきっかけだったという。

「県外の幼稚園で講演をさせてもらったときに、震災やこれからの未来について話をしていて、ある女の子が『絆ってなーに?』と理事長の半田に質問をしてくれたそうです。震災後に『絆』という言葉はいろんなシーンで語られてきましたが、実際、言葉にして伝えるのは難しいことだと感じていました。改めて、小さな子どもたちにわかるようにするのは、どうしたらいいのか。それを考えたときにやさしい言葉と絵で語りかけられる絵本にして伝えるのがいいだろう、と」

当時は制作する資金がなく、クラウドファンディングで支援を募った。

「いくつかのサービスを使って168万円集めることができました。絵本のストーリーは、クマが暮らす森が突然なくなってしまい、ある日、芽が出ている植物を見つけ、大事に育てていったら、お日さまのように明るいひまわりが育った、という内容からはじまります。紙芝居を作って、幼稚園で読み聞かせすることもしていて。ひまわり畑に花が咲くシーンに差し掛かったときに、子どもたちからは、わっ!と歓声が上がるんですよね。その笑顔を見ると本当に嬉しい気持ちになります」

心温まる交流が徐々に広がりを見せ、この10年余りでプロジェクトに参加する人の数は、全国で55万人以上。小中高など累計約6,000の教育団体が参加している。

「最初のスタートのきっかけはさまざまですが、全国の学校に参加していただけることが多くなりました。小学3年生くらいだと理科の授業の一貫としてひまわりを育てることから。同時に先生から震災の話をしてもらっています。他のアプローチは、道徳教育で取り上げていただくこともあります。いろんな入り口で『震災のことを子どもたちに伝える』ということを丁寧にやってくださっています」

ひまわりの種を届けることで、障がい者の雇用創出を

さらに話を聞き進めると、「福島ひまわり里親プロジェクト」の取り組みは、福島で暮らす障がいのある方々の雇用創出にもなっているという。どこまでも、人のことを想い、着実にアクションへと繋げていくスタンスが素敵だ。

「福島では、障がいのある方が仕事としてできる軽作業の受注が無くなってしまい、多くの人が生活に困ることになりました。そこで『就労支援B型事業所 なごみ』さんにひまわりの種のパック詰めを仕事として依頼することにしました。日本全国各地に届けるひまわりの種を届けるための大切な作業を担ってもらっています。最初は応援する存在だった『就労支援B型事業所 なごみ』さんが、いまは、パートナーとしてかけがえのない存在になっていることが、とても嬉しいこと。こちらの取り組みに加えて、この作業所で種から油を搾ってもらい、バイオディーゼル燃料へ精製し、福島を走るバスの燃料にすることに成功しました」

福島市にひまわり畑ができ、町中でも、ひまわりが咲いている景色が色々なエリアで見られるように。さらに、ひまわりのエネルギーでバスが町を走るようになった。町の人を笑顔にすること、環境にやさしい取り組みに力を注ぐスタンスの一環として2022年には、ひまわりの種から搾った油の一部を食用に使った「ひまわりカレー」を作った。

「カレーの売り上げの一部を活用して、福島県内の子ども食堂へレトルトカレーの寄付をしています。福島市だけでも50ほど食堂があります。新型コロナウイルス感染症や物価高騰による影響などから、困難を抱えるご家庭も増えているので、少しでもサポートしたい、という気持ちでこちらの取り組みが始まりました」

地道な活動を続けて、広く伝わってきたプロジェクト。清野さんにとって、自分たちの活動が「届いている」と強く実感するときは、どういったシチュエーションだろうか。

「愛知に暮らす高校生が福島に足を運んでくれたことがありました。このプロジェクトに関わることで、『自分にできる限りのことを福島に届けていきたい』と伝えてくれたんです。県外の若い世代のアクションに触れると、このプロジェクトが次世代の方に確かに伝わっていると感じられて嬉しい気持ちになります」

金銭や品物を送る「寄付」とは趣が違い、「ひまわり」を通した心の交流がなんとも温かくて、美しい。人と人が繋がり、力を合わせると、こんなにも美しい景色が見られるということに心を動かされる。実際、「牧野のひまわり畑」のひまわりは、多くの人のエネルギーが宿っているように見え、より一層、ひまわりという花が、たくましく、健気な花のように思えてくる。

その裏側には、重要なキーパーソンがいることを知る。福島県⽥村市⼤越町牧野地区で震災以前から盛んにひまわりを育ててきた、佐久間辰一さんの存在だ。町の人、県外の人に慕われている、通称“ひまわりおじさん”だ。

「牧野ひまわり会」の会長を務める佐久間辰一さん。ひまわりの名所として知られる町では、地区の全戸が会員になっている。取りまとめている佐久間さんが、水やりや挿し木、種取りなどを率先して行なっている。ふだんは、野菜やフルーツ、ハーブなどを育て、農家としての活動も。

困難を乗り越えた人の物語を、世界に発信する

「『牧野ひまわり会』代表の佐久間さんは、福島県田村市で農業を営む元農業高校教師。農業をしながら、町の人と一緒に、ひまわりを咲かせて暮らしています。震災後の苦労の中でも、その活動を止めることなくひまわりの種を植え、周りの人々との助け合って暮らすことを続けました。強い信念と自然を愛する気持ちを持った方です。多くの人にたくさんの笑顔を生み出してきた、佐久間さんの生き方を世の中の人に伝えたい、という願いから『ぼくのひまわりおじさん』という絵本が誕生しました」

『ぼくのひまわりおじさん』(サンクチュアリ出版)。主人公は福島の男の子。震災後、「ひまわりおじさん」が教えてくれた自然を愛する心を思い出し、男の子は、福島にひまわりの種を植え始めた。やがて、ひまわりが咲いた末に「ひまわりおじさん」と再会するストーリー。切り絵アーティストのチャンキー松本さんが和紙で作った、貼り絵の絵本が繊細かつ力強く物語る。
切り絵アーティスト、チャンキー松本さんの原画。

この一冊は、未来への希望を世界中の人に届けようと作ったもの。

「僕らのプロジェクトを発足当時から取材で追いかけてくださっているシリア人ジャーナリストのナジーブ・エルカシュさんという方がいます。彼は母国で続いている紛争によって、慣れ親しんだ土地に帰ることができずにいました」

その時期に、ナジーブさんが佐久間さんに出会ったという。

「困難の最中にいながらも、ひまわりを育てて前を向く姿勢は、シリアの紛争で難民になってしまった子ども達にも希望を与えられるのではないか、という想いを抱かれました。その後、『ぼくのひまわりおじさん』をアラビア語に翻訳して出版するアイデアをいただき、僕たちはクラウドファンディングで資金調達をすることに。その結果、84万4千円集まりました。さらに、未来への希望を伝えるために、日本語、英語、アラビア語、ベトナム語、スペイン語、フィンランド語の動画を公開しています」

ひまわりには、「あなたを見つめる」という花言葉があるという。困難に直面してもなお、人を想うことができる優しさは何よりも尊く、人を活かすエネルギーになる。震災、そして福島に想いを馳せる時間を通して、“心の繋がり”とは何か、いま一度立ち止まり、考えてみてはどうだろう。

NPO法人チームふくしま

Photo:阿部 健

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