読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

「ここならキャンプを失敗しても大丈夫」ルールで縛らないキャンプクリエイター【青川峡キャンピングパーク】

江戸時代、銀・銅の採掘で隆盛を極めた三重県いなべ市。この場所に2003年に誕生した「青川峡キャンピングパーク」は、今や全国的な人気を誇る高規格キャンプ場だ。清流・青川が流れる自然ゆたかなロケーションと、初心者でも快適に過ごせる充実の設備、バリエーション豊富なサイトと大阪・京都から2時間というアクセスの良さで多くのキャンパーに愛されてきた。独自の企画と目に見えない心配りで人気を下支えしてきたキャンプライフクリエイターの金津琢哉さんに、自身のアウトドアの原体験や人とアウトドアを結ぶ思いについて伺った。

自然がもたらす価値に目を向け、都市にはない価値の創造に力を注ぐ三重県いなべ市。2003年に藤原町、北勢町、員弁町、大安町の4つの町が合併して生まれた市だ。新しい市の誕生とともに長年放置され、荒れ果てて不法投棄が相次いでいた採石場跡地を生かすために「青川峡キャンピングパーク」は造られた。「当初は公園にしようという案もあったようですが、せっかくなら県内外からも人を呼べるような場所にしよう、とキャンプ場を作ることにしたそうです」と金津さん。

今では清潔感のある水回り、コインランドリー、キャンプ用品のレンタルサービスや売店など、初心者でも快適に過ごせる高規格のキャンプ場に生まれ変わり、この場所を目指して遠方から足を運ぶキャンパーたちも少なくない。テント泊、ログハウス泊、オートキャンプ、ライダーズキャンプなど、多彩なキャンプスタイルを受け入れるフィールドは、ファミリーからソロまで、多くのキャンパーたちに愛される場として生まれ変わっている。

一方で「全面舗装された道路や充実した設備など、手入れの行き届いた環境の高規格キャンプ場は、アウトドア慣れした方からすると少し物足りないくらいに感じられるかもしれません」と、この場所で9年間、アウトドアの橋渡し役を担ってきた金津さんは話す。

ビギナーの段階でもアウトドアを満喫するためには、最低限の知識や心構えを身につけておくことは必要。天候や状況によっては危険な目に遭ったり、大変過ぎて楽しめないということも少なくないからだ。

「だからこそファミリーやビギナーの方にとっては『ここなら失敗してもなんとかなるから大丈夫』と思ってもらえる環境を優先しています」

その言葉はアウトドアシーンにおいて必要な知識や、マナーを自然な形で身につけられる環境が、より多くの人にアウトドアの魅力を伝える一番の近道であることを知っているからこそ。

「初めからルールで縛ってしまうと堅苦しくなってしまって、逆にハードルを上げてしまう。不測の事態に個々がちゃんと知恵を絞りつつ、それでも困った時は一緒に乗り越えます、というのが僕らのスタンスです」。その絶妙なバランス感が多くのキャンパーを惹き付けてやまない理由なのだ。

アウトドアの醍醐味は、不安を自信に変えること

最初は不安ばかりでも“次来たときは焚き火をしよう”、“次はこの料理に挑戦してみよう”という風に経験を重ねていくうちにスキルアップしていくのがアウトドアの醍醐味。「お客さまがアウトドアに慣れて、ステップアップのために他のフィールドに目を向けるようになることは、僕らにとっても喜ばしいことです。同時に口コミでビギナーの方が来てくれて、新たな出会いが巡るというサイクルが途切れないように心がけています」と話す金津さん。訪れる人がここでの時間に安心感を持って楽しめるように、常に見えない部分のサポートやフォローに徹している。

金津さんがとりわけ初心者にやさしい環境整備に力を注いできたのは、自身が経験したアウトドアの原体験によるところが大きい。高校卒業後、製造業に就いたものの「1日中建物の中で仕事をする環境に違和感があり、悶々としていた」という金津さん。大きな不安はなかったものの、前向きな気持ちにはなれず一旦仕事を辞め、人生をリセットするためにバックパッカーになった。

「ちょうどその頃、山登りや自然の中でのアクティビティに興味持ち始めた時期で。外に出たくて仕方なかったのかもしれません。海外でも国内でも、今日という日のご飯や寝る場所を考えながら、知らない土地を探り探り進む。その感覚にハマりました」

沖縄から三重まで1500キロの自転車旅で得たもの

転機となったのは25才の時。沖縄で農家の手伝いをしている友人からの声掛けで、沖縄で住み込みで仕事をしていた時のこと。「その友人は旅好きで、自転車で関東から沖縄に来てそのまま働いていました。ある時、畑の仕事が一段落してみんなが解散するという時に、友人が『自転車に乗って帰るの、もうしんどい』って言い出したんです。それで、じゃあ僕が代わりに乗って帰りますって勢いで言ってしまったんです(笑)」。

そこから意図せずアウトドア生活をすることになった金津さん。友人に譲ってもらった自転車や寝袋、バーナーなどのアウトドア道具一式を持って、沖縄から地元の三重まで1500キロの旅に挑む。

「若気の至りじゃないですけど、その当時はもうお金はないけど時間はたっぷりあるっていう環境だったこともあり、そんなことばっかりしてましたね。ただ、自転車で地元まで帰る道のりは、当時の自分にとってはとても新鮮な感覚を覚えるものでした」

平日に100名が集う!独自の企画で地域を盛り上げて

沖縄からフェリーで九州に渡り、門司港まで北上する途中、熊本県水俣市で印象的な出会いがあったという。壊れた自転車の部品を取り寄せる間、「宿泊場所に」と自転車屋の店主が最寄りのキャンプ場まで送ってくれた上に、地魚の刺身までごちそうしてくれたとか。

「あの時親切にしていただいたこと、泊まった貸し切りのキャンプ場と自転車で走った水俣市の風景は、今でも思い出します」

そんなかけがえのない思い出が金津さんの中で今も鮮やかに輝いているからこそ「青川峡キャンピングパーク」は、誰にとっても温かい空間なのだ。

独自のイベントも評判だ。「ソロキャンジャンボリー」には、平日にもかかわらず100組のソロキャンパーが集うとか。また、直近では「自転車キャンプセット」というレンタル用品セットを展開。自転車でキャンプ場を訪れ、そのままキャンプを楽しむプランだ。サイクリストに必要なレンタルグッズがそろいます。

「道具を積み込める自転車じゃなくても、まずは乗り慣れた自転車でキャンプ場まで行ってみる。道具は現地調達で、気軽にキャンプを楽しむ旅も面白そうですよね」

どんなに経験が長くなったとしても、いつでも同じ目線で楽しむ感覚を忘れないことも、この場所が愛され続ける理由のひとつなのだろう。

この記事の連載

この記事の連載

TOPへ戻る