読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

「沖縄と言えばチョコ」へ〝伝統〟の面白いを模索する未経験者【タイムレスチョコレート】

沖縄初のビーントゥバーチョコレートメーカー「タイムレスチョコレート」。沖縄県知事賞も受賞した個性派チョコレートを生み出したのは、ショコラティエでもパティシエでもない林正幸さんだ。林さんが惚れ込んだのは、沖縄産のサトウキビを使用した黒糖。昔ながらの伝統製法を受け継ぎつつ、これまでにない食感のチョコレートに仕上がった。旅好きでコーヒー好きの林さんが世界を周って沖縄のサトウキビに出会うまでに、どんなストーリーがあったのだろう。

サトウキビとの出会いで生まれた絶品チョコレート

「サトウキビに憑りつかれた」と、笑顔で語る林さん。そんな林さんが作るチョコレートは、沖縄産のサトウキビを使った黒糖が持ち味。今までになかった味と食感を楽しめるこのチョコレートには、沖縄ならではのストーリーが詰まっているという。

「(チョコレートの生産というと)みんなカカオの部分だけしかストーリーを見ない。でも砂糖も使っているんです。僕らは地域密着で沖縄のサトウキビ文化を継承しながら、その味わいを表現するための一つの手段としてチョコレートを作っています。沖縄のサトウキビであるからこそ、僕らは唯一無二のチョコレートを作れているという自信があります」

タイムレスチョコレートでは、自家焙煎のカカオ豆と沖縄産のサトウキビを融合。カカオ豆をあえて粗挽きにすることで、独特な食感のチョコレートを誕生させた。サトウキビから生まれた黒糖は石臼で挽くことにこだわり、深い味わいを引き出した。

「ありがたいことに、2020年に沖縄県特産品コンテストで県知事賞という最高賞に僕らを選んでいただきました。サトウキビの文化を再構築して発展に繋げたキャッチーな商品、という点を評価をいただいたのですが、まずは沖縄の人認められたいと思っていたので嬉しかったですね」

なんといっても黒糖に使用されているサトウキビの魅力が大きい。沖縄産のサトウキビを昔ながらの釜焚きでじっくりと煮詰めた。こうした伝統的製法は、ともすれば忘れ去られてしまうことも少なくない。

「出来上がったばかりのホカホカの黒糖を、店舗でお客様に配ったことがあるんです。すると地元の70歳以上のお姉さんが僕の腕を掴んで、『なんで内地から来たアンタがこの味を知ってんの。私は小さい頃からずっとこの味で育ってきたのに、あるときから手作りの黒糖が食べられなくなってしまった。こんなにホカホカで美味しい黒糖をまた食べられて本当に嬉しくてしょうがない』と涙を流して仰ってくれたことがありました」

タイムレスチョコレートは沖縄生まれの人の心に刺さると共に、意外な角度からも興味や関心を向けられている。

「日本酒のソムリエやミシュランを獲っているシェフも来てくれています。IT系の人たちが『仕事をするときに糖分が欲しいけど、本当の糖分って何だろう』という疑問をきっかけに来てくれたことも」

世界を旅して体感した、ストーリーの重要性

林さんがタイムレスチョコレートを創業したのが2014年。ショコラティエでもパティシエでもなかった林さんが、人々をあっと驚かせるチョコレートを作るようになったのはなぜだろう。そのきっかけはコーヒーが大きかったのだとか。

「僕のそばにずっとあったのがコーヒーでした。夜はお酒で昼はコーヒーというか(笑)」

タイムレスではチョコレートとマッチするコーヒーも味わえるのだが、これがまた格別のおいしさ。というのも、林さんはオーストラリアのメルボルンでバリスタの修行をした経歴を持つ。

「小さい頃から旅が好きで、小学生の頃から一人で新幹線に乗ってスノーボードをしに行ったり、高校生になったらバイクで旅に出ていました。大学では日本二周をしたり(笑)。フラフラ旅をするのが好きなんです。大学で経営学やプロジェクトマネジメントを学んで、卒業後は自分が乗っていたハーレーを売っ払ってアメリカのサンフランシスコに留学しました」

アメリカに渡った林さんは、コーヒーとの衝撃的な出会いを果たしたという。

「深煎り文化の強かった日本のコーヒーに対して、アメリカのコーヒーは浅煎り。そこからどっぷりコーヒーにハマっていきました。サンフランシスコでよく利用していたコーヒー屋では、まるでワインのテイスティングノートのような表記がされたコーヒーがたくさんあって、その店舗ではローカルのアーティストの作品が飾られていたり、社交場として機能している事にすごく影響を受けました」

コーヒーのある空間の心地よさ、味わう先にあるストーリーに心惹かれた林さん。

「ブレンドが美味しいというのが当たり前の世界観だったところに、コーヒーにストーリーを追加していったのがすごく斬新でしたね。毎日のように行く場所でしたが、同じコーヒーを飲むというよりも、ストーリーがあるものを楽しんでいる感覚。新しい変化や刺激が発信されていました」

それから林さんは自身で買い付けた商品を展開するセレクトショップを横浜に開店。店内でコーヒーも飲めるスタイルで、いつもそばにはコーヒーがあったという。

「日本での仕事とアメリカを行ったり来たりが続く中、もっと知見を広めたい気持ちがあって、2年間くらい世界を旅することにしたんです。モンゴル、イギリス、ジャマイカ、オーストラリア、東南アジアの様々な国も放浪しました」

サンフランシスコでストーリーを作るコーヒーに衝撃を受けてから数年、世界各地のコーヒーに出会うことができた。

「ベトナムとかタイとか暑い地域になってくると、深煎りのコーヒーにミルクを合わせていく。技術を持って淹れたコーヒーも美味しいんですけど、その土地にしかない飲み方も面白い。それと、豆を買い付ける前のストーリーのプロセスを読むことって、すごく重要だなと思っています。これはコーヒーもカカオもサトウキビもみんなに共通してます。お米もそうですよね。品種だったり、栽培方法だったり、作り手だったり……。原料とはなんぞや、というところです」

独学でコーヒーの抽出技術を勉強していた林さんだが、メルボルンでさらに本格的なスキルアップを図ることに。

「エスプレッソの技術が気になったときに、信号機の数よりもカフェがあるというメルボルンを訪れました。職人気質の方が多かったですし、住んでいる人もコーヒーがあるのが当たり前でした」

林さんはメルボルンで、後に沖縄のサトウキビにつながる気付きを得た。

「メルボルンはヨーロッパ系の移民もすごく多いので、エスプレッソに砂糖を入れて楽しむ方が多いです。まずはそのままストレートで味わって、二段階目で砂糖を入れて混ぜ合わせて飲んで、三段階目は飲み終わったエスプレッソの下に染み込んだ砂糖をシャリシャリ食べる。液体としてのエスプレッソはもちろん、デザートみたいに食べたりする。あれが僕のターニングポイントだなと思います」

初めてのエスプレッソの味わい方に衝撃を受けると共に、強い違和感を覚えたという。

「エスプレッソには良い豆を使おうとするのに、合わせる砂糖については探求されていなかったんです。それで砂糖について調べてみて、沖縄の黒糖にもいろいろな種類があることを知りました」

沖縄のサトウキビ文化をチョコレートで再構築

沖縄のサトウキビについてもっと知りたい気持ちが湧いてきた林さんは、自転車で二週間ほど沖縄を旅することに。

「沖縄の黒糖といっても、島によって塩気があったり特徴が違うんですよ。同じ島で作られたものでも、製法や作り手が違うと味も変わります。特に昔ながらの文化で手で焚いている人たちは、全然違う黒糖を生み出すことができる。砂糖の面白さを体感してからメルボルンに戻り、バリスタさんたちに沖縄の黒糖を紹介しました」

沖縄の黒糖はメルボルンのバリスタも唸らせた。黒糖を使ったコーヒーで相乗効果が生まれる予感がしたそう。

「最初は黒糖とエスプレッソでお店を開こうかと思ったんですけど、那覇に『potohoto』さんというコーヒー屋さんがあって、めちゃくちゃクオリティが高かったんですよ。こんなすごい人がいるのに僕がコーヒー屋をやってもしょうがないように思えたんです」

そんなとき、サンフランシスコで食べたことのある、カカオ豆から手掛けるチョコレートを思い出した林さん。

「カカオ豆から板チョコになるまでを一貫する『Bean to Bar(ビーントゥバー)』という製法は、当時の日本では聞き慣れなかった。コーヒーで学んだ経験を活かし、個人でカカオを仕入れてオーブンで焙煎して、買ってきたジューサーにカカオ豆を入れてそれをまた練って……というようにチョコレート作りをしてみたんです。これがタイムレスチョコレートの始まりでした」

思い立ったら即行動。出来上がったチョコレートを友人らと食べてみた。

「みんな『これ何?チョコレートなのはわかるけど、添加物も使用せずにこんな味が出せるんだ!』と、素材本来の味わいにびっくりしてくれました。そこから自分たちの小さな工房と店舗を持って、イベント出店などから販売をスタートさせました」

旅が好きでコーヒーが好きで、世界中を周った林さんが思う沖縄のサトウキビの魅力とは。

「おこがましいかもしれないですが、海外をいろいろ見て、さまざまな文化を知ったからこそ、黒糖がすごいものだと気付けたんですよね。沖縄で生まれ育った人からすると、お茶請けとして黒糖が出てくるのが当たり前で、製糖工場もすごくハイクオリティな黒糖を展開している。でも、昔ながらの釜で焚いて黒糖を作れる人って、もう数人しかいないんですよ。どんどん手作りの文化がなくなっていく」

「日本では当たり前と思われている黒糖文化ですが、実は絶滅寸前のところまできている。だからこそ現代に合わせ再構築する必要がある。沖縄の人たちが先祖代々守ってきた土地や文化を大事にしながら、チョコレート作りを続けていきたいですね」

沖縄でチョコレートを作り続ける未来図

「砂糖を追求していったときに、沖縄という土地で自分が何ができるか、サトウキビで何ができるか考えたら、たまたまチョコレートだったんです」と語る林さん。偶然に導かれつつ、今も沖縄の地でチョコレート作りに精を出している。

「嬉しいなと思ったのは、地元の企業さんから言われたことで、瑞穂酒造という泡盛メーカーさんになるのですが、僕たちの黒糖を活かしたチョコレートを知って『フランスのブルゴーニュのワインが有名なように、沖縄の基幹作物であるサトウキビを使ったお酒で世界に挑戦したい』と仰ってくれました」

沖縄の人も再発見した、サトウキビの価値。近年はサトウキビを使ったお酒やソーセージ、パンの開発の話も盛り上がっているそう。

「僕らが作ったチョコレートの原料がサトウキビだったというストーリーを軸に、いろんな人たちを巻き込んでいけたり、いろんな人たちが刺激を受けてくれて、それぞれの作品に生かし、沖縄の宝を再構築してくれた。そのことが嬉しいんです。一緒にサトウキビを刈り取りに行ったりもします。そういう風にシェアできることも、僕らの面白い立ち位置なのかな」

これからのタイムレスチョコレートにどんなストーリーが展開していきそうか、林さんに伺ってみた。

「沖縄はいろいろな文化が混ざり合うし、世界中から旅に来る人もいるじゃないですか。サトウキビがこんなに面白いことがもっと世界に広まったらいいなと思います。もっと深掘りしたいのは、沖縄でのカカオの栽培。今もやってはいる状態なんですけど、ビニールハウスじゃなくて自然の状態で育てたカカオをいつか見てみたいですね。実際に収穫できるまではかなり時間がかかるんですけど(笑)」

栽培には自然環境の影響も大きい。気候温暖化の影響も考慮しつつ、沖縄のこんな未来を想像中だ。

「地球温暖化のいい部分を考えてみると、たとえば100年後に気温が上がったとすると、今まで作れなかったものが作れるようになるので、沖縄でカカオが育つようになる。自然交配でずっと生きてきた種を継いでいくと、その土地に特化したDNAが成長してくるので、沖縄県産のカカオができるかもしれない」

「もしかしたら50年後は『沖縄といえばチョコだよね。溶けやすいけどさ』みたいな(笑)。何かそんな風になったら面白いな」

時代や環境が変わっても、昔ながらの製法のサトウキビを受け継ぎつつ、新しい価値は生まれてくる。タイムレスチョコレートで沖縄の伝統とこれからの可能性を感じてみてほしい。

タイムレスチョコレート

タイムレスチョコレート インスタグラム

この記事の連載

この記事の連載

TOPへ戻る