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父娘の“楽しむ農業”で受賞歴多数「お米をいじめる」に隠れた努力【みつわ農園】

飛騨市のみつわ農園は、父と娘の絆で美味しいお米を育てる実力派。米・食味分析鑑定コンクール国際大会では11年連続で賞を受賞中で、お米日本一コンテストinしずおかでは特別最高金賞に輝いたことも。みつわ農園のお米は、ふるさと納税やネットショップでも人気が高く全国各地にファンがいる。代表取締役の畠中望さんが目指すのは、飛騨コシヒカリのブランディングと農家の地位向上。お米づくりで大切にしている想い、地域のために取り組んでいるチャレンジを畠中さんに語ってもらった。

コンクール連続受賞の秘訣は楽しむ農業

「稲刈りする時は、お米の声を聞く」とは、みつわ農園の創業者であり畠中さんの父の言葉。元々は建設業を営んでいた経営者だが、知り合いから誘われて農業を始めることを決意したという。

「父は農業の知識を持っていなかったんですが、探求心とこだわりと負けん気はすごい。だからこうやって結果が残せてるし、形になってるんだと思います」

みつわ農園がお米の生産を始めてから十数年。全国から5000点以上のお米が集まる「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」では11年連続で賞を受賞するなど、専門家からの評価のお墨付きだ。

「お米づくりを始めた一年目に、和仁農園さんからお米のレシピを教えていただきました。レシピ通りに作って良いお米ができましたが、人の真似では面白くない。それに、レシピと同じものができるかと言ったらそうじゃないんですよね」

「天気も水温も毎年違うし、そうなってくると同じレシピでは作れない。いろいろなことを変えていくしかなくて、それの繰り返しですね。それが農業の楽しさと辛さです」

みつわ農園ではコシヒカリやミルキークイーン、若玄米(緑色玄米)などを生産中。自然相手の農業は思い通りにいかないことも多い。それでも安定的に品質の高いお米を育てられるのには、どんな秘訣があるのだろう。

「オリジナル配合の農薬も、父の勘とこだわりが大きいかもしれません。『あれを減らしたらどんな風になるだろう。これを増やしたらどう育つだろう』と、足し算と引き算をしています。他の農家さんとよく情報交換するんですが、やっていることは大して変わらないんです。6人で500枚超えの田んぼを見ているため、できていないことも多いんですよ。『お米をいじめるのよ』と父はよく言っています(笑)」

みつわ農園では栽培技術や農薬へのこだわりのほか、お米と向き合う姿勢も大切にしている。

「まずは楽しむことが大事。『怒って料理をすると料理が辛くなるように、楽しんで農業をすればお米だって生き物だから応えてくれる』という父の言葉が私には一番響いたので、ずっと残していきたい考えですね」

思いがけず代表就任、頑張り続けられる理由とは

「小さい頃からお父さん子」だと語る畠中さん。Uターンでみつわ農園に就職してからも、父親と過ごす時間を大切にしてきた。

「私がみつわ農園に入ったのは、出産してまだ子どもが小さかった頃。仕事にまともに行けなくて、お小遣い稼ぎをさせてもらうために、父のお手伝いとしてバイトから始めました。一番下の子が小学校に上がったタイミングで、正社員として雇ってほしいと頼んだんです」

家業に入って育児との両立を目指していた頃、働き方を変える出来事が起きた。

「(みつわ農園の)代表だった母が倒れてしまったので、私がところてんのように押し出されました。父は土建業の代表をやっているので、農園は私にということで3年前に代表になったんです」

急転直下の代表就任。戸惑いは大きかったという。

「農業は好きですし自分の性分に合っていると思いますが、代表は本当にやりたくなかったですね。従業員も私の家族もいるし、背負うことが怖くて。だけどそんなことも言ってられなかったです。母はくも膜下出血で亡くなったので引き継ぎゼロで、わからないことをやらなきゃいけなくなりました」

「特にお金の計算をしなくちゃいけなくなりましたが、私が一番苦手とする分野でした」

現在のみつわ農園は従業員も増え、6人体制で美味しいお米づくりに精を出している。

「この3年間は常に余裕がなくてがむしゃらでした。覚えることばかりな毎日です。突っ走って来られたのは、父が褒めてくれるかもという気持ちがあったからかな(笑)」

実らせたい “飛騨コシヒカリ”確立の夢

お米農家の代表として経験を積んできた畠中さん。目指しているもののひとつに、飛騨地域のブランディングがある。

「元々うちはコシヒカリだけを作っていたんですが、今は4銘柄まで増やしました。コシヒカリ、にこまる、ミルキークイーン、ひとめぼれです。いろいろなお米を求めてくれる方がたくさんいるので、それに応えられるような面白いものを作っていきたいですね」

新しい銘柄にチャレンジすると共に、長年続けてきたコシヒカリでも付加価値創造を狙っている。

「飛騨地域では、飛騨コシヒカリを魚沼コシヒカリのようにするという課題を抱えています。飛騨コシヒカリとは飛騨地方で作られたコシヒカリです。いつかは『お米といえば飛騨コシヒカリ』という夢を持っています」

飛騨コシヒカリの味わいは、強い甘味と噛めば噛むほど出てくる旨味。炊き上がりのツヤを見ていると食欲がそそられる。

「まずは飛騨コシヒカリを地元の方に知ってもらって、もっと底上げをしなくちゃいけないですね。お米農家さんたちに良いお米を作っている自信を持ってもらい、世に出していってほしいと思います」

かつては畠中さんも、お米農家としての自信を持ててはいなかった一人。美味しいお米を育てているという自信ができたのは、ヒダカラとの出会いがきっかけだった。

ヒダカラは飛騨地方のふるさと納税事業支援などを行う地域商社。創業者の舩坂香菜子さんは楽天出身で、出向で飛騨市役所にやってきた。その後ヒダカラを創業し、たくさんの事業者をサポートしている。

「私たちを助けてくれているのがヒダカラさんです。この田舎でどんな風にお米を売っていけばいいのか、農家さんはそこが怖いと思うんですよ。この辺りは本当に田舎で、古古米を食べている農家さんもいるくらいお米の売り方がわからない。ヒダカラさんは飛騨のお米がもっと世に出るように、いろいろな人に声をかけてくれています」

ヒダカラと一緒にふるさと納税出品やネットショップにチャレンジした畠中さん。注文が入るにつれて、全国にみつわ農園のお米のファンがいることを実感。そうした経験はかけがえのない経験になったという。

飛騨のお米農家に自信と明るい未来を

若い頃は飛騨を離れていた畠中さんだが、今では飛騨コシヒカリのブランディングに燃えるほどの地元愛を抱いている。畠中さんから見える飛騨はどんな地域なのだろう。

「飛騨は気候や空気、水などの環境が整っていてなんでも美味しいです。人も良いんですよ」

地域が持つ恵みが豊かな一方で、お米農家として感じる課題もあるそう。飛騨地域は観光地としては人気が高いが、人口減少による耕作放棄地増加が発生しているからだ。

「耕作放棄地が増えると、獣が入ったり草が生い茂ったりします。景観も悪くなりますし、種が飛んでしまうんです。なるべく水を張ったり、後継者がいないお年寄りから田んぼを頼まれたらお世話しています。ですがうちだけでは人手不足で回らなくて、ギリギリのところで受けている状態です」

お米農家として切実に感じている地域課題。畠中さんは自分にできることは何か模索を始めた。

「地方の弱い農家さんがどんどんなくなるのが嫌なのですが、後継者不足や担い手不足が問題になってきている中で限界に来ています。そこで問屋化という夢を思い描くようになりました。お米は山ほどあるけれど、もっと流さないと利益が生まれない。そこで問屋化して飛騨の良いお米を集めて、ちゃんと世に出したいと考えたんです」

「2年前位に飛騨市役所農業振興課の方に、問屋化の夢を語りました。そこからあーだこーだと話をしているのですが(笑)、問題がいろいろ出てきています。何が生産者にとって一番良くて、買い取る問屋としてもwin-winなのか。飛騨市には『食のまちづくり推進課』があるので、そちらでもちょこっとずつ話をしています」

農家の元気がなくなると、地域全体が落ち込んでしまう。地域活性にもつながる問屋化の夢に向けて、現在地点はどの辺りか聞いてみた。

「まだ全然(笑)!100%に対して10%位です。良いものを作っている農家さんを認知してもらい、底上げになればと思います。どうしようかと、わちゃわちゃしてる感じですね」

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