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コロンバンが都心で「はちみつ」を作り続ける理由【原宿はちみつ】

株式会社コロンバンは1924(大正13)年に創業した老舗洋菓子メーカーだ。

創業者の門倉國輝(​​かどくら・くにてる)は、日本人ではじめてフランス菓子の製造法を極めた人物。現代に浸透した定番ケーキのひとつ、スポンジケーキに生クリームを施していちごを飾った、あのショートケーキを作った人物とされている。

代々木公園からほど近くにある渋谷コロンバンビルの屋上では、2011年から都市型養蜂をスタートさせた。この地で採蜜された「原宿はちみつ」に注目が集まっている。

今回は、同社で養蜂を担当している河辺穂奈美(かわべ・ほなみ)さんと北村優佳(きたむら・ゆか)さんにお話しを伺った。

養蜂で原宿に「恩返し」

屋上の一角に並べられた巣箱の数々。ここにコロンバンの養蜂場が設けられている。

同社の養蜂事業が始まったのは、今から12年前の2010年5月のこと。

自然環境と原宿の地域に恩返しでき、かつ同社の企業理念のひとつ「社会貢献」につながることから、創業85周年の記念事業として養蜂をはじめた。

当初は養蜂に詳しい社員がいなかったため、社長の小澤俊文(おざわ・としふみ)さんが、以前から親交があった中目黒のミツバチ産業株式会社の方からアドバイスをいただく形でスタート。

翌年からは、ミツバチ研究で有名な玉川大学から入社した社員によって、少しずつ拡大していったという。

以前は、渋谷区神宮前にあったコロンバン原宿本店サロンの屋上でも養蜂をしていた。しかし、神宮前六丁目の再開発に伴い建物が取り壊しとなり、サロンも一時閉店。原宿屋上のミツバチたちも2020年2月からは、ここ渋谷コロンバンビルの屋上に移転してきた。

「作業をはじめる前に燻煙器で煙を起こします。煙をかけると、ミツバチがおとなしくなる習性があるんです」そう話すのは2016年に入社した河辺穂奈美さん。

愛知県出身の河辺さんは、地元・岐阜大学応用生物科学部(旧農学部)在学中に昆虫と花の関係を研究するようになり、大学院卒業後は玉川大学の教授の紹介で同社に入社した。

2020年には、玉川大学でミツバチの研究をしていた北村優佳さんが入社。

現在は河辺さんと北村さんの2名が、養蜂担当として従事している。

「原宿はちみつ」ができるまで

主な作業は、巣箱のひとつひとつを開いて女王蜂がいるか、産卵されているか、幼虫が育っているかを週に2回確認すること。4月〜7月の採蜜シーズンには、はちみつの貯まり具合も確認する。

今年の採蜜が終わり来年にむけて蜂(群)を育てている9月現在、巣箱は全部で16箱。箱の中には、巣の基となる巣板が最大9枚入っていて、季節により増減するがひとつの箱の中に約1万匹〜1万5千匹、全体で約20万匹のミツバチを養蜂している。

巣板には「ハニカム構造」と呼ばれる六角形の穴にミツバチがひしめき合っていた。

写真上部の膜がついている部分は「蜜ブタ」と呼ばれ、中は食べられる状態まで濃縮されたハチミツがたっぷり入っている。

その一方、蓋がついてない穴は、花から採ってきた蜜がそのまま入っている状態でまだ水分量が多く、濃縮されていない。

1つの巣箱につき、1匹の女王蜂がいる。他のミツバチよりも2倍近く大きい蜂が女王蜂だ。

「都心で養蜂する際は、地域の方々から理解を得るのも大切です。春先には新しい女王蜂が誕生し、古い女王蜂と巣の中にいる半分の働き蜂が他の場所に飛んでいって新しい巣を作る『分蜂(ぶんぽう)』が行われます。その過程で近隣の方に迷惑がかからないように、管理を徹底しています」(河辺さん)

都心での養蜂は、熊やイノシシなどの獣害や、畑で使われている農薬の影響がなく安全面が確保されているのが大きな利点だ。その一方で、屋根のない屋上で養蜂しているため、真夏は簾や打ち水などで暑さを凌ぐ工夫が必要になる。

「採蜜と同じくらい越冬を大事にしています。冬眠しないミツバチをしっかりと越冬させて、次の年も同じミツバチがはちみつを採れるように、秋以降は採蜜せずにミツバチのために残しています」(河辺さん)

秋のシーズンは天敵のオオスズメバチが来たり、ミツバチに寄生するダニの対応をしたりなど、養蜂作業は年間を通して多岐にわたっている。

季節の移ろいを表した「原宿はちみつ」

コロンバンでは、毎年4月から7月に採蜜を行っている。

「巣箱から半径2〜3kmがミツバチの活動範囲になってます。すぐ近くの代々木公園や明治神宮、新宿御苑、赤坂御所、青山公園などに咲いている、その時期で一番良い草花や木々の花から蜜を集めてくるんです」(河辺さん)

住宅やビルが多い印象の東京都心だが、近くにこれだけ緑が多いエリアは他では見当たらない。原宿・渋谷エリアは、都心で養蜂するにはうってつけの地域なのだ。

採蜜は早朝7時の晴天時に行われる。日中以降ではミツバチたちの活動が進み、はちみつが薄まってしまうためだ。

蜜刀で蜜ブタを切り取り、専用の遠心分離機に巣板をセットして40回ほど回せば、自家製のはちみつが出来上がる。

採蜜されたはちみつは、いろいろな花の蜜が混ざり合わさった「百花蜜(ひゃっかみつ)」と呼ばれる。

採れたはちみつの瓶を季節ごとに並べてみると、4月はレモン色のように淡い黄色だ。夏に近づくに連れて、濃いオレンジ色に変化していく。

「春先の蜜源には桜などがあり、採れたてはまるで香水を食べているかのように華やかな香りがします。5月に入ると香りがまろやかになってやさしい甘さに。夏に近づくとハーブ系が咲いてくるので、スパイシーな香りが特徴です」(河辺さん)

河辺さんのおすすめは、6月下旬頃のちょっとスパイシーさが入ったはちみつ。北村さんは、花の香りが強い春のはちみつが好みだという。同じ場所で採蜜したはちみつでも、香りや味がまったく違うことに驚く。

はちみつの色合いのグラデーションは、東京の季節の移ろいをそのまま映し出していた。

採蜜するはちみつの量は年間約250kg。

百花蜜は季節によって味わいが違うことから、商品によっては使用するはちみつを変えているそう。しかし、そのすべてが「原宿はちみつ」として、生はちみつやプリン、バウムクーヘン、プレミアムマーブルケーキなど、同社の製品に使用されている。

「原宿はちみつ」の芳醇な香りと濃厚な甘みが、商品全体を包み込む。都心で採れるはちみつを使用すると、味わいがこんなに違うのかと筆者は思わず感動してしまった。

「自分たちで養蜂して、はちみつをお菓子に使うのも、もともと素材へのこだわりがあったから。他にも海老名には自社農園で農薬を使用せず野菜を育てたりと、安心・安全を保つために素材ひとつひとつにこだわっています」(河辺さん)

養蜂と環境を守ることをもっと伝えていきたい

今年で13年目を迎えたコロンバンの養蜂。その活動が認められ「東京都地域特産品認証食品」や、農林水産省が進める「ニッポンフードシフト」の東京都代表に選ばれるなど、着実に多くの人に知られることとなった。

現在は、新たに養蜂をはじめたい方や、親子向けに見学を受け付けているほか、講演会やワークショップを通じて、養蜂や環境保全を広める活動も同時に行っている。
このように養蜂に関わったことがない人たちとつながることができるのも、都市型養蜂の利点のひとつと言えよう。

「せっかく都会でやっているので、ミツバチや養蜂の情報をもっと発信していきたいと思います」と北村さん。

インスタグラムもお二人で撮影・投稿していて、外を歩いている時にミツバチが目の前を通ると、思わず後を追ってしまうこともあるそうだ。

河辺さんは「長く続けることが目標です。創業100周年を迎える2024年には、また原宿エリアで養蜂したいですね」と今後の展望を力強く話していた。

コロンバンは「原宿はちみつ」を通して、養蜂と環境を守ることの大切さを東京から発信する、新たな「都市型養蜂」の形に挑み続けている。

洋菓子舗コロンバン生はちみつとはちみつプリン2個セット

(画像一部提供:株式会社コロンバン)

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