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徳島県には何もない?“今残すべきもの”を集めた『めぐる、』誌

地方の発信力が高まり、個性的なローカルメディアがここ数年で増えている。徳島の『めぐる、』もその一つ。2021年開催の「日本地域情報コンテンツ大賞」では大賞と隈健吾特別賞をW受賞し、県外からもさらなる注目を集めている。2020年の創刊から「紙で伝える」「おもてなしの舞台裏」「商いは飽きない」「直して使う」……などユニークな特集を展開してきた『めぐる、』。一般的なタウン誌としては情報量は少なく、価格も高い。発行元の「あわわ」は、徳島市で創業40年以上という出版社。いわゆる情報重視のタウン誌を多数発行してきた同社ゆえ、創刊時にはその意外性が地元では話題になった。『めぐる、』はどのようにして生まれたのか?この形態で発信をつづける意味は?媒体の生みの親であり事業マネージャーである小山亜紀さんと編集長の徳原香さんに、その想いを伺った。

物質に頼らない大切なもの

「アットホームな雰囲気」「レトロな喫茶店」といった、どこかで見たことのある常套句が『めぐる、』には出てこない。代わりに、例えばとある喫茶店で常連さんによって繰り広げられる会話が丁寧に綴られている。たとえ巻頭企画でなくても、記事は最低でも2ページ、多い時には6ページを割く。一見タイトルだけでは結論がわかりにくいが、文章を読めば読むほど町や人の風景が身体に染み入るように伝わってくる。読了後もしみじみ反芻する楽しみがある。『めぐる、』が物事の文脈や背景に重きをおいているのには、こんな理由があると小山さんは言う。

「徳島をつまらない・何もないと感じている地元の方も少なくありません。そうした方々が、徳島の豊かさに気づいて、徳島の魅力を自分の言葉で語ってほしい、という思いがあります。何もない、の『何』というのは、ショッピングモールやアミューズメントパークなど物質的なものを指しているなと。徳島には豊かな山も川も海もあり、あることだらけ。また大手チェーンが少ないことも、街の景観や郷土の文化が残っている要因のひとつだと思います」

小山さんは徳島市内出身で、実家は標高約300mの眉山のほど近く。郡部に比べて自然は少ないが、それでも朝は野鳥の鳴き声で賑わい、美しい水の絶えない湧き水群があり、イタチや猪も時折姿を見せる。畑や家庭菜園も多く、お裾分けをし合うこともしょっちゅうある。京都で過ごした大学時代に、小山さんはその豊かさを改めて感じたという。

「観光客が急に増え市民が市バスに乗れないといったことが起こり始めた頃でした。観光資源としての価値と地域住人の住みやすさのバランスを取ることの重要性。そんな世界を間近で見た時、徳島の日常のインフラがいかに豊かか、ということに気づきました」

町の変化や気づきが特集になる

通常こうした媒体では編集会議があり、そこで採用された企画だけが実現する。一方、スタッフが少人数の『めぐる、』ではわざわざ会議を開かず、特集やネタは雑談で決まるのだと徳原さん。

「Chatwork(コミュニケーションアプリ)を使って、最近感じた町の変化や気になることを思い思いに上げていきます。最近こういうの増えてない?減ってない?など、どんなことでも構いません。雑談がある程度溜まってきたら、そこから特集が生まれることもありますし、特集が決まっていればネタを抽出してまとめます」

例えば創刊の「喫茶店」特集は、「徳島の喫茶っていいよね」と県外の人に褒められることが意外と多い、という気づきが発端となった。「そうなの?」と2人とも最初は半信半疑だったものの、リサーチを重ねていくと、個人店がそれぞれ頑張っている現状が見えてきた。小山さんは言う。

「それまで、喫茶店は自家焙煎が当たり前だと思っていたんです。徳島では店主が豆の買い付けに行ったり、焙煎にこだわるお店が多い。それは他県では珍しいと知り、なんて豊かな喫茶文化なんだろうと驚きました」

経済至上主義への疑問

そうした些細な気づきから生まれるコンテンツは、これまで2人が手がけてきた広告収入で成り立つ媒体とは180度異なる。入社して約20年、ほとんど広告営業畑だった小山さんは、従来の情報誌の在り方に疑問を感じるようになっていったと自身の葛藤を振り返る。

「もちろんクライアント様は大事ですし、役に立ちたいと思いながら本を作っていましたが、広告を出稿いただくには商品やサービスが売れる必要があるので、読者の消費をいかに促すかを追求した誌面作りが求められます。そこで優先されるのは、新しいニュースやお得情報が載っていること、また媒体の安さや情報量の多さなどです。そうした情報誌を作りながらも、賞味期限のない情報に特化した媒体を作る手立てはないかと、ずっと考えていました」

当時、小山さんは入社歴10年。30代になり、普遍的なものに価値を見出すようになっていた。加えて2011年には東日本大震災もあり、世間全体で生き方の見直しが起きた頃。「今思えば、人としての本質を大事にしなきゃいけないと気づいた時期なのかも」と小山さん。

そこで小山さんは社長に直談判し、2019年に地域編集室という名で1人部署を立ち上げることに。目的は、地域と密接に関わりながら、徳島の“今残すべきもの”を集めて媒体を作ること。同年6月に別のタウン誌で編集長だった徳原さんを誘い、翌年、創刊に至った。こうした媒体を発行するのは、同社では初めての試みだった。

「知りたい」「守りたい」気持ちから生まれる消費

『めぐる、』は隔月発行で8000部。気になるのは、いくら経済至上主義ではないといえども、媒体制作にはお金がかかる。現状は、資金は別の事業を柱にしているという。

「資金を別軸でまかなう方法については、かなり前から模索していました。2016年にこれまで会社が手薄だった行政営業に本格的に着手し、そこでお仕事をいただけたことで、継続した収入の目処がつきました」

だが、今後は『めぐる、』でも自走できる体制を整えていきたいと小山さんは続ける。消費を生むこと自体は悪いことではない。大事なのは、そこへの「道筋」だと小山さんは言う。

「『めぐる、』を通じて消費が生まれたら、これ以上嬉しいことはありません。例えばあるお店が『お得だから』『新しいから』ではなくて、なぜこれほど続いてきたのか、どういうことを大事にされているご主人なのか、というのを『知るため』『守るため』にお店に行きたい。結果、そこで消費が生まれる。媒体を通じて、そんな循環が生まれてほしいです」

『めぐる、』の巻頭には、それが図解で描かれている。「本」や「ウェブ」での発信と同等に、「寄り合い」や「小商い」の項目がある。地域の方と交流を深め(寄り合い)、そこで出た話を媒体にまとめたり、商品として販売(小商い)する、といったことだ。その第一歩として、編集部では現在上勝町の名産であり作り手が減っている上勝阿波晩茶を作り、イベントがあれば本と一緒に手売りしている。

「茶摘みから発酵から乾燥まで、一連の工程を教えてもらいながらやらせいただいて。今はまだ編集部や活動の現金収入までは至っていませんが、こうした地域の良いものを残していく活動は今後もっと力を入れていきたいです」(小山さん)

ローカルメディアを軸に、土地の魅力を未来に残す。そこで生まれるのはお金だけではなく、人、物、物語の循環。その流れはゆっくりではあるが着実に、多くの人の心に、波紋のように届いていくはず。

写真 生津勝隆

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