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地域と若者の“よき隣人”として「実践教育を行う」調理学校【ザ・キッチン プラットフォーム】

2022年4月、福島県唯一の調理専門学校である学校法人永和学園が、郡山市安積町に「THE KITCHEN PLATFORM(ザ・キッチン プラットフォーム)」をオープンさせた。コンセプトは「グッドネイバー(よき隣人)」。地域に根差しながら食の可能性を発掘するほか、未来の料理人育成にも力を入れている。目指すのは、食とビジネスの融合。THEが挑むチャレンジについて、鹿野正道校長にお話を伺った。

「THE KITCHEN PLATFOME」で深まる食の楽しみ

プロの料理人を夢見る人も純粋に食を楽しみたい人も、是非「THE KITCHEN PLATFOME(以下、THE)」を訪れてみてほしい。

1階には本格派レストラン「THE RESTAURANT」があり、ランチ、ディナーをコースで楽しめる「THE Ca marche」、洋菓子店「THE PATTISSERIE」などの店舗が並ぶ。カフェやバーでほっと一息ついたり、グローサリーで地域の食材などを購入できるのもうれしい。

「THE Ca marche」の鈴木眞雄シェフは郡山市出身の料理人。青山の名店「KIHACHI」で総料理長を務めたほどの腕前の持ち主だ。「ここを福島県や東北を代表するグランメゾンにしたい」と鹿野校長が語るように、現在はミシュラン一つ星獲得を目指している。

2階に設けられたのは、調理師学校のカフェテリア(学食)や調理実習スペース。キッチンスタジオでは調理のほか、料理動画の配信や料理教室開催も可能で、時代のニーズに応えた設計となっている。

「キッチンスタジオは一般の方も利用できるんですよ。仲間と集まって料理するのもいいですし、食に関する商品開発にチャレンジしてみてほしいです」と鹿野校長。

ブログや動画配信、キッチンカーなど飲食分野のビジネスはどんどん身近になっている。店舗を持たずともビジネスを始めることができるが、充実した設備さえあればよりハイクオリティなビジネス展開の夢も描ける。

THEのロールモデルとなったのは、シェアキッチンや食のビジネス支援を事業とするニューヨーク「ユニオンキッキン」など。海外の施設や設備を研究し、日本の調理師学校の考え方とリンクさせたそう。食にまつわる「作る/学ぶ/食べる/楽しむ/体験する/はじめる/共有する」は、すべてここで体感できる。まさにキッチンプラットフォームなのだ。

THEは食べることも作ることも楽しめる施設だが、料理人としての技術を磨く学びの場でもある。対象となるのは、調理師を養成する高校や専門学校を卒業した生徒。入学すると「スタジエ」という名の研修生となり、指導を受けながら食の研究と実践を重ねていく。

「たとえば調理師学校の卒業生で独立開業したい子がいた場合、いきなりすべてを準備するのは大変。自分でやるには設備にお金をかけて投資しなきゃいけませんが、開業前にここで試すことができます。ポップアップやレンタルレストランをやってみて、飲食店の経営を実践で勉強してもらうんです。そうすると、もっと勉強しなくちゃいけないことに気付けます」

実践に近い環境で、開業に向けたブラッシュアップができるのは貴重な経験になるはず。ただし施設のサポートはあくまで場所を貸すこと。集客、調理、接客、全体の運営などは自分で行わなければいけない。しっかりと自分の力を試すことができるのだ。

若き料理人のドロップアウトに歯止めを

食のプラットフォームを考案する中で重視されたのが、調理師のキャリアプランを守ること。鹿野校長たちは数多くの卒業生を社会に送り出す中、こうした施設のニーズを痛感していたという。

「調理師学校のカリキュラムは、衛生・栄養・法規等を学び、基本調理から応用調理を限られた時間の中で行います。私も調理師学校を卒業して現場に入り、経験の中から調理師学校の大切さと、現場でのギャップの両方を感じました。そこでフランス・アメリカ・スペインなどの料理学校の仕組みを学び、実践も学べる環境で現場感覚も取り入れたカリキュラムで学んでもらってから送り出したいのです。」

学校で学んだ知識や技術が現場で役に立たないというギャップ。夢破れて早々にドロップアウトする若者も多いという。

「調理師免許を取得できても、学校では実戦経験が足りない。我々はその課題感を持っていたので、現場に行く前にもう一年間勉強できるようにしたんです。THEはそのための学びの場所で、調理師学校を出た後の次のステップ。今までなら修行という名のもと現場で経験するしかなかったことを、THEでは実践経験を積みながら勉強できます」

食に関する研究と実践をサポートするTHEは、調理師を目指す人にとって大学院のような環境だ。

トライ&エラーを応援するコーチング

THEでは独自のカリキュラムに沿って、スタジエが必須の基本料理やお菓子が作れるように指導する。現在は卒業生の協力を得て、カリキュラムを検証中だという。

「たとえばうちの調理師学校の学食で出すメニューは、スタジエに作らせるんです。現場に出たらお客さんのために料理を作りますよね。ここではお店に入る前の途中のステップとして、学食で基本的なメニューを繰り返し作らせて、商品レベルの料理を作れるように指導していきます」

調理師学校ではさまざまな料理を作る機会があり、安心・安全な調理のための知識は身に付く。ただしそれが即戦力に直結するとは限らない。スタジエの研修期間で実践を積むと、社会に出てから何が必要とされるかが見えてくるそう。

「できるようになることよりも、『どれだけ自分ができないか』ということに気付くことが重要。先日、検証に参加している生徒が目玉焼きを載せたハンバーグを作っていたんですよ。単純な料理ですが、学食で調理する量は30食から40食分ほど。一人分焼くのと何十人分も焼くのは同じようにはいきません。フライパンの温度帯も違ってきます。『目玉焼きを焼くのって難しいんですね。自分で焼けないとは思っていませんでした』と生徒も言っていました」

「一回作っただけで料理が完璧に作れるようになるなら、勉強はいらないんです。現場では、同じ料理を何百個も作る経験がやっぱり求められます。1個目と30個目のクオリティが違うわけにもいきません。常に80点以上のものを必ず作れるようになるには、同じことを何度も繰り返しやらないと」

繰り返し練習できる場は、意外とそれほど多くない。だからこそTHEのような、教育と現場が融合した空間が必要なのかもしれない。

「できないことに気付いたら、どうすればいいかを考えてここで実践していけばいいんです。我々の役割は上から目線で指導することではなく、コーチングしていくこと。あくまで寄り添う形で、段階を踏んで進んでいってもらいます」

現場で必要なスキルを磨く場を提供することで、調理師を目指す人とお店のミスマッチも防ぐ。THEは、調理師のキャリアプラン実現のためのトライ&エラーができる場所なのだ。

福島の「よき隣人」としてのグランメゾン

THE Ca marche のランチメニューは3,500円(税別) と5,000円(税別) のコース。オープンしたばかりだが、感度の高い人などが集まり料理に舌鼓を打っている。ディナーコースは10,000円(税別) と18,000円(税別)の二種類。旬の食材や地域の名産品が、鈴木シェフの手によって絶品料理へと生まれ変わる。ワインなどをお供にすれば、また格別の味わいだ。

目指すは東北を代表するグランメゾン。高級レストランは東京に集中しがちだが、安積町にグランメゾンを作ろうとしたのにはこんな理由がある。

「郡山はウェルカムな街で、いろいろなご縁が生まれる地域。ですが地元の方の多くは、東京の方がいいと思っているみたいなんです。距離も近いじゃないですか。地域にレストランがどれだけあっても、東京に行ってしまう。地元でお金を使わずに東京に行ってお金を使うという流れがあるんです。でもうちに来たお客さんは『東京に行かなくてもいいよね』と言ってくださっています。『東京に行かなくても、ここで同じクオリティのもの、またはそれ以上のものを食べられるじゃないか』と。」

THEが生まれたことによって、安積町で食のカルチャーがダイナミックな動きを見せ始めた。そのチャレンジがどんな未来を描くかはまだまだこれから。

「料理のクオリティは高いので、来てくださったお客様はリピートする可能性が高いんです。ですがサービスを含めて、全体の部分でのクオリティにはまだまだ伸びしろがある。我々もマーケティングをいかに進めてブランディングできるかが一つの掛け。課題を一歩一歩乗り越えてやっていきます」

安積町に生まれたグッドネイバーは、誠実な食を提供してくれる。ここで腕を磨いていくであろうスタジエの成長も待ち遠しい。

「THEは食のプラットフォームですから、シェフが一人で料理を作るレストランをやってもいいでしょうし、チームで作るレストランがあってもいい。自分の個性や向き不向きに合わせて実践することができます。スタジエという新しい考え方で、地域と一緒に料理人を育成していきたいですね」

THE KITCHEN PLATFORMは、JR東北本線安積永盛駅が最寄駅。地元の人はもちろん、郡山に遊びに来た人が食を楽しむのにぴったりだ。料理が好きな人や食のビジネスにチャレンジしたい人も大歓迎。THEで作って食べて学んで、食の楽しみを余すことなく堪能してみよう。

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