読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

「自治体ができないことを実現」移住者視点での地方活性化法【オフィスくりおこ】

新千歳航空から車で約50分ほどの位置にあり、札幌からもほど近い町「栗山町」。
農業が盛んで、春はアスパラガス、夏はとうもろこしやメロン、秋は玉ねぎなど、北海道らしい農作物が豊富に収穫される自然豊かな町だ。
だが、地方都市の例に漏れず急激な過疎化が進んでおり、20年後には町の人口が現在の約半数まで減少するだろうと言われている。

駅前の商店街も客足が少なく寂しい印象だが、そんな中、同地に1軒のカフェバルが誕生した。
クラウドファンディングを経て完成した地域密着型のお店「cafe&bar くりとくら」。
運営するのは、移住者が立ち上げた地域総合商社「オフィスくりおこ」だ。

今、このお店をきっかけに、栗山町に少しずつ変化が起こり始めている。
移住者だからこその視点で地方創生に取り組むオフィスくりおこのメンバーに、これまでの経緯と今後のビジョンを伺うべく、お店を訪ねた。

このまま住み続けたいと思えた町

「コミュニティの場となるスペースが作りたかった」と語るのはオフィスくりおこの代表・石井翔馬さん。埼玉県からの移住者だ。

管理栄養士の資格を持ち、都内の病院や飲食店などで働いていた石井さん。昔から北海道が好きで移住を検討していたところ、栗山町が地域おこし協力隊を募集していることを知り、迷うことなくすぐ応募した。

「任期中はふるさと納税のPRや町の知名度アップの活動などに取り組んでいました。任期は3年間ですが、早い段階から任期終了後のことを考えていましたね」

憧れの地、北海道。自然豊かな環境ながら、ほどよく便利さもある栗山町。地域おこし協力隊として活動するなかで出会った、優しい町の人たち。地元産の美味しい農産物。やりがいを感じる地方創生の仕事。
そのすべてが魅力的で、「このまま栗山町で生活したい」自然とそう考えていたという。

だが問題がひとつ。任期を終えた後、収入を得る手段が無かった。

「無ければつくればいい、ということで、栗山町で起業することにしたんです」

地域活性化の拠点となるスペースづくり

石井さんは、同じく地域おこし協力隊のメンバーだった高橋毅さんとともに事業計画を練り始めた。まずは、栗山町に住み始めて感じていた問題点を洗い出す。

・ 地場産の食材を食べられるお店が少ない
・ 町外から遊びに来てくれた人が宿泊できる宿が少ない
・ 若者が食事の後にもう少し飲みたいと思っても行けるお店がない
・ 栗山町に興味を持ってくれた人がいても働ける場所がない

地域を盛り上げていくためには、若者がもっと活躍できる場、楽しめる場、繋がれる場が必要だ。そう考えた2人は合同会社オフィスくりおこを立ち上げ、「無ければつくろう」の精神で冒頭のクラウドファンディングに挑戦。
結果、約2週間というスピードで目標200%超えを達成した。

「飲食店がやりたいというより、栗山町の地域活性化の拠点となる場所がつくりたかった。だからこそ、店づくりは町民の方々に協力をお願いし、地域住民を巻き込んでやり遂げました」

内装デザインは町内のデザイナーさんに依頼し、建築資材や家具もできる限り町内のメーカーから調達。内壁の塗装や床づくりはワークショップを実施し、たくさんの町民に参加してもらったという。

「店づくりをしていた日々は今でも印象に残っています。町の人たちと一緒に作り上げたという実感があるので、本当に特別な場所になりました」

移住者の視点で捉えた問題点をひとつずつクリアにすべく、店の2階を改修して念願の宿泊施設「ゲストハウス くりとまる」もスタートさせた。

栗山町で獲れた食材を使った料理と、栗山町でつくられたお酒が味わえるお店。ここに、町内外の若者たちが集い、日々新たな出会いが生まれている。

情報を交換し合い、夢を語り合うスペースとして機能しているのだ。

町の潜在的なファンを増やすということ

この町で、どんどん存在感を増していますね、と語りかけると
「まだまだ小さな存在ですが、栗山町を知らない人たちにこの町のことを知ってもらうきっかけになりたい」と石井さん。

「友達が住んでいる町って、身近に感じますよね。知り合いがいるということが、その町に遊びに行く理由にもなる。栗山町のことも、そんな風に身近に感じてもらえれば」

観光客が増えることも大事だが、栗山町の関係人口……つまり、栗山町の潜在的なファンを全国に増やすことが目標なのだという。

ふるさと納税のパンフレット「KRYM」の制作も、その施策のひとつ。

ただのカタログにならないよう“人”にスポットを当て、より気軽に手に取ってもらえるよう雑誌風のデザインを意識。事業者の方々にはできるだけ顔出しで登場してもらい、この町や町民を身近に感じてもらえるように工夫した。

このパンフレットの制作を担当し、ふるさと納税業務やPR業務を主に担っているのが、オフィスくりおこの社員である金谷美咲さんだ。

実は、金谷さんは栗山町の出身。進学のため札幌に転出し、そのまま道内で旅行会社に就職した。だが社会人として生活を続けるなかで、地元栗山町のために働きたいという想いがだんだん強くなり、地域おこし協力隊に応募したのだという。

「外に出てみたことで地元の良さに改めて気づき、町に戻ってふるさと納税業務を担当したことでそれがより強くなりました。栗山町の自然も、その自然によって育まれる農産物も、当たり前のものだと思っていたけれど違ったんです」

ふるさと納税の返礼品を受け取った全国の寄付者の方々から届く、お礼の手紙や感想。栗山町産のものが届き、こんなにも喜んでくれている。目から鱗の体験だった。
できるだけ事業者さんのもとに直接足を運び、手紙の内容を伝え、交流を続けた。たくさん会話をするなかで、事業者さんの熱い想いも知ることができた。

「そこに本当にやりがいを感じて。天職だな、と思いましたね」と金谷さんは笑う。

実際、事業者さんと金谷さんの触れ合いを見ていると、まるで親子のような仲の良さ。しっかりと信頼関係が築かれていることが分かる。

「栗山町が本当に好きなので、今の仕事が楽しいです。町外の方々には栗山町にもっと興味を持ってもらいたいし、町民の方々にはこの町に誇りをもってもらいたい。そのお手伝いができれば」

最近はコロナ収束後に向け、旅行会社で働いていた経験を生かして栗山町とともに“栗山らしい”観光施策を練っている。農業体験、お祭り、フィールドワーク、レンタサイクルの整備……、どんな体験ができれば栗山町の良さを実感してもらえるか。

頭の中は、新たなチャレンジの構想でいっぱいだ。

地方創生のロールモデルとなる日を目指して

「オフィスくりおこは、自治体がやりたくてもできないことをやってみる人たちの集まり。素人でもやればできるんだ、という経験をこれからも積んでいきたいです」(金谷さん)

「今の時代、都会でないと新しいビジネスに挑戦できないなんてことはない。地方ならではの特性を生かし、得意分野にあわせた取り組みを考え、チャレンジしていくのみです」(石井さん)

石井さんと金谷さんは、この「くりとくら」を拠点に今後さまざまなイベントを企画中だという。これからのビジョンを語る2人の表情は、とてつもなく明るい。

自分たちの取り組みがいつか実を結び、地方創生のロールモデルとなる日が来れば……それが、石井さんの展望だ。
全国の自治体で「栗山モデル」が応用され、若者が地方で活躍できる未来。
来るべきそんな未来を目指し、オフィスくりおこの挑戦は続く。

Photo : 辻茂樹

この記事の連載

この記事の連載

TOPへ戻る