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「森が育つスピードに合わせて」必要以上に作らない家具メーカー【カンディハウス】

日本五大家具産地のひとつである北海道・旭川。

現在、旭川近郊地域に存在する家具メーカーは100社を超える。その中心を担うカンディハウスは、「旭川家具」を牽引する地場産業の最大手だ。

2018年に創業50周年を迎えた同社は、この先50年後を見据えたブランドの再構築(リブランディング)に取り組んでいる。

大量消費の時代から、本当に良いものを大切に長く使う時代へーー。コロナ禍による住環境の変化やSDGsの認知拡大で消費者の意識も変わり始めた今、カンディハウスが改めて考える「ものづくり」とは?

同社の製造本部 取締役本部長・吉田さんとデザイン企画本部・渡辺さんに、木製家具づくりにおける取り組みやこれからの地域産業が果たす役割、展望などを伺った。

創業の原点にある想いがリブランディングの核に

カンディハウスは、デザイナーでもあり家具職人でもあった長原實氏が1968年に創業した家具メーカーである。

創業当初から北海道・旭川でのものづくりと、日本の美意識を生かしたデザインにこだわり続け、早い段階から世界での販売展開に挑戦。今では日本各地にカンディハウスショップとアメリカ、ヨーロッパに現地法人を構え、アジア・オセアニアや南米への進出も進んでいる。

旭川市の隣、東川町で生まれ育った長原氏は、戦後の経済成長期が始まる1963年、旭川市の海外派遣技術研修制度により渡欧。当時デザイン大国であったドイツで3年半の修行を積んだ。

その際、日本から輸入された“北海道産のミズナラ”で製造された家具が、ヨーロッパの高級家具として日本に輸出されている事実を知り、衝撃を受けたという。

そこで疑問と憤りを感じ、「北海道の木材を使って北海道で家具をつくり、北海道から世界に輸出したい」と強く思ったことが起業のきっかけとなった。

今回のリブランディングの核にも、この想いがある。

『MADE IN HOKKAIDO』——象徴的なのが、再び北海道産材の使用比率を高める取り組みだ。

「家具製造につかう材料の9割以上が輸入木材でした。北海道の家具メーカーでありながら、さまざまな事情で道産材を主軸にできずにいたんです」(吉田さん)

大雪山系の森林に囲まれ、気候条件も相まって良質な木材の集積地でもあった北海道。

道産材は海外の家具メーカーや酒造メーカーにも注目され、ブナやナラなどの広葉樹材は特に高値で売れたこともあって急激に伐採が進行。家具づくりに使えるような、十分に育った木材が減少した。

小径材は、テーブルなどの天板に使うのは難しい。加工の工程も複雑になるからだ。その結果、創業当初は北海道産のミズナラなどを使っていた同社も、供給面やコスト面などの理由から輸入材に頼らざるを得なくなっていった。

しかし、化石燃料を使って海外から運ばれてきた木材を使うことは環境への不可も大きい。加工し、さらにそれを再び海外へと輸出することは、輸送エネルギーを二重に消費することになる。

天然資源である木を使う企業だからこそ、地球環境への配慮は重要課題。そう考え、「地元の素材と技術を生かした製品づくり」という創業の原点に立ち戻った。

今こそ、この課題に取り組まなければいけない。

その考えのもと、リブランディングの柱のひとつとなった。

「ここの木の家具・北海道プロジェクト」発足

道産材の使用率を高めるきっかけのひとつになったのが、旭川家具工業協同組合が8年前に発足した「ここの木の家具・北海道プロジェクト」だ。

カバ、ナラ、タモ、クルミ、サクラ、イタヤカエデなどの樹種を使った家具で、木部の外観表面の80%以上が北海道で伐採された広葉樹であるものを『ここの木の家具』と定義。各メーカー共通でクマのイラストのある黄色いタグを付け、「北海道産の木材を使った旭川家具」であることをアピールする取り組みを2014年からスタートさせた。

これまで、森林は枯渇していると思われていたが林野庁の調べによると実は、この数十年の森林資源量は約3倍近くになっているのだという。

また、旭川では小径木でつくることができる椅子などの生産量が増加傾向にあった。森の生態系を守り、未来に立派な木を残すためには「木を間引く」という作業が欠かせないが、そうして生まれた“間伐材”や、その他造林現場から出てくるさまざまな小径木を有効活用できる状況が整ってきたのだ。

「年輪の幅が広くて硬い小径木は、強度を必要とする椅子の材料に適しています。また、太い木に比べると節や割れは多くなりますが、それも天然素材の証しとして理解される傾向が高まってきました」と吉田さん。

これまで節や割れは木材の欠点として見られがちだったが、木材の加工技術が向上したことで強度を確保しつつ、それらを生かした家具づくりが可能になった。

よりナチュラルなものが求められる昨今において、節や割れも唯一無二の個性として需要が高まっているのだ。

カンディハウスでは新作から順に樹種変更を進め、プロジェクトスタート当初は10%程度だった道産材の使用比率が2020年12月期には39%に上昇した。さらに今期は50%を超えている。

長く愛されるデザインと持続可能なものづくり

工場内を見学していると、インテリア雑誌や住宅ショールームでよく目にする製品が多いことに気づいた。

「発売当初から半世紀ほど経っているロングセラー製品があるのも当社の特長です。時代に合わせ、機能的で長く愛されるデザインを追求してきた強みですね」

また最近では、「レストア」にも力を入れている。レストアとは、家具を使用するうちに生じた木部の傷や塗装の剥がれ、色褪せ、椅子張地の擦り切れやソファーの弾力低下などを修理・再生する取り組みだ。

ここ数年はコロナ禍で在宅時間が増えたことにより、新規の家具購入だけでなく、張り替えや修理の需要が高まっているという。

「大量消費の時代から、良い物を大切に長く使うという当社の理念と消費者の意識が重なってきているのを感じます。貴重な資源である木を使ってつくっている家具なので、購入していただいたものは何十年も使ってほしい。二代、三代と使い続けてもらえるのは、嬉しいことです」

新しく買い替えてもらうことは、企業側にとっては利益に繋がることでもある。しかし、森が育つスピードに合わせて必要以上のものはつくらない。それこそが「持続可能なものづくり」に繋がると考えている。

旭川がデザイン文化の発信地となることを目指して

旭川には、ものづくりの教育機関や試験研究機関など行政が関与したバックアップ体制があり、家具づくりのインフラが整っている。

このインフラを生かし、旭川家具工業協同組合が中心となって開催されているのが、30年以上の歴史を持つ「国際家具デザインフェア旭川(IFDA)」だ。これは1990年から3年ごとに行われている、世界最大級の木製家具デザインコンペティションである。

これを機に旭川のメーカーは世界中のデザイナーや企業と交流を深めることができ、さまざまなデザインの試作や製品化を手掛けることで技術を磨くことができる。

また一方では、若手デザイナーにとっての挑戦の場ともなっており、家具業界やデザイン分野で新たなチャンスを掴む一助を担っている。

「旭川は、木工の企業同士で連携し、産地を盛り上げようという意識が高い地域。IFDA以外にも、旭川デザインウィークといったデザインイベントにも地域一体で取り組んでいます」

行政や企業、関係団体や住民が一体となるような取り組みが、旭川を世界的なブランドへと押し上げ、単なる家具・木工産地を超えた「デザイン文化の発信地」としての認知拡大に繋がっている。

次世代に繋げる森をつくる

カンディハウスでは、1992年に社有林を購入したことをきっかけに社員での植樹活動をスタートした。そしてこの取り組みは、2004年より旭川家具工業共同組合全体の活動となり、社員とその家族で通算6万本もの植樹を行っている。

「これまで、家具として使えるのは100年から150年ほど育った木だと言われてきました。天然資源である木を使う企業だからこそ、新たに木を植え、次の森を育てることはとても重要。そして、細い1本の木でも端材や木屑まで使いきることも大切だと考えています」(渡辺さん)

その理念のもと、2022年には製造過程で出る端材を有効活用するプロジェクト「COSONCO QS[コソンコクス]」がスタートした。

これは北海道砂川市で馬具・皮革製品の製造販売を行うブランド「ソメスサドル」と立ち上げた新ブランドで、両社の製造過程でどうしても発生してしまう良質な端材をアートオブジェとして生まれ変わらせるのだという。

「家具の材料となる天然資源に恵まれていることは家具メーカーとして本当にありがたいこと。北海道の森林を守るためにも、道産材を余すことなく活用し、これからも世界に向けて北海道ブランドとしての発信を続けていきたいです」(渡辺さん)

吉田さん、渡辺さん両名のお話を伺いながら、北海道の地に根付く企業としての役割と責任に、真摯に向き合う姿勢を強く感じた。

脈々と受け継がれてきた「長く愛されるデザイン」「手仕事と先端技術の融合」という強い想いをベースに、「サステナブル(持続可能性)」「レストレーション(再生)」という新たなアドバンテージを加え、カンディハウスは未来へと駒を進めようとしている。

Photo:辻茂樹

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