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〝地域に溶け込みたい〟が叶う宿へ「上下水道のない町・東川の滞在型宿」【ヴィラニセウコロコロ】

北海道上川郡東川町にあるVillaニセウコロコロは、旅行客の「滞在地にもっと溶け込みたい」という希望が叶う宿。東川町の雄大な自然を身近に感じながら、まるでここに暮らしているかのようにくつろげる。全室離れの1棟貸しタイプの宿で、フルキッチンや洗濯機付き。冬は薪ストーブの火で暖まりながら雪景色を楽しむこともできる。Villaニセウコロコロのオーナーである正垣智弘さん・芳苗さん夫妻に、宿を開いたきっかけ、東川町での移住ライフなどについて伺った。

地域の循環に溶け込む宿Villaニセウコロコロ

「暮らすように泊まる宿」がコンセプトのVillaニセウコロコロ。洗濯機やフルキッチンなど生活感に必要なものが整い、旅をしながら丁寧な暮らしを営むことができる。

「東川を体験して楽しんでもらえたらと思って、この宿を始めました。地元の食材を用意しているので、お客様自身がキッチンで料理を作って食べることもできますよ。東川町で採れた季節ごとの旬の野菜や平飼い卵、地元のお店のパン、ベーコンなどを揃えています」(智弘さん)

「卵やパン、お米、ベーコン、牛乳、お菓子などは直接仕入れたものばかりです。生産数も販売数も少なく、旅行に来た人が手に入れるのはなかなか難しいのですが、地元の食材を楽しめるように準備しています」(芳苗さん)

東川町は農業がさかんなエリア。観光客はVillaニセウコロコロの滞在を通して地産地消の循環に溶け込み、地域についてより深く知ることができる。

「普段私たちが実際に食べておいしいと感じている東川の食材を紹介していきたいです。うちで食べた食材をおいしいと思ったら、お店に行って買いに行くこともありますよね。北海道は米どころなので、さたけ農園さんが有機栽培しているゆめぴりかもおいしいですよ」(智弘さん)

「夫と息子が田んぼの手伝いに行くこともありますが、農家の皆さんは本当にこだわって作っているんです」(芳苗さん)

田園に囲まれるようにして3種類の棟が建つVillaニセウコロコロ。一見すると宿というよりも、北国のおしゃれな家のよう。宿の設計や家具、庭づくりは地域に根ざした設計会社である北の住まい設計社に依頼したのだとか。

「地元の方に北の住まい設計者さんを紹介してもらったんです。無垢の木材や石などの自然素材を大切にする想いや理念に共感してお願いしました。宿にするなら日常のような非日常を体感できるところが素敵だと思ったからです」(芳苗さん)

ペロ、チカプ、トゥンニと名づけられた棟は、それぞれユニークな特徴を持っており、どちらに泊まっても心地よく滞在できる。ナラの木やチェリーの木の温かみ、珪藻土の塗り壁などが、シンプルで素朴な雰囲気を醸し出す。時間が経つほど味わいが深くなるのも、Villaニセウコロコロの魅力のひとつだという。

「壁の色が経年変化するんですよね。塗料には天然成分100%の木材保護防護保持剤、酸化鉄が入っているらしいんです。日当たりや風、雨などの自然環境によって色が変わります。私達は毎日この宿を見ているので変化をそこまで感じないんですけど、リピーターで来られるお客様からは『また雰囲気が変わったね!』と仰っていただくことも」(芳苗さん)

時間の流れと共に表情を変えるのは、自然の味わいを活かした造りをしているから。

「庭から出た小石などの素材も使われていて、そういう素材も大切に活かしてもらいました」(智弘さん)

地下水の恵みが豊かな東川町の移住ライフ

2013年6月にオープンし、正垣さん夫妻が二人三脚で営んできたVillaニセウコロコロ。宿の庭を眺めていると、十年の月日を感じるのだそう。

「庭の風景はこの十年で変わりました。最初は何もなかったのですが、森になるイメージで北の住まい設計者さんに庭を作ってもらったんです。木の配置も北の住まい設計者の社長さんが熟知していて、作り込みすぎず自然に近い形で配置されています。この十年で木が成長して、森に近づいてきたと思います。建物と木との一体感も形になってきました」(智弘さん)

オープン当時は腰の辺り程までの高さしかなかったというミズナラの木も、すくすくと育って宿泊棟の屋根を追い越した。約十年前、夫妻の心にあったのは「こんな宿があったらいいな」という理想。夫婦揃って旅行好きだというお二人は、旅を通してこんな気づきを得たことがあったそう。

「子どもたちを連れてよく旅行するのですが、京都を訪れたときに一ヶ所に滞在した方が楽だということがわかったんです。地元の人が通うようなスーパーマーケットが大好きなので、京都でもスーパーで食材を買ってきて宿で過ごしているうちに、観光目線じゃない京都が初めて見えてきました」(芳苗さん)

「宿のオーナーが地元の美味しいパン屋や飲食店など、ガイドブックには載ってないような、地元の人が行くところを紹介してくれました」(智弘さん)

「京都には何回も行っていたのに(見え方が)全然違うのが面白くて、そこからずっと滞在して旅行するようになっていきました。東川もそうです。私達も観光目線で東川にいたときは、町の特徴も旭岳ぐらいしか知らなくて、通過するだけの地点でした。それはやっぱりもったいない。この宿をやることで、東川の良さをたくさんの人に紹介できるたらいいなと思っています」(芳苗さん)

Villaニセウコロコロの居心地がいいのは、旅行好きの正垣さん夫妻ならではの工夫が凝らされているから。食器やカトラリー、寝具、ナイトウェアなど、Villaニセウコロコロで用意されているものには、正垣さんたちのこだわりや思い入れが込められている。

「僕らは子連れで旅行することが多かったので、1棟貸しというのもひとつのポイントです。宿泊棟にはお子さんの安全対策として柵を付けているスペースもあります。それと、子どもたちを寝かせた後に夫婦の時間をゆっくりと取れるように、寝室とリビングを分けた造りにしました」(智弘さん)

「子どもたちが寝た後は夫婦で静かにワインを飲んだり、おつまみを楽しみたいじゃないですか」(芳苗さん)

さまざまな地域を旅してきた正垣さん夫妻。2011年の東日本大震災をきっかけに移住を考え、東川町にやってきた。東川町に惹かれた理由はどこにあったのだろう。

「東川町といえば水ですよね。大雪山からの天然水で暮らす街で、ボーリングをしてポンプで地下水を汲み上げています。その水を使って東川産の米を炊いたり、珈琲やお茶を淹れたりできます」(智弘さん)

東川町は上下水道のない町。大雪山旭岳の雪解け水が地下を通って東川へと流れており、大自然の恵みが町の暮らしにじんわりと溶け込んでいる。

「うちの宿の蛇口からも地下水が出るんですよ。私も東京にいたときはペットボトルの水を買っていたんですけど、今はもったいないなと思います」(芳苗さん)

「宿には、地元の90歳位のおじいちゃんが手掘りで掘ってくれたポンプもあります。水質検査をしていないのでおすすめはしませんが、飲めると思います。この水で水遊びをしたり、手押しのポンプを懐かしむ大人もいます。小さいお子さんは手押しのポンプに夢中になって押していることもあります」(智弘さん)

Villaニセウコロコロから見える東川町の暮らし

東川町は広大な北海道の真ん中辺りに位置する、自然の恵みが豊かな町。旭川空港から15分ほどの好アクセスで、北海道旅行の拠点としても移住地としても注目が高まっている。

「うちの宿の客層は元々幅広く、お子様連れやご夫婦、三世代、女子会などいろいろな使われ方があります。コロナになってからは旭川など近隣からのお客様も増えました。最近は海外のお客様も戻ってきたと感じています」(芳苗さん)

宿から見える大雪山旭岳の雄大な眺めは、季節によって表情を変える。特に冬は雪国らしさを堪能できるという。

「雪で一面真っ白になります。スノーシューを貸出しているので、雪の積もった田んぼを歩いて楽しめますよ。遠くに行かなくても、宿の近くで体験できるのが面白いのかもしれません」(芳苗さん)

「僕は千葉県出身なので、移住前は雪のある生活はどうなるんだろうと心配でした。ですが同じ人間が住んでいますから、意外と大丈夫なんですね。地域の方々に教わったり手伝ってもらいながら慣れていきました」(智弘さん)

冬のアクティビティのほか、Villaニセウコロコロでゆったりとした時間を過ごす人も多いのだとか。

「薪ストーブの体験ができるので、薪の火を見ながらコーヒーを飲んだり、外の吹雪を眺めたりしている方もいます」(芳苗さん)

もちろん、冬以外の季節もVillaニセウコロコロではゆったりとした時間を過ごすことができる。心地よい滞在を通して、東川町への移住を考える人も多いという。

「移住もですが、最近は二拠点暮らしを始める方も増えています。東川町は空港が近くて首都圏からのアクセスもいいですから」(智弘さん)

「東川町は写真の町としての取組をしていて、写真甲子園のイベントをしていたり、『せんとぴゅあ』という施設もあります。せんとぴゅあに行くと、写真コレクションや『織田コレクション』という北欧デザインを展示したギャラリー、おしゃれな図書スペースがあるんです。そういう施設もあるからか、デザイナーや建築関係、写真家などもよく訪れているようですよ」(芳苗さん)

観光客に伝えたい東川町のかけがえのない魅力

「ビジネスパートナーでもあり、人生のパートナーでもある」という正垣さん夫妻。移住地で宿を創業するというタフな経験を、どんな風に歩んできたのだろう。

「喧嘩もしつつ、何とかやってきました(笑)。夫婦二人で始めましたが、手伝ってくれる人もたくさんいます。東川町は水もいいし景色もいいし、人もいい。それぞれのこだわりや専門性を持った人がいるんです。卵やお米を育てている方もそうですし、デザイナーさんなど専門性を持った方がすごく多いんですよ」(芳苗さん)

移住者である正垣さん夫婦に対して、ご近所の人々はやさしく接してくれているという。

「昔ながらの場所ですけど、すんなりと私たちを受け入れてくれました。私たちが移住したときはこの地域に子どもがあまりいなかったので、子どもたちのことも可愛がってもらえました」(芳苗さん)

移住から十年。観光拠点としても移住地としても注目を集める東川町には、全国各地から来訪者も増えてきた。東川町の変化も見てきた正垣さんたちが思う、これからの東川町の暮らしとは。

「私たちは東川町の水と景色に惹かれて移住してきました。だからこそ綺麗な水をどのように維持していくかは大事だと思います。宿に泊まった方には、東川町の水がおいしくて貴重だということを実感してもらいたいですし、東川町の良さが失われないようにしていきたいです」(芳苗さん)

「東川町の水や環境を大切にしていく上で、僕たちがこの宿で表現できるのは、循環やゴミのことだと考えています。最近はウォーターボトルを作ったりしていています。宿に滞在した人がここで水を汲んでいくことで、ペットボトルを買わずにお出かけできるようにしたいです」(智弘さん)

東川町の水と景色、そして地域の人々。Villaニセウコロコロに滞在すると、東川町の魅力をダイレクトに味わうことができる。自分自身も東川町の一部になったつもりで、一瞬一瞬を大切にしながら滞在するのがおすすめだ。

Villaニセウコロコロ

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