読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

北海道のテロワールと向き合い続ける「ヤギたちとつくるワイナリー」【ドメーヌレゾン】

北海道・富良野地区に、ヤギが広報部長を務めるワイナリーがある。
2017年に開業したドメーヌレゾン。ワイナリーとしてはまだまだ新しいが、“サステナブル”を運営の中核に据えた取り組みが注目を集め、ワイン自体の人気もうなぎ上りだ。
ドメーヌレゾンがコンセプトに掲げる「人間と自然が共存できる環境でのワイン造り」。
その中で、かのヤギたちはどんな役割を果たしているのか。
自然の力を最大限に活かしたワイナリーとは、どんなものなのか。
広報部長であるヤギたちに会うため、そしてドメーヌレゾンマネージャーの菊地優子さんにお話を伺うため、現地を訪ねた。

開業からわずか数年での受賞

北海道中富良野町の国道237号沿い。敷地内に一歩入ると、そこにはカフェレストランやショップ、醸造場、樽貯蔵室などの施設が並び、その奥にぶどう畑やヤギの放牧場がある。
晴れた日には、敷地内から十勝岳連峰の山並みがよく見えるという。

取材中、広い施設内をあちこち行き来しながら対応してくださる菊池さん。
ワイナリー見学の段取りやスタッフへの指示、在庫チェックなどに追われかなり忙しそうだ。

「今、注文が殺到していて発送に追われているんです」とのこと。聞けば、数日前に某新聞の「エシカル(倫理的)な国内ワイナリーがつくる白ワイン」というランキング企画で2位に選ばれ、それから注文が止まらないのだという。

選ばれたのは「メリメロ・ブラン」。華やかで香りの強いナイアガラ種とやさしい甘みのデラウエアを組み合わせた、フレッシュな芳香が特徴の白ワインだ。新聞に掲載後、オンラインショップではあっという間にソールドアウトとなった。

そのほかにも、国際的なワインコンペティションである「さくらアワード」や「日本ワインコンクール」など、数々のコンクールで数種の自社ワインが受賞を果たしている。

2019年に自社園の原料でワインを初リリースしてから、わずか3年。
ワイナリーとしては順風満帆な滑り出しとも思えるが、話を伺うとどうやらそう簡単でもなかった様子。立ち上げからずっと事業に携わっている菊池さんは「打ちのめされることはたくさんありましたよ」と苦笑する。

北海道の地に溶け込むワイナリーをつくる

一大農業地帯である北海道・中富良野町。
西中地区に32ヘクタールの中富良野ヴィンヤード、富良野市山部地区に8ヘクタールの富良野ヴィンヤード。あわせて40ヘクタールの広大な圃場にブドウの苗を植えることからスタートしたドメーヌレゾン。

「この地でワイナリーを始めるにあたって最も大切なことは、先人たちが築き上げてきた自然と人の営みを守り、この風土や環境に溶け込むワイナリーにすることだと考えていました」と菊池さん。

だからこそ、北海道の気象条件(日照、気温、降水量)や土壌(地形、地質、水はけ)……いわゆる“テロワール”と向き合うことが、最大の課題だった。

しかし北海道の大自然は想像以上に厳しく、開業当初は手痛い洗礼を受けたそうだ。
山梨県や長野県に自社圃場を保有し、ぶどう栽培の実績はあった同社。だが、所が変われば事情も変わる。培ってきたセオリーがそのまま通用するわけではなかった。

「人の手を加えることを必要最小限に抑えているので、自然の脅威にさらされることは避けられません。想定外の冬の寒さでぶどうが凍害を受けることもありましたし、初年度の植え付けで大量に苗木を枯れさせてしまったことも。あのときは、本当に絶望的な気持ちになりましたね」

それでも、持続可能な生育環境をととのえるため、減農薬栽培にこだわり続けた。
「北海道の大自然の恩恵を受ける側として、エコロジカルであることが最優先でした。より環境にやさしく、自然を破壊しない方法を試行錯誤しました」

そうして辿り着いた取り組みが「ヤギたちとつくるワイナリー」だ。

生態系を狂わせないための環境保全型農業

一般的に、ワイン造りにおいてはブドウ栽培のプロセスが特に重要視されており、自然環境と如何にして関わっていくのかはワイン造りの根幹を成すテーマとなる。

「サステナブルをモットーに、除草剤は使わず、化学農薬使用も極力少なく。生態系を狂わさず、自生に近い形で栽培する」
ドメーヌレゾンにとっては、そこが譲れない核だ。

環境保全型と呼ばれる農法が生態保護の観点から重要なことは周知の事実だが、多角的に見てもメリットは多い。
畑にさまざまな雑草を増やすことで土壌の中に微生物が増加し、水はけと保水のバランスを取ったり土壌災害を抑えたりする役割を果たすのだ。また、雑草とぶどうの根が競合することにより、ぶどうの木の生命力が高まるのだという。

とは言え、雑草が伸び放題になっていては作業性が悪くなり、病害虫の繁殖源となるリスクもある。ここで、冒頭で紹介した広報部長、ヤギの登場だ。

「季節によってはヤギたちを畑の中に放し、雑草を食べてもらうこともあります。そうすることで表土にほどよく空気が送り込まれ、微生物の動きが活発になる効果もあるんです」

微生物が活発になるということは、土壌に養分が蓄えられるということ。養分を含んだ雑草をヤギたちが食べる。その排泄物が堆肥となり、栄養となり、ぶどうの成長を促す。そうして出来たぶどうでワインをつくる。ワイン発酵後の澱や搾りかすを肥料として土に混ぜ、また肥沃な土をつくる。

これぞサステナブル=持続可能な、見事なエネルギーの循環だ。

さらには、ヤギのミルクはチーズやソフトクリーム、スイーツや石鹸にも加工され、併設のショップやカフェで提供されている。
ヤギたちから享受する恩恵もまた、ワイナリーを訪れる人の笑顔に還元されているのだ。

自社のぶどう100%でのワイン造りが目標

ドメーヌレゾンでは、ワイナリー見学ツアーも行っている。
この日は、製造担当の松島さんが醸造所内を案内してくれた。

先進的な瓶詰ラインに、昔ながらのバスケットプレス機。温度管理機能付きの巨大なステンレスタンクが並ぶ景色は圧巻だ。この、古今の良さを柔軟に取り入れた設備がドメーヌレゾンのワイン造りを支えている。

2022年は、自社圃場や北海道内のぶどう園から約75トンのぶどうを仕入れ、ワインボトルにして約75000本分の仕込みを行った。
将来的には、自社圃場のぶどう100%で稼働させることが目標だ。

こちらで造られたワインはドメーヌレゾンのオンラインショップのほか、北海道中富良野町のふるさと納税で手に入れることも可能。
冒頭で紹介したメリメロ・ブランなど、ソールドアウトしていた商品も2022年物のリリースがスタートしている。今後も人気のワインが続々と登場するのでぜひチェックを。

北海道のテロワールにこだわり続ける

北海道にあるワイナリーは53を数え、その数は山梨県、長野県に次いで全国3位。
今や北海道は、ワインの一大産地となっている。

2018年には、国が地域ブランドを保護する「地理的表示(GI)」において、国内ワインの産地に「北海道」を追加指定した。(GIとは、国が定めた一定の基準を満たしているものだけが独占的に産地名を表記できるという呼称管理制度)

ワインでの指定は山梨県に続いての2例目。北海道のワインが品質・知名度ともに向上し、日本を代表するワインとして多大なる期待を背負っていることの表れと言える。

そんな北海道のテロワールにこだわり続けるドメーヌレゾン。

「今後は、北海道の冷涼な気候だからこそ生み出せるアイスワインにも挑戦したい」と菊池さんは意欲を燃やす。
アイスワインとは、ブドウが樹上で凍結した状態の時に収穫し、凍ったまま圧搾して造る甘口のデザートワインのこと。まさに、北海道ならではの挑戦とも言える。
ラインアップに加わる日が楽しみだ。

最後にスタッフ全員で集合写真を撮影する際、誰からともなく「ヤギたちも呼んでこないと」と声があがった。彼らも、ワイナリーを支える大事な仲間なのだ。
「ヤギたちとつくるワイナリー」というキャッチフレーズが、より一層重みを増した。

Photo:辻茂樹

この記事の連載

この記事の連載

TOPへ戻る