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「高品質な果物を生産しても販路に限界」農家に芽生えた集団の力【おぶせファーマーズ】

実りの秋を迎えた小布施町。「小布施=栗」というくらい、栗の産地として知られる小布施町は、栗だけでなく、りんご、梨、ぶどうなど果樹生産が盛んだ。小さな町を車で走ると、たわわに実るりんご畑や、どこまでも続く栗畑の原風景が目を楽しませてくれる。

最近では、ふるさと納税の返礼品としても圧倒的な人気を誇るシャインマスカットを手がける農家も増えている。千曲川がもたらす豊かな土壌に、昼夜の寒暖差が大きく、全国的にみても極めて少ない降水量という小布施の気候風土は、シャインマスカットとの相性も抜群。

しかし、天候不順や自然災害による不作、販路の限界、後継者不足など農家が抱える課題は尽きない。そんな課題に立ち向かうために、町と専業農家の協業で作られたのが農家集団「おぶせファーマーズ」だ。

実りの季節、おぶせファーマーズに加盟しているメンバーの農園を回り、収穫の作業を見学させてもらいながら、農家集団の取り組みを探った。

宝石のように作られるシャインマスカット

「ぶどうを作り始めて13年目となります。シャインマスカットはここ10年くらいブームが続いていますね」

そっと出来栄えをチェックするのはSHIMADA FARMの島田さゆりさん。ぶどう、栗、りんごを親子で手がけている。袋を外して見せてくれたシャインマスカットは、まるで作りもののように粒が大きく均等で艶やかに光る。

輸入のぶどうに比べ、日本の農家はぶどうを宝石のように丁寧に扱うのだそうだ。ぶどうは梅雨時期や夏の天候によって、出来栄えが大きく左右する。

「今年は6月前半が気温が低くて難しかったですね。毎年試行錯誤の繰り返しです。でもこうして綺麗にできると、嬉しいです。出荷するときは『みんな行ってこーい!』って声をかけながら送り出しています(笑)」(島田さん)

おぶせファーマーズとしてふるさと納税の返礼品に出荷するようになり、需要は上々。これまでは行き場のなかった傷物のぶどうやりんごも、「訳あり」商品として出荷ができるため、無駄がなくなったと話す。

試食しますか、と採れたてのシャインマスカットを振る舞ってくれた島田さん。遠慮しながらも、あまりの美味しさに、次の粒を取る手が止まらない。時間をかけて丁寧にじっくりと作られたシャインマスカットたちの旅立ちを有り難くいただいた。

水害を乗り越えて大きく実る小布施栗

「なってる、なってる。明日から忙しくなるなー!」

栗畑にゴロゴロ落ちているイガ栗と、今にも落ちそうな栗を確認しながら嬉しそうに話すのは、栗や数種類の果実を育てている島田農園の島田邦敏さん。彼もおぶせファーマーズのメンバーのひとりだ。

江戸時代には将軍家への献上品でもあった小布施栗は、大粒で味わい深い。今年は特に豊作で大きいという。落ちたイガ栗は、イガと栗が混在していて危険なので、分厚くてトゲが刺さらない栗用グローブで収穫する。

「収穫期は毎朝6時前から拾います。多いときは1日200kgくらい、毎日取れるんですよ」(島田さん)

すごい量だと感心するも、数年前まではその倍の収穫量だったそう。2019年の台風19号の水害でこの栗畑も甚大な被害に遭ったのだ。

「2〜3mくらいある栗の木も、全て浸水して、木の上まで泥に浸かってしまいました。だいぶ復活したけれども、枯れてしまった木もけっこうあるんです」(島田さん)

水害の傷跡が今もまだ残るからこそ、きちんと実る年は安心と喜びが大きいのだろう。我が子を見守るように栗の実を見つめる島田さんの姿が印象的だった。

新品種の開発から携わる信州生まれの梨

秋空のもと、たくさんの梨がぶら下がり一面を覆う木陰は、まるで童話のワンシーンのよう。少し腰を屈め、ひと玉ひと玉収穫しているのは、梨農家の島津忠昭さん。

信州生まれの糖度の高い梨「南水」を中心に3種類の梨を手がけている。

「南水の花は4月下旬に咲くんですが、その時にひとつひとつ人工授粉をしないと結実しません。枝の剪定など、梨は一年中やることがたくさんあるんですよ」(島津さん)

楽しそうに見える梨の収穫も、コンテナひとつで約10kgの重さがあり、それを多いときは1日に50コンテナほど運搬するのだそう。かなりの力仕事だ。

「おぶせファーマーズに入るまでは、農協と直売所に卸していました。ここのところ、梨の人気が落ちていたので、おぶせファーマーズに入り、新しい売り先が増えてやりやすくなりましたよ」(島津さん)

シャインマスカットがブームを迎えているように、梨も品種によって流行がある。島津さんにとって、南水は特別な存在だ。

「昔、梨の新品種を開発する南信農業試験場にいたんです。南水は30年ほど前に、開発に携わって生まれた品種なんですよ」(島津さん)

病気に強く、高い糖度と日持ちがいい南水。島津さんの愛情もひとしおだ。

農家集団おぶせファーマーズを率いるリーダーの役目

小布施の農家さんたちに新しい風を吹かせている中心人物は、おぶせファーマーズ代表の島田智仁さんだ。島田果樹園の代表でもあり、10〜20品種ものぶどうと、10種類のりんご、プルーン、桃、ネクタリンなど多種類の果実を育てている。おぶせファーマーズの立ち上げにはどんな背景があったのだろうか。

「過去にも何度か、農業を立て直そうと町が中心となって動いたことがあったんです。ただ、なかなかうまくいかずにいました。今回、町長からの推薦もいただき、おぶせファーマーズの代表となり、まず、なぜこれまではうまくいかなったのか、農家さんにヒアリングをしました」(島田さん)

そこで浮き彫りとなったのは、品質の高い品を生産できても、販売する力が不足しているということ。島田さんは、みんなの懐がプラスになることを第一の目標に、販路拡大への道を考え、付き合いのあった九州、和歌山、名古屋、東京、千葉などの販売ルートにアプローチ。

「小布施の果物を販売しますよ!と言ってくれた他地域の直売所には、できるだけ足を運ぶようにしました。おぶせファーマーズのメンバーで小布施町のバスを使って、直売所見学ツアーに出かけることも。実際に販売されている現場を見ると、生産者もやる気を起こすんですよね」(島田さん)

県内や首都圏でのマルシェへの出店にも力を注ぎ、徐々に小布施の果実の美味しさが知られ、ファンがつくようになる。発足時は20名くらいだったメンバーも、現在は50名ほどに増えた。

「それぞれの農家でビジョンは違っていいと思うんです。おぶせファーマーズとして重要なのは、助け合っていくこと。たとえば、新規就農のメンバーにはノウハウを教えたり、若いメンバーとベテランが飲みに行こうか、なんていう交流も生まれています。小布施の農業をみんなで盛り上げていければ何より!」(島田さん)

収穫の時期は、朝3時に起き、夜は23時まで仕事という多忙を極める島田さん。自社の農作業の他に、地域活性化のために毎日目まぐるしく動き回っている。

「人付き合いは大切ですね。睡眠時間を削ってでも、大事にしたいところ。仲間もいるし、家族もいるし、めちゃくちゃ忙しいけれどやるしかない!という感じですかね。周りのみんながいるから頑張れるのだと思います」(島田さん)

どこまでも人情深い島田さんがリーダーだからこそ、おぶせファーマーズは団結し、「個」では成し得なかった農家集団としてのパワーが生まれるのだろう。おぶせファーマーズの愛情がたっぷり注がれた果実はまだまだ全国に広がりを見せそうだ。

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