読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

段ボールをアップサイクルする理由は、「環境にいい」ではなく「楽しい」から【島津冬樹】

「どうぞ、どうぞ、見てください」

そう言いながらガラガラと引き出した大きなカートには、色とりどりの段ボールが吊られている。ずらりと並んだそれは、「段ボールピッカー」、「段ボールアーティスト」として活動する島津冬樹さんのコレクションだ。なぜ、段ボールを素材として使い始めたのか。なぜ、世界中のダンボールを拾い集めるのか。そこに込められた思いやストーリーを聞くと、アップサイクルの本質や地域活性化の切り札となりうる「地域資源」を考えるヒントが見えてきた。

「ないなら作ればいい」から始まった段ボールとの関わり

島津さんは、段ボールから財布やカードケースなどを作っている。

そう書くと、不要なものをアップサイクルして作品を生み出しているのだろうと考える人が多いだろう。島津さん自身も「不要なものから大切なものへ」とコンセプトを掲げているので、間違っているわけではない。

ただ、『作る』ことを楽しむように、『拾う』ことそのものも、拾った段ボールから『考察』することも島津さんは同じように大切にしている。だから彼の肩書きは「段ボールアーティスト」でもあり「段ボールピッカー」でもある。段ボールから作品を作り、段ボールを拾う人。

だから、冒頭にあるカートに吊るされた段ボールは、どうしてもカッターの刃を入れられないコレクションでもある。作品にはしない素材としてのものだ。

「デザインがすばらしいものや、二度と手に入らないだろうなと思うものもあります。本当は箱に組み立てた状態で置いておきたいんですが、スペースの都合でこうして解体して吊るしています」

それくらい段ボールに魅了されている。そもそも最初に段ボールに目を留めたのは、多摩美術大学在学中のことだという。

「たまたま行ったスーパーで、おしゃれだなと思う段ボールを見つけて、目的もなく拾って帰ったんです。その2か月後くらいに財布をなくしてしまったんですが、新しいものを買うお金がなかった。それなら、この段ボールで作ってみよう、と。できたものが意外と長く使えて、周りの反応も良かったんです」

単なる素材ではない、段ボールの奥深さ

最初に手がけた作品は、まだ手元にありますか? こちらのそんな質問に、ニヤリと笑って大切そうに抱えて持ってきてくれたのは、やはりダンボール箱だった。蓋を開けながら嬉しそうに教えてくれる。

「ここに、過去の作品を整理して入れてあります。一番最初のものはないけれど、同じころに作ったものはありますよ。えーっと……」

箱の中にあるのは、一つひとつ丁寧に密閉袋に入れられた作品。財布もあれば、カードケースやスマホケースも。ラベリングされ、説明書きも入っている。みっちり入った作品を見ていると、島津さんは、ただ作るだけ、集めるだけではない人だということが、なんとなく伝わってくる。きっと整理して分析していくことが好きなんだろう、と。

「子どものころからそうだったかもしれません。地元が藤沢なんですけど、海に行って貝殻を拾うのが好きで。それも同じように種類ごとに整理して持っていた記憶があります」

そう話しながら、初期に作ったという財布を見つけ、取り出してくれる。使い込まれてやわらかくなり、表面にはほんのりツヤすらある。今とは違って面ファスナーで蓋をとめる仕様。

「どこにでもある段ボールが、この世に一つしかない財布になることがおもしろかったのもありますし、段ボールそのものの魅力にも気がつきました。当時、在学していた多摩美術大学の芸祭に出そうと思ってもっとたくさん作ろうと段ボールを集めていたら、デザインや流通のことまでわかって、なんておもしろいんだ!と」

グラフィックとしてのデザイン。素材としての耐久性。どこからきて、どこへ運ばれた段ボールなのか。たった一つの段ボールから読み取れることはどこまでも広がっていく。箱としておもしろいデザインが、財布に仕立てた時にはまた見え方が変わることもわかり、島津さんはどんどん段ボールにのめり込むようになっていった。

「芸祭の翌年にニューヨークに行った時にも段ボールに目がいってしまって(笑)。デザインのかっこよさや、日本との違いにも気がついて、世界のダンボールを集めたいと思うように。財布を作るためじゃなく、ただ集めたいという気持ちの方が強くなったんです」

美大を卒業し、大手広告代理店に就職してからもその気持ちは変わることはなかった。仕事をしながら段ボールを集め、休みの日には財布を作るワークショップを開催。さらには自身の活動を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』の企画も立ち上がり、独立することを決意し、段ボールピッカー/段ボールアーティストとして本格的に活動することになったというわけだ。

アップサイクルは、目的ではなく結果

島津さんの活動は、社会の流れとも絶妙にリンクしている。独立した2015年にはSDGsという標語ができて広まり始め、映画が公開した2018年には、さらに「アップサイクル」という考え方も浸透しつつあった。デザインなどの力によって、新たな価値を生み出すというリサイクルのさらに先をいくものだ。

「取材などでもそういう観点から取り上げられることが多くなっていきました。もちろん、ありがたいことなのですが自分からはあえてアップサイクルだとは打ち出していません。そもそも、段ボールは僕自身が使わなくてもリサイクルして使われている資源です。むしろ僕の活動はそのサイクルから外れていて、資源を分けてもらっている感覚です」

島津さん自身も、初めて財布を作った時にはアップサイクルという考えは持っていなかった。ただこのグラフィックがかっこいいから、作りたい。そんなふうに「かっこいい」「おもしろい」という気持ちが始まりだったからこそ、使い手にも同じように感じてもらえたらという。

「『かっこいいから』手にしてみたら、段ボールだった。よく見たら段ボールっておもしろいな、こんなふうに使えるんだと魅力に気づいてもらえるのがいちばん嬉しいんです。たとえば、これとかおもしろいんですよ」と言いながら、カートからりんごが描かれた段ボールをさっと手に取る。宇宙とりんごが描かれたポップなデザインの段ボールだ。

「色もきれいだし、デザインもいいですよね。段ボールを集めていてわかったのは、ワシントン州がりんごの産地なんだということ。このマークがついた箱が他にもあるんですよ。日本にある段ボールも同じように産地や中に入っているものを描いているものが多いですよね。でも、フロリダのグレープフルーツの箱には、ペリカンやイルカが描かれていることが多くて。なんでだろうと調べたり、実際に現地へ行って話を聞いたりしてみると、それは産地のシンボルマークだったりするんです。地域によってデザインも表現法も変わるから、見れば見るほど面白くて……」

話は尽きない。今まで足を運んだ国は30か国以上。そこにしかない段ボールを見つけては拾い、何を運んできたものなのかを考察してきた。拾っているなかで気づいたこともたくさんあるという。

「どこの地域でも資源として重要とされていること。その方法は地域によって違うんだな、と。段ボールを拾って生活している人もいて、『お前が持っているものをくれ』と言われたこともあります。別の地域では、ゴミとして捨てようとしている人に『ください』といったらお金を払えと言われたこともあるし。日本のようにゴミ収集のインフラが整っているかどうかということも、拾っているとわかるんです」

ここまで段ボールに魅了され、考え尽くしている人はいないのではないか。そう思って伝えると、笑いながら大きく頷く。

「確かに世界で僕だけかもしれませんね、ここまで段ボールのことを考えているのって(笑)。だから、やる意味があると思ってるんですよ」

楽しいから、かっこいいから、続いていくこと

「デザインした人がいて、作った人がいて、さらに生産者もいれば、運ぶ人、受け取る人がいる。そうして僕が見つける。その流れを想像するだけでもおもしろい」と笑いながら、愛おしそうにずらりと並んだ段ボールを見る。行きたい国はたくさんあるし、そこでまだ見ぬ段ボールに出会いたいのだろうと伝わってくる。

「ただ、自分ひとりで見つけるのは限界があるので、少し前にアプリを作ったんですよ」

「CARTON PICKER FINDER」という名のアプリは、世界中で拾った段ボールをアップできる。自分以外にも段ボール好きがいるかもしれない。好きという気持ちを共有し合える仲間がいるかもしれない。そんな思いで作ったもの。作るものがアプリになったとて、「楽しい」という気持ちが原点なのは変わらないのだ。

不要とされるものに、価値を見出す。楽しい、おもしろい、かっこいい。そう思えるものは、都会から離れたどんな地域にも、目新しいものが生まれにくいどんな環境にも必ずあるはずだと、島津さんを見ていて実感する。

いつも見ている景色。昔からあるもの。地域外の人が興味を持ってくれるかわからないという、消極的なマインドは不要なのだ。地域資源はどこにでも存在し得るものであり、それを探すヒントは「楽しさ」のなかに隠れているに違いない。

「楽しいことなら、ずっと続けられるし、広がっていくものですよね。僕にとっては段ボールだけれど、人によって違っていい。世の中に無駄なものってないし、どんなことにも付加価値があると思います」

Carton

Photo:相馬ミナ

この記事の連載

この記事の連載

TOPへ戻る