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白菜のコースターやパスタの器「100%食品廃棄物を当地プロダクトへ」【ファーブラ】

ゴミとされている食品廃棄物。それを乾燥させて粉末状にし、金型に入れて熱圧縮する。言葉で説明されただけでも、なんとなく想像がつくほどのシンプルな方法で「fabula株式会社」は新素材を生み出している。できるのは「100%食品廃棄物から作る新素材」で、それを広めようと奮闘中だ。この技術と製品で、どんな未来を描いているのだろうか。

絶妙なバランスの幼馴染3人で起業する

fabula株式会社(以下fabula)がスタートしたのは、2021年10月。東京大学発のベンチャー企業として、代表の町田紘太さんを中心に3人のメンバーで運営している。

「この技術は、町田が所属している東大の研究室で開発したもの。そもそも、コンクリートに代わる素材を研究していて、食品廃棄物から100%天然由来のものができた。当時、彼から話を聞いて本当にすごいことをしているなと感じていたのを覚えています」

そう話すのは取締役の大石琢馬さん。じつは、町田さんとは小学生時代からの幼馴染だという。

「つきあいが長いだけにいろいろわかってしまうんです。正直、新素材の話を聞いた時は、驚くと同時に『あ、会社を立ち上げるんだろうな、それで僕と松田が呼ばれたんだな』とまで思いました。実際そうだったんですが」と笑う。

もう一人のメンバーである松田大希さんとは、町田さんよりさらにつきあいが長く、幼稚園時代からだという。

「町田とは家が近いし、松田とは兄弟同士が同じ年齢ということもあって、どちらとも家族ぐるみでつきあいがあるんです。さらに、町田と松田は名前が似ているので出席番号が近いことから仲良くなって……3人の関係は、そんなものですよ」と、特別なことではないように話す。しかし、よくよく聞いてみれば、絶妙なバランスの3人だということがよくわかる。

fabula取締役の大石琢馬さん

町田さんは新素材の研究と開発。そして、大石さんは生粋の理系で大学では感性工学を学び、卒業後はプログラマーとして働いていた。一方、松田さんは文系出身で商社に勤め、愛するコーヒー豆のためにコスタリカに駐在していたこともあるという。それぞれに専門分野が異なり、町田さんが事業を始めようと思った際に、自身と違う能力を持つ二人に声をかけたのもうなずける。

「バラバラのように見えるんですが、3人とも建造物を手がけたいという共通の思いがあるのがいいのかもしれません。町田はこの素材をコンクリートの代わりの建材として考えていますし、松田はコスタリカで廃棄される豆や労働環境を見てきたことから、現地で働く人たちの家のためにと思っている。僕は、感性工学の視点からこの素材の色や香りを空間に活かせたらいいなと考えています」

使用済みのお茶の葉を乾燥、粉砕して熱圧縮して作った器

大石さんが大学時代に勉強していた感性工学とは、人間の感情を科学的に分析し、ものづくりに活かすということ。

「ホッとする、ワクワクする、楽しい、癒やされるなどの感情を読み取ることによって、例えば、照明の色や明るさを変えたり、音楽を流したりといった感じです。町田からこの素材を見せてもらった時、香りも色もいいので感情にアプローチできるんじゃないかと考えました。これ、ちょっと香りをかいでみてください」と言って、器を手渡してくれる。少し顔に近づけただけで、お茶のいい香りがするのがわかり、それが緑茶で作られたものだと気がつく。

建材の原料に、食品廃棄物を使うということ

冒頭で書いたように「食品廃棄物を乾燥させて粉末状にし、金型に入れて熱圧縮する」だけと、頭ではわかっているものの、実物を手にすると科学的な何かを混ぜずとも形にできるのかと驚かされてしまう。どういう仕組みで、形作ることができているのだろうか。

白菜を粗めに粉砕して作ったコースター

「まだ仮説なので断定はできないのですが、食物繊維と糖分が関係しています。繊維が骨組みみたいなもので、糖分が接着剤のような役割を担っているのだと考えられていて。ちなみにこれが白菜で、こっちはパスタですね。これはコーヒー。あ、それはパンですよ」と、大石さんは嬉しそうに見せてくれる。

白菜からできているというコースターは、見るからにあらく刻んだ白菜を固めたことがわかるし、パスタでできた器は、細い麺がぎゅっとくっついているのだとひと目でわかるほどだ。パスタやパンは香りがないものの、白菜やコーヒーは緑茶ほど強くはないがしっかりと素材の香りがする。聞けば、どんな食材でこのように形作ることが可能だという。

「今の段階で試してみた食材は80近くありますが、全部作ることができました。食材単体でも、複数の食材でも可能です。コンビニ弁当のようなものでもできますし、食品以外が混在していてもできます。食材さえ入っていれば大丈夫です」

よく見るとパスタの麺の形がうっすら見え、圧縮されているのがわかる

あらゆるものを試していくなかで蓄積されていくデータが、fabulaの財産になっている。粉砕の細かさ、圧縮する強さと温度。組み合わせは無限にあるなかで、強度のあるプロダクトを作るための答えを持っているというわけだ。

「作る条件のパラメーターは本当に大切なもの。試しながら蓄積していくことなので、大変ではありますが楽しいことでもあるんです」

そもそも、町田さんがコンクリートに代わる素材を研究していくなかでできたものということもあって強度がある。曲げ強度においてコンクリートと比べると、かぼちゃやバナナは約2倍、白菜にいたってはなんと4倍にもなるという。廃棄される食品に、そこまでの強度があるとは誰が想像できただろうか。

「そうなんですよ。町田の着眼点のすごさだと思います。持続可能な建材を考えるうえで、捨てられる食材を原料にしようと考えた人は今までいなかったんです。コンクリートと食品を結びつけるってなかなかですよね」

その着眼点のおもしろさだけでなく、素材としての強さ、香りや色が楽しめること、そして、ゴミとされる食品廃棄物を使えること。これらが揃った素材は、あっという間にたくさんの企業に注目され始め、今では食品加工メーカーや飲食店と協業しながらプロダクトを手かげるほか、オリジナル商品も作っている。

「起業してからクラウドファンディングをやって、そのリターンとしてこのコースターや器をお送りしたんです。家具や雑貨も作ろうと試行錯誤しています」

課題もあれば気づきもある、可能性を秘めた素材

当初の目的であった建材としての需要はどうなのだろうか? 強度があれば、それなりに使うことができそうだと想像する。

「なかなか難しくて、クリアしなければいけない問題はたくさんあるんです。強さは実験で証明できていますが、耐水性に弱いことがいちばんの課題。屋外で使うなら木材に施すようなコーティングが必要なので、今はまだ内装に使われることが多いですね。でも、漆でコーティングしたプロダクトも作っています。これは、福井県の伝統工芸である越前漆器を手がけている漆琳堂さんとの協業。新素材を発表してすぐにお声がけをいただいて実現しました。コスト面を考えると難しいこともありますが、100%自然由来の素材なので、加えるものもできるだけナチュラルなものにしたいんです」

建材として使うには建築基準法という大きな壁があり、食まわりに使うなら食品衛生法をクリアしなければならない。原料の確保を考えると産業廃棄物処理法も関わってくる。

「課題はたくさんありますが、一つひとつやっていけばいいと思っています。何より、僕たちでは想像もつかない使い方を提案してくれる企業さんもいて、この素材の可能性を感じられるから」

例えば、土壌改良のために使いたいという要望。粉砕したものを土に混ぜれば解決するのではないかと思うが、そうではなかったという。

「土が硬くて、粉末状のものでは表面に留まってしまって意味がない、と。混ぜ込むにはある程度の硬さが必要で、混ぜてから土の中で溶けるようにしてほしいと言われたんです。そう考えると、この素材は最適ですよね。耐水性の弱さがメリットになりますから」

同じような観点から、近畿地方の漁業関係者からはウニの飼料にできないかという打診もあった。粉末状では水に浮くだけでも、固めれば沈むので、ウニにきちんと届けることができるというわけだ。

SDGsが終わっても続いていく「当たり前のこと」に

そんな話をしている最中に、原料を運んでいる町田さんがふらりと取材現場に現れた。手には使用済みのカカオが入った袋が。これからまた研究室で実験をするのだという。

原料の確保を考えると産業廃棄物処理の免許を取ることも考えているのではないかと聞くと、無料でもらうことはしたくないと二人は口をそろえる。

「免許を取れば楽になることもあると思います。でも、今もこれからも原料としてのゴミは買い取っていく方針です。というのも、僕たちが使うには、水気を含んだゴミよりも、乾燥していて粉末になっている方がいい。いろいろなものが混じった生ごみよりも、白菜だけ、お茶の葉だけの方がいい。粉末や単一食材を高く買い取るというようにすれば、いい原料が手に入るし、ゴミを出す側も意識が変わるはずだと考えています」

現状、食品加工メーカーや飲食店はお金を払ってゴミを処理している。そこに対価が発生するとなれば、確かに廃棄する側の姿勢も違ってくるだろう。

写真左が新素材を開発したfabula代表の町田さん

課題はあるものの、やりたいことや目指すことはまだまだたくさんあると二人は話す。

「将来的には、一般家庭でできるようにしたいんです。機械さえ作れれば、家庭ごみを乾燥させて粉砕し、器に成形することができる。そうすればSDGsだからという考えとは関係なく、それが当たり前の世の中になるのかなと思うんです」と話す大石さんに、町田さんが続ける。

「循環という面では、それぞれの自治体でもやれるようにしたい。自治体ごとに設備があれば、ごみの量を減らすことにも繋がります。ゴミが出る現場で乾燥して粉砕し、熱圧縮して成形できればいいな、と。でき上がったプロダクトはご当地ものとして特色があるはずなので、おもしろいと思うんです」

確かに、食材にはその地域の特性が色濃く出ているものだ。柑橘系のプロダクトが多く作れる自治体もあれば、葉物が得意な自治体も出てくるだろう。もちろん、プロダクトにしなくとも、土壌改良や海産物に生かす自治体もあるだろう。想像すればするほど、その可能性の大きさにこちらまでワクワクしてくる。これからどんなふうに広がっていくのか、楽しみにしていきたい。

fabula株式会社

Photo:相馬ミナ

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