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地域に密着した酒造りと再生エネルギー作りで、“自立型の地域づくり”を【大和川酒造店】

蔵の町、福島県喜多方市。江戸時代中期に創業され、連綿と酒造業を営む「大和川酒造店」がある。喜多方の北西部に連なる霊峰・飯豊(いいで)の豊かな水源と自社米を生かし、ふくよかで香り高い、味わい深い日本酒を作り続けてきた老舗の蔵元だ。東日本大震災をきっかけに、太陽光発電事業へと舵を取り、エネルギーの自給を視野に入れた、革新的かつサステナブルな取り組みに力を注いでいるという。その原動力は、福島の未来をよりよいものにするため。これからの未来に繋げるアクション、そして、酒造りにかける想いについて2人のキーマンに話を聞いた。

エネルギーと食は自分たちの力で自給する

東日本大震災の経験を境に、ある日「大和川酒造店」の主要メンバーが集まり「これからどう生きていくのか」を真剣に話し合う時間が設けられた。そう語るのは、自社農園で自社米を作る取り組みを牽引する「大和川ファーム」の代表取締役、磯部英世さんだ。

「これからの福島について話し合う勉強会が開催されました。色々な議論が重ねられましたが、勉強するだけでは話にならん、という結論に。やはり行動をもって形にすることが一番重要だと身を持って感じて。エネルギーと食に関しては、自分たちで自給する流れを作るため、それぞれができることを話し合いました。我々は『農業と醸造は一体』と考えています。長年、おいしい酒を作るために社員全員が米の栽培をしているんです」

年々栽培面積を増やしている「大和川ファーム」。田植えのときはスタッフ総出で田植えを行う。

米ぬかや酒粕など、酒蔵の中から出る有機副産物を利用し、循環型の肥料づくり、土作りから考える自社農園を営む。畑で育てた自社米をふんだんに使用した酒造りをしている。

「大和川酒造店」の9代目当主佐藤彌右衛門さんから社長の座を引き継いだ、佐藤雅一さんも語る。

「うちの強みは、農業から日本酒造りをしているところ。穀倉地帯である会津盆地の北部に喜多方市はあります。広大な大地に田んぼや畑があり、穀物がたくさん採れるんです。弊社の規模で自社米を作っている蔵はあまりないはず。そこに関しては『大和川酒造店』が一番誇れるところだと思っています」

飯豊連峰の万年雪が伏流水となり湧き水となる。喜多方は水がおいしく、日本酒造りに適した土地だ。
「大和川酒造店・飯豊蔵」。「大和川ファーム」で栽培した米を自社設備で乾燥、精米する。自社米を使用した純米酒や吟醸酒はこの飯豊蔵で醸造されている。
米のうまみが引き立つ味わいが特徴的な「大吟醸辛口 弥右衛門」。上品な香りと厚みのある奥行きのある飲み口の「純米吟醸 弥右衛門」。

再生エネルギーの力で福島を復興させる

「ワンチームで酒造りをやること。それが大事なことだと思っています。そうした営みが酒の味に乗っていくのではないか、と。ここ数年は、気候変動による気温上昇、それによる田んぼの水不足など気がかりなことはたくさんあります。農業は自然とともにあるものだし、エネルギーも自然の力を借りて作りたい。話し合いを重ねてそうした考えに至りました。安心安全な太陽光発電を軸とした再生可能エネルギーの普及に力を入れることで、我々なりに思い描く未来を作り出そう、と電力会社を立ち上げました」と磯部さん。

磯部さんは、会津電力株式会社の代表取締役社長も兼任している。酒造メーカーのスタッフが電力会社を立ち上げる取り組みは極めて異例なこと。このプロジェクトは、「大和川酒造店」の9代目当主佐藤彌右衛門さんがリーダーシップを執っているという。

「東日本大震災が東日本を襲い、日本の原子力発電所は停止しました。スイッチを押せば何でも動く、という現実を初めて疑うことになりました。使っている電力の向こうには外国産の石油があり、石炭があり、ウランがあり、原発がある。これまで使っていた電気は、輸入に依存して作られたものだということを思い知らされ、彌右衛門が立ち上がりました」

エネルギーは「大手の電力会社が作るもの」。そうしたある種の思い込みから目が覚めた人たちが集まり、「会津電力株式会社」が誕生した。

2018年に設立された「会津電力株式会社」。第1期事業として建設された会津地域初のメガソーラー発電所「雄国太陽光発電所」。年間予想発電量は1,086,180kW(一般家庭約300世帯分相当)。現在、メガソーラーを含む88箇所が稼働中。写真提供=会津電力株式会社

こうした動きについて、社長の佐藤さんはどのように受け止めていたのだろうか。

「率直に言えば、当時は酒も売れずに苦しんでいた頃だったのであまり他を意識している余裕はなかったです。けれども、今になってみれば、想いと勢いで電力会社を作り上げたというのは並大抵のことではなく、父が起こした行動はすごいことだと思います。普段は喧嘩ばかりなので(笑)あまり影響を受けているつもりはないですが、リーダーシップや決断する精神力のようなものは、見習いたいところです」

電気を使うことでCO2を削減する未来に

続けて、磯部さんが太陽光発電を実現させた経緯を語ってくれた。

「『雪国で太陽光発電は採算が取れない』と指摘されたこともあります。その言葉を鵜呑みにせず、実証実験により雪国に適した設置方法を検討し、実現させた経緯があります。積雪のある期間も発電量を確保するために、パネルの角度について工夫をしました。雪が早く滑り落ち、発電量も確保できる角度を実験した結果、30度が最も効率がよい事が分かって。パネルから落ちた雪と降り積もる雪が重なっても、パネルが雪に埋もれないように架台の高さを2.5mに設置しました」

太陽光発電を継続することは地域の活性化にもつながっている。磯部さんはその手応えを感じている。

「最初は『小さい会社で電気を買うのはいいのだけれども、大丈夫なの?』『停電したらどうするの?』という声が上がりました。停電というのは、送電網が災害か何かでぶった切られて起こることなので、小さい電力会社と契約するからと言って、止まることはあり得ないです。FIT制度(太陽光や風力といった再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定の価格で一定期間買い取ることを国が保障する制度)が開始されてから、一般住宅の屋根に太陽光パネルを設置する方が増えました。最近では、災害対策用に太陽光パネルを設置する方が増えています」

電気を使うことで少しでもCO2を削減できたら。そうした気持ちが地域の人にも少しずつ伝播しているという。

「関連会社の電気小売り事業者『会津エナジー株式会社』では、自然エネルギーの電気を販売しており、販売開始から1年ほどで100件以上の契約が増えています。こうした発展は、非常に喜ばしいことですね。太陽光発電をするために土地をお借りしているので、借りた賃料を地元の人に返すことになる。そういう意味でも経済の循環が生まれています。主婦の方からも『私にもできることをしたい』と声をかけてもらえるようになりました」

さらに「大和川酒造店」として、再生エネルギーを使った日本酒造りを目指しているという。その先鋭的な取り組みにかける想いを佐藤さんが話す。

「今後は、バイオマスボイラーを取り入れて、CO2を削減する方向性で進めて行きたい。そうならなければならない時代に入っているということを痛感しています。『環境に配慮する』というミッションは、企業の価値でもある。日本酒のラベルやビニール袋に籾殻や米ぬかを混ぜて作るやり方を業者と話し合いながら進めていたりします。田舎の企業がそういう方向性に舵を切ることを知ってもらえることが一番だと考えています」

旧酒蔵を開放し、酒造りの文化を届ける

循環型の酒造りは、消費者にとって大きな信頼と安心につながるだろう。「大和川酒造店」は「北方風土館」という旧酒蔵を観光客や市民の方々に開放し、“酒造りの文化”を発信する活動を続けている。

蔵の内外に4つの湧水があり、そのまま飲める。澄んだ水はまろやかな味わい。訪れた人は、湧き水を汲んでいく人も多い。

蔵ではかつて使っていた酒造りの道具が展示されていて、歴史に想いを馳せることができる。館内で目を引くのは、日本酒の試飲サービス。訪れた人々は、様々な銘柄から好きな味を探すことに夢中だ。

「コロナ禍に非接触型で利き酒をできるように導入しました。QRコードを使用することで直接的な接触を少なくし、気軽にお酒を楽しめるシーンを提供しています。家業を継ぐ前にIT企業に勤めたことがあり、そうした経験から色々と情報を集めていました。若い世代の方々は、日本酒よりもリキュールやアルコール度数の低いものを受け入れる傾向にありますが、日本酒も提供の仕方や楽しみ方を伝えれば、飲んでもらえることは可能だと考えています」

地域に密着した酒造りと再生エネルギー作りで、“自立型の地域づくり”を牽引する「大和川酒造店」。逆風に負けず、企業としての在るべき姿を提示し続ける矜持は、彼らが愛を込めて造る、酒の味から感じさせてもらえるに違いない。

大和川酒造店

Photo:阿部 健

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