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“誠実なお菓子”を作るために洋菓子店が生み出した、健やかな「フルーツエッグ」【レパコ】

ふだん、食べている卵が安全な環境で育てられたものかどうか。少し立ち止まって、生産背景を知ることに時間を使ってみてほしい。ストレスのない環境や方法で飼育された「平飼いの卵」は日本で少しずつ認知され始めているものの、外国に比べると浸透度はまだまだ低いのが実情だ。ちなみに、データで表すとEU諸国では約80%が平飼いなのに対し、日本では6%程度。「平飼い卵」と謳っている商品であっても、動物としての幸せや人道的な扱いを徹底できていない生産者が存在しているという。

福島の洋菓子メーカー「レパコ」は、こうした現実に目を背けない。時間はかかっても、お菓子作りの要となる卵の質にこだわり抜こう、とあるとき心を決めたのだ。試行錯誤の末に編み出したのは、 “パティシエ目線”で作った革新的な「フルーツエッグ」。自家製のフルーツ酵母飼料を食べさせて作った平飼い卵の生産背景と魅力について話を聞いた。

広々とした養鶏場で3000羽を平飼いする

「クーックーック」。鶏の鳴き声が、だだっ広い養鶏場に響く。ふかふかのもみ殻が敷き詰められた空間の中で鶏たちが自由に動き回っている。鶏にとって、ストレスが少ない養鶏場を作ったのは「レパコ」代表の佐藤純啓さんと山口昌宏さんだ。

写真左から代表の佐藤純啓さん、常務取締役の山口昌宏さん。東京でアパレルの事業に従事していた二人は、地元・福島に戻り、洋菓子事業を引き継いだ。

自然豊かな土地にある養鶏場「レパコ エッグ ファーム 」はおよそ1棟120坪。ここで1,500羽ほどの鶏たちを飼っている。養鶏場特有の悪臭はなく、ほぼ無臭と言ってもいいほど清潔な空間が保たれている。

鶏たちにストレスがかからない環境を第一に考える

「120坪のパイプハウスで1500羽を飼うのはアメリカの基準です。日本の場合、平飼いといっても、この2倍以上入れますから。正確に言うと、ちゃんとした平飼いができているところはごく僅かなのが実情です。つまり、自由に動き回れないケージ飼いと変わらない環境なんですよね。うちの特徴はもみ殻を敷いていること。夏には、掘って、暑さをしのいだりできるので鶏たちがストレスを解消できたりします。もみ殻の香りは少しだけしますが、一般的な養鶏所特有の臭いはしません。業者の方がここに来るとまず、そのことに驚くみたいで」と佐藤さん。

赤い小さな部屋は鶏たちが卵を産む部屋。しばらく鶏たちの姿を目で追いかけていると、それぞれがのびのび穏やかに過ごしている姿が印象に残る。

「いろんな業者が出入りしていますが、こんなに懐いているのは見たことがないと言われることが多いです。その理由のひとつは、まだ若い鶏を迎え入れているからだと思います。エサ代がかかってしまうので、普通はすぐに卵を産む状態のときを狙って迎え入れるケースが多いんです。でも、結局、成長して大人になった状態だと鶏の性格ができてしまっているから、鶏同士が喧嘩をしてしまうことが避けられなかったりして。そうすると、互いに殺し合うくらいまでやってしまうこともあり、居たたまれない気持ちなってしまいます……」

平飼いの場合、そうした衝突は自然発生的に起こってしまうもの。だからこそ、そのための対策が不可欠だという。

「鶏がいじめられてしまうのは可哀想だし、耐えられません。だから、たとえエサ代にお金がかかったとしても、鶏の性格ができ上がる前に迎え入れないといけません。日本では、少しのエサで卵をたくさん産むように品種改良されている親鶏が多い傾向があり、また、飲み水にも薬を入れることが多いんです。そういう卵を食べ続けているとアトピーを引き起こしてしまうケースもあります。そもそも、病気になっていないのに抗生剤を飲むのもおかしな話ですし。そんな卵は、安全だとは言えませんよね。やっぱり、丁寧に育てられたヒナは、大人になってからも優しくて人に懐くと言われています。与えているエサは、鶏の健康状態や調子に影響していると思います」

鶏たちのエサは、パティシエが編み出した「フルーツ酵母」

佐藤さんが言うように卵のおいしさは、鶏がストレスフリーで育ったかどうかが大切なエッセンスだ。さらなる味の決め手は、パティシエが栄養のバランスを考えたエサにある。それは、2年間熟成させた独自製法の「フルーツ酵母」を使い、熟成させたもの。その試行錯誤を佐藤さんは振り返る。

「今はあまり作っていないのですが、当時はお店でパンをよく作っていて。天然のフルーツ酵母を使った、発酵させるパンを提供していました。そのノウハウがあるので、パティシエがその酵母菌を作って、エサをフルーツで発酵させたんです。自家製のフルーツ酵母飼料が生まれたのは、試作がきっかけです」

ゼロからのスタートゆえ、ベストなエサ作りに時間がかかった

「最初の2年間は、資源の調達に奔走しました。集めるだけ集めて、いろいろ買ってはみたものの、熟成するまでに2年かかるし本当に上手くいくか、確証がないまま進めていたので不安な気持ちはありました。リスクを背負ってまで新たなことに挑戦したのは、自分たちの力でおいしいものを作りたい、という気持ちが強くなったから。日本全国にチェーン店が増えてきた流れも相まって、個としておいしさを追求している店は、そう多くない気がして。そんな中で色々と模索した結果、エサ作りを成功させることができました。いまは『フルーツ酵母飼料』を作るために協力してくれるパートナーがたくさんいます」

継続的に資源を供給してくれる事業者は、限られるケースが多いが、「フルーツエッグ」の場合は、福島市内での協力者が非常に多い。それは、活動内容へのリスペクトがあってこそ。

「たとえば、『平井果樹園』や『古山果樹園』の規格外の桃やリンゴ、『大黒屋豆腐店』のおから、米農家の『カトウファーム』の米ぬか、もみ殻、『吾妻山麓醸造所』のワインを製造する際に残る葡萄を搾った皮、『株式会社ももがある』の桃の実や皮、『あづま授産所ぷらす』からいただいた人参の皮など。プロの養鶏所はエサひとつとっても、こんなに丁寧にやっていないと思います。エサとしてちょっとしたフルーツを与えて『フルーツエッグ』と称している生産者もいるけれど、実際は近所の農家からもらったリンゴを床にちょっと置く程度の事業者もあったりして……。鶏はそういうエサを食べないんですよ」

地域内の食品ロスの無駄を減らすために、使われない食品を混ぜて再利用。酵母菌を作い、パティシエが栄養のバランスを考えてエサを丁寧に配合。発酵させて「フルーツ酵母飼料」を作っている。
クッキーや製造の際に失敗したお菓子をミキサーで粉砕して飼料にすることも。「鶏たちはお菓子のエサを喜びますね」と佐藤さん。

同業者の杜撰な管理状況を指摘するのは、自分たちがやっていることに確固たる自信があるから。「レパコエッグファーム」は、健康な卵を産むための工夫を惜しまない。それだけでなく、循環サイクルについても深い視座を持っている。

卵を産まなくなった鶏は、飲食店に提供する

「養鶏場からでた堆肥は、近くの果樹農家や野菜農家の畑で使用してもらっています。鶏の生の糞だけの場合は、臭くて使えないのですが、うちはもみ殻と一緒に2年間熟成したものなので臭いが気にならないんです。環境に配慮した小さな循環の繰り返しで『フルーツエッグ』が生まれているんです」と佐藤さん。

山口さんは、「卵を産まなくなった鶏の受け入れ先が最近見つかった」と嬉しそうに教えてくれた。

「香川県に『骨付鳥 一鶴』という鶏のモモ肉のステーキを出しているお店があります。そこで鶏の肉を全部買取りしてくれることになりました。うちは、養鶏場が広いので鶏たちの運動量が多く、自ずと筋肉量が多くなります。だから、しっかりとした肉を提供できるんです。もちろん、鶏たちに薬を飲ませていません。初めての取り組みなので、色々とお互いに慣れないところがあったのですが、来年からはパートナーシップを深めていく前提で進めています」

弾力のある白身が黄身を包みこむ「フルーツエッグ」。コクと甘みがありながら、さらりとした食感で楽しめる。卵独特のクセがなく、卵かけご飯にもおすすめ。卵の黄身は、薄めの自然な色。
養鶏所の敷地内には、アメリカから持ってきたトレーラーが。卵やお菓子を販売している。

話を聞くと、ここにはるばる卵を買いにくる人も多いそう。

「この場所から100km弱の所に会津若松市があります。そこからわざわざ足を伸ばしてくれる方もいらっしゃいます。「レパコ」の洋菓子のファンの方が来てくださることもあれば、そうではなく、卵そのものを気にかけてくれて来てくださる方もいます。ここでは、農場価格として提供していて卵だけは少しだけ値引きしていて。そのほかには『フルーツエッグ』の温泉たまごも提供しています。ラジウム温泉たまご発祥の地『飯坂温泉』のラジウム源泉かけ流し加工をしたものです。東京の人にも人気がありますね」

福島市内にはレストランを併設したケーキ、焼菓子、コーヒーなどを販売する「レパコエッグガーデン本店」がある。

レストランでは「フルーツエッグ」使ったメニューが用意されている。卵の味はコクがあり甘みがふくよか。食したときの満足感や幸福感が大きい。

アニマルウェルフェアに配慮した、安心して食すことができる卵——購入するときは、大切に育てられた鶏が産んだものかどうか、意識しながら選ぶのがいい。大切な人や自分自身のからだと健やかな心を守るために。

フルーツエッグ

Photo:阿部 健

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