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降雪量平均10mの豪雪地帯・沼田町「雪があるからこそできる雪中米」【沼田町役場】

北海道や東北、北陸と、日本各地に豪雪地帯は存在する。雪が降れば、道の雪かきに、車や屋根の雪下ろしにと忙しくなり、雪はどうしてもやっかいものと思われてしまう。

しかし、北海道沼田町では、そんな雪を活用して米を貯蔵。春でも夏でも新米のおいしさを保っているという。その取り組みについて、さらに米の貯蔵から広がった雪の活用法について、沼田町役場の押切勇哉さんに話を聞いた。

豪雪地帯だからこそできる、自然の冷蔵庫

しんしんと、こんこんと、綿々と、霏々と……どの言葉を使えばそれを表現できるのか。石狩平野の北端に位置する沼田町は、北海道内でも有数の豪雪地帯だ。毎年の降雪量は平均10mあり、多い年には約14mになることもあるという。となれば、沼田町で暮らす人たちにとって、雪かきや雪おろしは重労働だ。

「雪が降ると面倒な仕事が増えますし、どうしても雪は『やっかいもの』という認識が強い。でも、そんな考えを変えてくれたのが『雪中米』でした」

沼田町役場で広報を担当する押切勇哉さんは、嬉しそうにそう話してくれる。雪中米とは、その字面を見ればなんとなく想像できるように、雪の冷気を活用して保存している米のこと。

「1996年に町が建設した『スノークールライスファクトリー』という施設があります。ここでは雪を活用した冷気で収穫した米を低温貯蔵することができます。米にとって適切な温度や湿度を保てるんです」

写真提供:北海道沼田町

貯蔵庫内の環境は、温度5℃、湿度70%。貯蔵庫に隣接している雪室があり、冬に積もった雪1500トンを運び入れる。そこから貯蔵庫に冷気を取り入れることで、4月中旬から8月中旬まで温度と湿度をコントロールできるというわけだ。

「他の地域では、玄米で貯蔵することが多いんですが、沼田町では籾(もみ)つきのままにして、出荷する際に籾摺りをするという手法をとっています。籾で守られ、安定した低温度と所定の湿度環境で貯蔵できるので品質が落ちずにおいしさをキープできるんです」

雪があるからこそできる自然の冷蔵庫に、籾つきで貯蔵する。このおかげで秋に収穫した新米のおいしさが、春や夏でも味わえるのは、消費者にとっても嬉しいことだ。

世界初の施設が、雪への認識を変えた

この雪冷気を活用した米の貯蔵施設は、世界初のこと。1996年にできたことを考えれば、当時は今ほど環境問題に対しての意識は高くなかったかもしれない。

「当時の町長や農協には、地元産の米を大切にしたい、米農家を応援したいという思いがあって、米をきちんと安定した品質で貯蔵できるようにしようと考えていたところに、それなら雪を活用してはどうだろうということで生まれた施設なんです。雪を用いることで米の貯蔵に適した環境を容易に実現できるというメリットがあります。さらに、この施設ができたことで農家さんの負担も軽減されたんですよ」

写真提供:北海道沼田町

沼田町では、収穫した米は乾燥して出荷する状態まで、各農家が担っていた。それがこの施設ができたことで、農家が行うのは一次乾燥までとなり、それ以降の乾燥から出荷までは、施設で一元管理するような仕組みになった。

「時間と余裕ができたぶん、他の農作物に力を入れられるようになったので、農家さんたちにも喜んでもらえたと思います」

写真提供:北海道沼田町

自分たちが丹精して育てた米が、大切に管理され、そのおいしさがしっかりと保たれたまま全国へと出荷されていく。春も夏も、変わらずに。それだけでも嬉しいうえに、出荷にまつわる負担も軽減するとなれば、なおさらのことだろう。

雪をもっと活用するために

雪中米をきっかけに、雪をより活用しようと町の動きも強まったと押切さん話す。

「たとえば、貯蔵に雪を利用しているそばや酒、みそもありますし、雪の冷気で栽培する『雪中椎茸』もあります。生花店のバックヤードで雪の冷気を使っていたり、介護施設の冷房に雪を活用していたり」

沼田町では、雪そのものを保存する「沼田式雪山センター」がある。雪を1箇所に集め、おがくずなどで覆って保存している場所だ。約5000トンもの雪の保存が可能で、そこから押切さんが話していたように各所へと搬送されるというのだ。

「ここで保存していた雪を、夏に札幌で行われた北海道マラソンでも活用しました。ランナーの体を冷やすために雪玉として配ったんです。さらには、貯蔵庫に入れることで開花を遅らせた『雪氷桜』も展示して、皆さんに雪の力を知ってもらうきっかけにしました」

また、町が管理する「雪の科学館」には、町民が自由に使える「雪室」も設置している。いわゆる自然の大型冷蔵庫だ。

「皆さん収穫した野菜や米を保存しています。じゃがいもなどは、ここで保存すると糖度が増すんですよ。こういう活用が広がってきて、雪って使えるんだとみんなの認識が変わりました。やっかいものじゃなくなったんです」

写真提供:北海道沼田町

学生への支援が、町の活性化に

また、2021年には、こうしてできた雪中米を、学生のために役立てたいと「“キャンパスライス”プロジェクト」が行われた。

「コロナ禍でバイトができない学生たちが生活に困っていると知り、少しでもこの『雪中米』で元気になってほしいという思いで始めたものです。ふるさと納税を活用した『ガバメントクラウドファンディング』で寄付を募り、そこから全国の学生さんたちに送るという仕組みでした」

集まった寄付金は約760万円で、当初の目標金額の300万円をはるかに上回る額だった。ひとり当たり2キロの雪中米が、2278名の学生たちのもとへ届けられたという。

「SNSで『めちゃくちゃ助かりました』『ありがとうございます』という声が寄せられたり、『実際に炊いてみた』という動画がアップされたりしていて、本当に嬉しかったです。さらに、雪中米から沼田町のことを知ってくれて、実際に足を運んでくれた学生もいました。夏に『夜高あんどん祭り』が開催されているのですが、それに遊びにきてくれたんです。町で行った動画・画像フォトコンテストの動画部門にも応募してくれたりもして、町を楽しんでくれたことが伝わってきて、雪中米からのつながりが広がったことを実感しました」

「“キャンパスライス”プロジェクト」は、物価高に困窮している学生のためにと、2023年9月から11月にかけても行われ、目標の1000万円を達成した。

支援が雪中米や沼田町自体のPRにつながったという、すばらしい事例だろう。しかも、学生という若い世代に届いているのは大きなことだと押切さんは感じている。

「すぐに沼田町に来てくれたことも嬉しかったですが、何年後かに思い出してくれることがあったらいいな、と。そういえば、沼田町ってああいうことしてくれたな、町に寄付をしてみようかな、行ってみようかなと思ってくれたら。町としては高齢者が多いので、どうしても人口は減少傾向にある。移住にも力を入れているので、若い世代に町を知ってもらうことが大切だと考えています」

毎年降るたくさんの雪が、今では特産品を支える縁の下の力持ちになり、さらには、町を知ってもらうきっかけにまでなっている。しんしんと、こんこんと、綿々と、霏々と降り積もる雪を見て、「やっかいもの」だと思う人は、もう沼田町にはいないだろう。雪があってこそできることは、まだまだこれからも広がりを見せるに違いない。その力が、雪にも、沼田町にもあるのだから。

北海道沼田町(雪中米)

Photo:相馬ミナ

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