読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

「鹿児島で変わらないのは桜島と人」デザインとクラフトを通して見つけた「灰道」という遊び【Judd.】

今、鹿児島発のクラフトやアートが熱い。民芸などの伝統からカジュアルなアパレルまで、新しい作品が次々と生まれている。そんな鹿児島の魅力を発掘しているのが、デザイン事務所Judd.(ジャッド)だ。フリーペーパーでローカルの情報を発信し、作家と作品に出会えるクラフトイベントの発起人。Judd.代表の清水隆司さんは、鹿児島で活躍する若い作家に心惹かれるものがあるという。鹿児島に生まれ、東京ライフを経てUターンした清水さんに、Judd.が仕掛ける取り組み、地方の若者が持つエネルギーなどを伺った。

ローカルの作家が牽引する鹿児島のまちづくり

鹿児島ならではの作家やものづくりに出会いたいなら、「アッシュ サツマ デザイン アンド クラフト フェア(以下、アッシュ)」に是非足を運んでみてほしい(2023年は終了)。

アッシュ サツマ デザイン アンド クラフト フェアの作品一例

どんな魅力的なものと出会えるか、アッシュではワクワク感を味わえる。発起人でもある清水さんが言うには「鹿児島にはスター作家が多い」のだとか。

「ブルーボトルコーヒーと一緒に仕事をしている作家さんがいたり、全国的にもファンが付いている作家さんも多いですね。新しくお店をオープンした方や県外から参加する作家さんもいて、規模が広がってきています」

アッシュ サツマ デザイン アンド クラフト フェアの作品一例

アッシュで取り扱う品々は実にバラエティに富んでいる。陶芸や陶磁、木工、版画、家具にアパレル、アクセサリーなど多彩な作品に出会うことができる。最近は、全国各地からイベント期間中にお客さんが訪れ、様々なアイテムに触れられる。

「アッシュイベント期間中は展示作家はもちろん、参加店舗にも県内外のお客様が訪れてモノが売れる環境が整って来ていると思います。」

アッシュ サツマ デザイン アンド クラフト フェアの作品一例

2009年からは不定期でフリーペーパー『Judd.』を発行し始めた清水さん。『Judd.』の発行数は一万部に届くほどになり、ローカルの魅力を発信する媒体として愛されるように。さらに『Judd.』と連動してアッシュを開催し、鹿児島の作家や工芸品などにスポットライトを当ててきた。

フリーペーパーJudd.

地域のイベントのアートディレクションを担当することもあり、出水市の「DENKEN WEEK IZUMI」にも携わった。

「出水麓武家屋敷群に、アートやクラフトマンの作品を展示して販売するイベントでした。2023年はアートの展示と食のイベントをしたんです。出水市は産地なのでいい農産品があるのですが、意外と地元に流通していなかった。そこでレストランのイベントを企画したところ、(予約が)すぐ埋まりました」

古民家ホテルのRITA 出水麓 宮路邸で開催されたのが、「FARM TO TABLE(農場から食卓へ)」のイベント。生産者と食べる人をつなげるコンセプトで地域を盛り上げた。

「いいなと思う人のことを、世の中にも知ってほしいじゃないですか。その土地には、面白い作家さんとかが絶対にいます。だからイベントに来ていただいたり、一緒にイベントをやったり。DENKEN WEEK IZUMIの食のイベントのときも、作家さんに器を提供してもらいました。すると皆さん、器を買ってくれるんですよね」

Uターン後も続き、広がる、人との繋がり

鹿児島出身の清水さんだが、若い頃は生まれ故郷を離れ東京で過ごしていた時期も。

「スケートボードが好きで。スニーカーの雑誌を見ていたら、そういう仕事がしたいと思い立って、東京のデザイン事務所にアシスタントで入りました。半年位はMacを触らせてもらえなくて、ずっと社長の車を磨いていたんですけど(笑)」

Judd.代表/清水隆司

「なんだかんだで面白い友達が多かったです。東京に住み始めた頃、スケボーの先輩のところによく遊びに行っていました。家具屋さんで働いていた先輩で、ミッドセンチュリー、北欧の家具、民芸、アートなどいろいろ教えてもらいました。一緒に古着屋を覗いたり。民芸も楽しめるしスニーカーも楽しめるみたいな、物を見るベクトルはあの頃から変わっていないかもしれないな」

刺激を受けながら多くのことを吸収した東京ライフ。鹿児島へUターンしたのは、お子さんが生まれたのがきっかけだったそう。

「鹿児島に戻ってきた頃は、工芸とかは全然知らない感じでした。仕事仲間といろいろな産地に行って、物の見方を教えてもらいました」

フリーペーパーの発行やイベント運営を手掛けているのには、地域への想いが込められている。

「東京の友人などに『鹿児島ってこんなに面白いから遊びに来てよ』と伝えるような気持ちで始めました。そんなノリでデザイン仕事で焼酎のラベルを手掛けたり。

焼酎のラベルを自分で作って、気に入ったのができると友達に送ったり。みんなも面白がってくれるんですよね。ashやフリーペーパー制作などを行っていたら当時、民芸と北欧のものづくりライン ビームス fennica(フェニカ、現ビームス ジャパン)の方が見つけてくれました」

ビームスジャパン渋谷・京都で、カーアクセサリーブランド「HIGHWAY(南国灰道倶楽部)」のポップアップを開催。清水さんとイラストレーターのオカタオカ氏で立ち上げたブランドだ。

HIGHWAY
南国灰道倶楽部商品一例

HIGHWAYは木工や陶芸、染色を取り入れてカークラフトを製作。オカタオカ氏のイラストが素敵なアクセントになっている。

地域に根差す新進気鋭のエネルギー

清水さんが鹿児島へ帰ってきて15年程が経つ。経験を積む一方で、若いエネルギーに触れることも欠かさない。

「もちろん(自分で)デザインをするんですけど、これからはどちらかというと若いイラストレーターやデザイナーとかと一緒に組んで、何かをやる感じにしていきたいかな」

Judd.代表 清水隆司

鹿児島のさまざまな地域に足を伸ばす清水さんは、こんな出会いに胸を突かれた。

はこぶっく

「徳之島を訪れたときに思ったのが、面白いデザイナーがいると、地域がもっと面白くなるんだなと。竹添星児君というイラストレーターが徳之島に住んでいたんです。竹添君が島に行った途端、彼自身も地域もすごく良くなったと感じました。地域の回覧板みたいなマップを作ったりしているんですよ」

はこぶっく

地域と交わるイラストレーターの姿から、清水さんも刺激をもらっている。

「地域の人からのちょっとした相談に、竹添君は真摯にイラストで応えるんです。彼が真面目にやってるのを見ると、『いいなぁ』と思うんですよ。それと面白いなと思ったのは、アキヒロウッドワークス

アキヒロウッドワークスは、鹿児島を拠点に親子3人で活動する木工集団。他にはないようなデザインの木工家具やアートを制作し、国内外から注目を集めている。

「アキヒロウッドワークスが、春にニューヨークで展示を開いたんですよ。すごいなぁと思ったんですけど、彼らは鹿児島に帰ってきた翌日には実家の田植えをしていました。自然にも近くて、羨ましいなぁと思いますね。憧れます。」

Judd.代表の清水隆司

「アッシュにも面白いルーキーが毎年出てきます。作家さんが近いから別注もしやすい環境なんですよね。みんな若いから頑固じゃない。『自分の仕事はこれだ』という風にカチカチに固まっていなくて、柔軟ですよね」

地域のイベントの主催など、担う仕事は大きくなる一方で、清水さんはいたってフラットにいいもの探しを楽しんでいる。

「やっぱり僕たちの頭は固くなってる部分もあるでしょうから、そこはほぐせるように気を付けています。いいねと褒めてくれる人もいますが、家に帰ったらただの皿洗い担当ですからね(笑)」

時代の変化の中で変わらぬ鹿児島らしさ

清水さんが思う鹿児島は「食がおいしいし、人も面白くて優しい」。居酒屋では大笑いしながらお酒を酌み交わす地元民の姿もよく見かけられるように、人と人との距離感が魅力だ。

「僕、向田邦子さんが好きなんですよ。向田邦子さんって、小学生のときに鹿児島に住んでいたんですよね。そんなに長くは住んでいないんですけど、エッセイの中で、死ぬときは鹿児島に帰りたいと語っているんです。『故郷もどき』と表現されていました。街の風景とかは変わっていきますけど、変わらないのは桜島と人だとも言っていて。だから鹿児島の良さって、やっぱり人なんじゃないかな」

Judd.代表 清水隆司

地域を盛り上げる若い世代からも、鹿児島らしい心地良さが感じられるそう。

「アッシュとかをやっていると、若い作家さんが職種関係なく、木工だろうが陶芸だろうがお互いの作品を面白がって、一緒に新しいものを作っているのを見かけます。僕にもノーガードで接してくれますし、オープンですね」

地域の伝統や民芸は、若い世代から遠ざかっていた時代もある。分断されていた文化を飛び越えて楽しむプレイヤーが、鹿児島では次々と生まれてきているのだ。

「流行りの流れもあれば、変わらないものもあるんです。そのときどきのタイミングで、デザインの答えを出していかないといけない。たとえばこれからはインバウンド向けのデザインが必要ですよね。一方で、変わらないものとして民芸があると思っています」

柔軟に変化していくものと、変わらず愛されるものが混ざり合う鹿児島で、清水さんがこれからどんな風に過ごしていくのか聞いてみた。

HIGHWAY
南国灰道倶楽部商品一例

「デザインの仕事をしていると思うんですが、焼酎ツーリズムみたいな支援先を見学できるツアーもしてみたいですね。それのクラフトツーリズム版も。もしくはお土産屋さんとかできればいいな。好きなものに囲まれて仕事していきたいですね」

誰かの作品への「いいな」という想いが、地域を盛り上げる。想いに共感する人は、県外だけでなく海外にもきっといるはず。鹿児島発のクラフトやアートは、これからますますたくさんの人に愛されていくのだろう。

この記事の連載

この記事の連載

TOPへ戻る