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「クリエイティブとは課題解決」岐阜にデザインの仕事をつくる【リトルクリエイティブセンター】

リトルクリエイティブセンターは、岐阜県各務原市に本社を構えるデザイン会社。広告、Webのグラフィックデザインをはじめ、店舗や街のブランディング、商品の企画開発など広くものづくりに携わっている。ほかにも、ローカルメディア「さかだちブックス」や文具店「ALASKA BUNGU」を運営するなど、岐阜の街にクリエイティブを普及させ、地域活性化を目指す。

岐阜でデザイン会社を立ち上げた想い、街を面白くするクリエイティブの定義について、同社の代表である今尾真也さんに語ってもらった。

同級生3人が集まり、地元の岐阜県で起業

リトルクリエイティブセンターを立ち上げた今尾さん、横山七絵さん、石黒公平さんは高校の同級生。高校ではデザイン工学科を専攻し、大学進学後はデザインコンペに応募する日々を送っていた。コンペの打ち合わせはファミレスで行っていたが、実績を積むにつれて活動拠点が必要に。3人は岐阜市の柳ケ瀬商店街にあるアトリエビル「やながせ倉庫」を事務所として借りていた。

デザインコンペに熱中していたある日、やながせ倉庫のオーナーから「この場所を使って、人を呼べることをしてくれないか」と相談をもらう。大学生だった今尾さんらは、デザイン力を活かしてオリジナル文房具を制作・販売する「ALASKA BUNGU」をオープンすることを決意。当時の想いは。

「戦略があったかというと、何もなくて。とにかくデザインの仕事で生活していくために、できることをやるという一心でした。売り上げは1カ月で1万円とか、それぐらいのレベルでしたね」

デザインコンペの賞金と文具店の売り上げでは、生活ができない。かといって、岐阜県内にデザインの仕事ができる環境はない。大学卒業後、3人は東京や名古屋の会社に就職し、クリエイティブ職に就くことを決めた。

それぞれが就職した後も、「ALASKA BUNGU」は無人文房具店として営業を続ける。今尾さんは、商品の入れ替えをしに岐阜へ帰省し、仕事のために東京へ戻る生活を3年ほど続けていた。大きな利益はなかったが、細々と経営を続けていた文具店。これが起業への道を開拓してくれるのだった。

「ALASKA BUNGU」ではレターセットや付箋、折り紙などの紙ものをデザインしたオリジナル商品も販売していました。それを見た商店街の店の人たちから、ショップカードやチラシのデザインを依頼されるようになったんです。『あの文具店はものづくりをしてくれるらしい』と口コミが広がり、少しずつ仕事が増えていきました。この流れに乗って、同級生3人で岐阜にデザイン会社を立ち上げることにしたのです」

オフィスを東京に構える選択肢もあったはずだが、なぜ岐阜で創業したのか。それには、今尾さんの強い想いがあった。

「岐阜にデザインの仕事ができる環境を作りたかったんです。僕自身、高校や大学のときにデザイナーになりたいと思っても、都市部に行かなければ叶わないため悔しい思いをしました。また、地元には印刷会社や建築会社があるのに、それに付随したデザインを行う会社がないことにも違和感がありました。無いなら自分で作るしかない、と思ったのが岐阜でリトルクリエイティブセンターを創業した理由です」

たった3人で始めた会社だったが、創業からおよそ10年となる現在は、社員数が40名を超え、120件以上の案件を同時進行するほどに成長している。受注している仕事の9割は、岐阜県内の企業や店舗、行政からの依頼だ。今では岐阜になくてはならない存在となっている。

クリエイティブの価値は、課題解決をすること

印刷物をはじめ、Webやプロダクトのデザイン、街のコミュニティづくりなど、リトルクリエイティブセンターはこれまで多様なものづくりに携わってきた。その代表である今尾さんは、“クリエイティブ”という言葉をどのように定義しているのだろうか。

「クリエイティブはめちゃくちゃ曖昧な言葉で、だからこそ重要性が地方に伝わっていないと感じています。僕が考える“クリエイティブ”の定義は“課題を解決すること”です。ここでいう課題はネガティブなものではなく、もっとこうしたいと未来志向で考えたときに出てくる課題のこと。それを解決するためにどうグラフィックに落とし込むか、どう見せていくかを試行錯誤することが、真のクリエイティブだと思うんです」

今尾さんの考えは、リトルクリエイティブセンターのこれまでの活動に色濃く反映されている。

「僕らはコミットする度合いが高くて、例えば新しいお店がオープンするときは、店主と一緒にお店の名前や商品の値段設定を考えることもあります。だから、いざオープンするときは自分の店かのようにドキドキするし、お客さんが来ると本当にうれしい。チラシやロゴデザインといった表面的なデザインだけをするのではなく、お店が人気店になる仕組みまでをクリエイティブしていくことが、僕らの強みですね」

120件以上の案件を同時進行しているリトルクリエイティブセンターだが、実は社内に営業担当はいないのだという。営業がいないのに、なぜ仕事の依頼が集まるのだろうか。

「過去に仕事をした企業やお店が新しいお客さまを紹介してくれたり、お客さま自身が調べて当社にたどり着いたりして、お問い合わせをいただくことが多いです。先ほども言いましたが、僕たちは表面的なデザインだけではなく、プレイヤーとして中に入り、足りていないものをお客さまと一緒に作っていくという考えで動いています。それにより良いお店や企業が増え、岐阜の街も盛り上がり、外から人が集まってくる、そんなサイクルを作りたいと思っていて。僕らのこうした考えに共感してくれる方々が、当社を選んでくださっているのだと思います」

岐阜の魅力をクリエイティブの力で広めたい

岐阜県内の多くの事業に携わり、さまざまな課題を解決してきた今尾さん。それでもまだ、やりたいことは尽きないという。今尾さんが思い描く理想に、どれほど近づいているのだろうか。「富士山で例えると、今は何合目?」と質問してみた。

「僕自身の満足度でいうと、もう頂上にいますね。今の状態が十分幸せです。仕事を通じて、お客さまに喜んでもらえてうれしいですし、日々ありがたいなと思いながら生活しています。ただし、岐阜を盛り上げるといった視点でいうと、まだ富士山の麓にいると感じます。岐阜は可能性を秘めている場所だと思うので、僕たちがクリエイティブの力で開拓をして、魅力を多くの方に広めていけたら本望です。また、近年は採用時の応募数も増えてきました。岐阜でクリエイティブな仕事に就ける環境を作れていることは、当社の存在意義にもつながっています」

一度地元を離れた3人が再び集まり、岐阜にデザイン会社を立ち上げる。そうして生まれたリトルクリエイティブセンターは、岐阜でクリエイティブ職を志す若者の才能が輝く場をつくり、ひいては岐阜のブランド力の向上にも一役買っている。光るデザインでさらに磨かれていく岐阜の街を、その目でたしかめに来てはいかがだろう。

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