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「祖父の『真面目に丁寧に』がある」老舗牛乳屋からバズる乳製品【牧成舎】

岐阜県飛騨市の牧成舎は、バズる乳製品を次々と生み出す牛乳屋。テレビやSNSで話題になった「和風山椒ピザ」や「チーズのたまり醤油漬け」など新感覚の商品開発にも積極的だが、創業は明治30年に遡る老舗だ。営業企画課長の牧田寛子さんによると、代々の社長は革新的で自ら行動を起こすタイプが多かったそう。真面目に丁寧に牛乳を作り続けてきた家族の歴史には、山あり谷ありアイデアあり。牧成舎創業時から変わらないこだわり、新商品開発エピソードなどを伺った。

バズる商品を生み出す飛騨の老舗牛乳屋

飛騨で牛飼いとして生業を始めた牧成舎。120年以上にわたり、地域に美味しい牛乳を届けてきた。

「20年位前、自社牧場を改めて作ったんです。今は自社牧場と契約農家さんのミルクで乳製品を作っています」

当初は牛乳のみを生産・販売していたが、ヨーグルトなど乳製品を続々と開発。こぢんまりとした工場ながら、商品は実に多彩だ。

「薄利多売の世界だから、これから先は牛乳だけだと大変。付加価値の高いアイスクリームやチーズ、ピザなど、いろいろな乳製品を作っています」

創業当時から変わらないのは、代々伝わる「おいしいことをまじめにていねいに」という想い。それでいて、アイデアあふれる商品で世の中をワクワクさせてくれる。

「和風山椒味ピザは、飛騨の実山椒と牧成舎のチーズのたまり醤油漬けを合わせました。実山椒は辛いというよりも、ハーブのような爽やかな香りが特徴。タレントのホラン千秋さんが気に入ってくださって、テレビでも紹介されました。素材が美味しいので、できるだけシンプルにすることにこだわりました」

とろりとした食感の「モッツァレラチーズのたまり醤油漬け」は、ご当地チーズグランプリの最高金賞を受賞。「モッツァレラチーズのわさび醤油漬け」も、ご当地おつまみグランプリで最高金賞に輝いた。

「JALの国際線ビジネスクラスの機内食に、チーズのたまり醤油漬けとわさび醤油漬けが採用されたこともありました。楽天のショップだと牛乳やヨーグルト、チーズが入ったセットが人気です」

楽天ではランキング一位を獲得したこともあるほどの人気ぶりだが、牧成舎が全国的に名を知られる牛乳屋となるまでには家族5世代のチャレンジがあった。

離れて気付いた家業が紡いできたもの

現在、牧成舎の代表を務めるのは牧田さんの母・礼子さんだ。約30名のスタッフと力を合わせ、会社を切り盛りしている。娘の牧田さんはUターンで飛騨に戻ってきたのだとか。

「大学は東京に行ったんですが、就活のときにリーマンショックが起きたんですよ。何十社も受けて落ちてが当たり前。『もう無理や…』と思って母に相談したら『帰ってきたらいいんじゃない』と言ってくれたので、実家に就職したんです」

子どもの頃から牛乳屋の仕事を見てきた牧田さん。家業に就職すると決めたとき、どんな気持ちだったのだろう。

「正直言うと、朝から晩まで同じものを見続けるのは嫌だなと昔は思っていました。でも家を出てみてから、実家の牛乳が美味しいことに気付いたんです。 当たり前にあったものが、外に出たら違うんだと感じました」

牧成舎の牛乳が美味しい理由のひとつは、低温殺菌だ。

「一般的には高温殺菌牛乳が多いんですが、うちは低温殺菌牛乳。『牛乳嫌いの子どもでも飲みやすい』と言っていただくことがよくあります。低温殺菌すると牛乳独特の臭みが出ないので、スッキリ飲みやすくて甘い味わいになるんですよ」

牧成舎では地域の学校給食にも牛乳を提供。地域の子どもたちの成長を支える役割を長年担ってきた。「うちは良い意味でも悪い意味でも変わっていない」と牧田さんが微笑んだ。

「昔は低温殺菌の方が主流だったんですよ。けれど高温殺菌は滅菌に近いので殺菌効果も高くて、賞味期限も長くなる。低温殺菌は30分はかかりますが、高温殺菌なら1、2秒。大量生産で長期保存するなら高温殺菌なんですよね。うちは祖父の頃からずっと変わらず低温殺菌。小さい会社で量もあまり作れないのですが、美味しい牛乳をそのまま提供できるように、製法は今も変わらずです」

自社牧場「鮎の瀬牧場」では、のびのびとした環境で牛を育て、日々新鮮な生乳を牛からもらっているという。美味しい牛乳には、たくさんの時間と手間がかけられているのだ。

アイデアファミリーの根底にある“真面目さ”

牧成舎の商品が全国的に愛されるのは、品質の高さはもちろん、ほかにはないユニークな乳製品に出会えるから。

「曽祖父が創業者なのですが、二代目の祖父は牛乳工場でヨーグルトを始めようとした革新的な人だったんですよ。お水も販売したのですが、(時代に対して)早すぎて売れなかったり(笑)。三代目の母はモナカアイスを作って百貨店さんなどに売り込みに行っています。『やりたいならやってみよう!』と、自発的に動くタイプの人が多いみたいです」

チャレンジを恐れないからといって、闇雲に新商品を開発しているというわけではない。

「祖父の『真面目に丁寧に』という言葉そのままに、自分たちが自信を持てるものづくりを心がけています」

地域に根差す老舗の牧成舎も、近年はECショップやふるさと納税に出品。低温殺菌牛乳や乳製品をいかに安全に、品質を維持したまま消費者に届けるかという点にもこだわった。

「温度管理や基本的な衛生管理にはすごく気を遣っています。ミルクを絞ったらすぐに製品にして鮮度を保ちます。自社で検査も実施しているんですよ。夏はもう戦いですね。冷蔵庫にサッと入れて、10度以下のところで管理するように気を付けています」

自社牧場のそばには宮川が流れ、水を確保しやすい環境になっている。こうした立地も衛生管理に関わるという。

「牛乳屋さんって水をすごく使うから、川の近くにあることがほとんどなんですよ。衛生管理では機械洗浄が一番大事。機械に汚れが残っていると菌が繁殖してしまうので、真面目にコツコツと洗います」

「(商品を発送して)手元を離れてからはどうしようもできないんですよね。『大丈夫でしょ』と仰るお客様もいますが、届いてからは冷蔵庫に入れて温度管理していただいて、良い牛乳を味わってもらえたらと思います」

ネットで乳製品を販売する難しさがある一方で、販売管理ではこんなメリットも。

「ネットショップは数を予想できて、お客様に冷蔵ですぐに届けられるところがwin-winかな。お客様に良い牛乳が届きますし、私たちは在庫を抱えなくて済みます。牛乳屋さんとネットショップって、すごく(相性が)良いんだなと感じました」

飛騨と共にもっと美味しい乳製品を

Uターンしてからは家族と飛騨に住み、子育てもしている牧田さん。改めて生まれ故郷について思うことを聞いてみた。

「飛騨は涼しくて過ごしやすいですし、自然がたくさんあって食べ物も美味しい。飛騨には文化や観光地、飛騨ブランドもあるので販売する身としてありがたいです。ただ山奥なので配送関係とか交通の便が悪くて、 陸の離島というか疎外感が少しありますね。山を越えなくちゃいけないので、上に行っても下に行っても遠いんですよ」

全国発送もする牧成舎だからこそ、地域の中と外のアクセスには課題を感じることも。

「あとは田舎なので人がいない(笑)。若い人がどんどん外に出て行っちゃいますね。働き方としても、バリバリ働くよりはのんびり働く人が多いかな」

働くママとして、育児に対する価値観の多様化にも期待が膨らむ。

「女性が率先して働く雰囲気は、昔も今もあまりないかな。それぞれのライフスタイルだとは思うのですが、保育園に預けることでお母さんたちがもっと頑張れるのにもったいないな、と感じることはあります」

こうした期待を感じるのも、飛騨という地域にはまだまだポテンシャルがあるから。地域に根差す生産者とは、こんなご縁が繋がったこともあった。

「岐阜県に山川醸造さんというお醤油の会社があるんです。伝統食品の有志の会で出会ったのですが、山川醸造さんからチーズとお醤油を合わせると美味しいと教えていただきました」

「そこからモッツァレラチーズをお刺身みたいにして食べる形を試したんです。山川醸造さんのたまり醤油はコクがあってすごく美味しい。うちのモッツァレラチーズはクセがないので、醤油のコクがさっぱりとしたチーズによく合うんです。最終的にはたまり醤油にチーズを漬け込むことが一番美味しいと思い、チーズのたまり醤油漬けの販売へとなりました」

近年は飛騨の地域商社であるヒダカラのサポートを受けながら、さらなるアイデアや希望が湧いてくるようになった。

「うちはヒダカラさんと動くようになるまでは、とても大変な会社で、経営がすごく苦しかったんです。そこから売り上げを一緒に伸ばして、経営を改善することができて、未来が見える会社になってきました」

牧成舎

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