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「日本のものづくりに追い風が」売れるデザイン施した「hibi」の躍進【トランクデザイン】

兵庫県は多様なものづくりが受け継がれてきた地域。和紙や焼き物、革細工といった工芸品から、赤穂塩や日本酒など食品の産地でもある。挙げ始めればキリがないほど魅力的なものに溢れている兵庫県に、TRUNK DESIGN(以下、トランクデザイン)というデザインスタジオがある。「この国の、工と芸とともに。」をコンセプトに、地域を元気づけている会社だ。技術の高い地場産業を発掘し、デザインとマーケティングを駆使してブランディングや開発、販売を手掛けている。マルチな活躍をしているのは、代表取締役の堀内康広さん。「日本のものづくりに追い風が吹いてきた」と語る堀内さんに、地場産業との共創、海外に向けた魅力発信などを伺った。

職人へのリスペクトが商品開発のスタート地点

地場産業にスポットライトを当て、デザインの力で地域を元気にしているトランクデザイン。2019年、Good design award best100・best focus受賞を受賞したのが、神戸マッチの「hibi(ひび)」だ。

「hibiは、マッチのように擦って点けるアロマスティック。神戸マッチさんと作った商品です。 2015年に誕生し、国内では500店舗位で取り扱いされていて、海外では30か国以上で販売。世界中でhibiを通して擦って火を付ける行為が広がってきました」

神戸マッチは1929年創業の老舗メーカー。淡路のお香と播磨のマッチを掛け合わせ、3年半の開発期間を経て、着火具のいらないお香hibiを生み出した。香りを保ちつつ、擦っても折れない軸を実現できたのは、たしかな技術があるから。画期的な技術で高評価を博したが、神戸マッチのものづくりは継承の危機にあったという。

「マッチ産業の全盛期からすると、出荷数が1%程になってしまいました。神戸マッチさんも、hibiがなかったら倒産していたかもしれないんです」

神戸マッチは、いまや日本国内で三台しか存在しない大型機械を使ってマッチを製造してきたメーカー。その機械一台を操作するためには十数人の職人が必要で、人件費や維持費はコストとして積み重なる。マッチ自体の売上が低下する中、製造規模を縮小しながら会社を維持していた。

「神戸マッチさんと出会ったのは、僕が27歳の頃。神戸マッチさんとの仕事がきっかけで、地場産業に携わる仕事をしたいと思うようになりました。hibiができたことで神戸マッチさんの売上が上がり、若い社員をリクルートできるようになるまでに約十年。僕が地場産業でやりたかったことがひとつできた気がします」

トランクデザインが大切にしているのは、光る技術を持つ職人たちと手を取り合い、価値を共創すること。

「福井県鯖江市のTSUGI(地域特化型クリエイティブカンパニー)の事務所の近くに、越前漆器の井上徳木工さんがあります。漆を塗る前の木地を制作している会社さんですが、留め継ぎ(45度で切った木材をつなぎ合わせること)の技術がすごいんですよ。 井上徳木工さんと一緒にブランド『Lr』を作りました」

うるしの里・鯖江に受け継がれる、木地づくり、漆塗り、ウレタン塗装の3つの技を惜しみなく駆使。隅々まで丁寧に仕上げられた上質さは、職人の手仕事ならでは。重箱や手許箱にどんなものを入れようかワクワクしてくる。

「 (留め継ぎの技術を使える)職人も少ないし本業も忙しい会社さんなので、売上は目標に対してスローな上がり方。なのでもう少し加速させたいなと思って、 お香立てを作ったんですよ」

香皿と一体になったお香立ては、職人の繊細な技術があるからこそ生まれた製品。インテリアにもよく馴染み、お部屋の雰囲気をさりげなく格上げしてくれる。

「コロナ禍でお香の売上がとても上がったんです。お香立てのように、プラスアルファをのせるプロダクトを作ると、これがまた売れていく。売上を確保しながらブランドの認知度を上げていくことができるんです」

堀内さんはデザイナーでありながら、マーケット的思考も強いのが特徴だ。

「hibiはめちゃくちゃ狙ってるビジネスモデルです。購買する分母が少なくても、お香って同じ人が買い続けるじゃないですか。同じ器を一年に何回も買う人は少ないけれど、ファンを作れば同じ人がリピートしてくれることが多い。お香もそこを狙ってじわじわやっている感じです」

広告デザインの面白み、募る地場産業への想い

堀内さんは学生のときからデザインを学び、印刷会社に就職してからデザイナーとしてのキャリアをスタートさせた。

「カッコいいものを作ることに憧れて、デザイナーとは……みたいなことを考えていましたね。ですが社内のデザインの仕事というと、営業から下りてくるものを単純にひたすら作る業務。30歳位で独立できたらいいなと思いながら、今でいう副業みたいな形でフリーランスの仕事も受けていました」

そんな中、神戸の広告系のプレゼンにチャレンジしたことが大きな転機となる。

「フリーの仕事では打ち合わせも直接していました。成果や集客など、今まで見えなかった問いが見えてきたんです。その中で、独立のきっかけになった仕事がありました。六甲アイランドの神戸ファッションマートは、家具などインテリアのテナントが多く入っている商業施設。家具部門の年間の販促企画と広告のデザインを提案し、お仕事をいただけることになったんです」

「副業の段階でしたが契約が決まり、春夏秋冬の広告を作ることに。企画会議、スタイリストやコピーライターとの打ち合わせ、デザインのラフ制作、さらに撮影では家具の物撮りなどがあって丸々2日間かかることも……。会社の仕事との兼ね合いを考えて、26歳で独立しました」

描いていたキャリアプランより早い段階での独立。デザインはもちろん、マネジメントやマーケティングの経験も増えていった。

「広告は見せるデザインも必要ですが、マーケティングの要素がかなり強い。マーケティングはすぐ数字として表れるので面白かったですね。けれど作り手の想いなどがわからなくて、モヤモヤしていたんです。まちづくりに興味を持っていましたし、地場産業の存在が大きいと感じていました」

独立して間もない頃は、広告デザインをライスワーク、地場産業に携わる仕事をライフワークと考えていたが、どうしても広告の仕事の比率が高くなっていったという。

「自分のデザイナー人生を考えて、60歳までデザインの仕事をやるとしたら、あと30年もある。独立してお金を稼いで飯を食べている中で、あと30年このまま広告を続けるのはどうなんだろう……楽しいんかな?と考えていた時期でした」

「空いている時間で地場産業の仕事をしていたんですが、そのときに出会ったのが神戸マッチさん。アナログな道具を作り続けている会社が地域にあると知ったんです。僕もデザインというスキルで地域に貢献したいと思って、地場産業に携わる仕事に全振りしました」

地域に不可欠な地場産業を盛り上げるために

デザインの力を地域のために発揮したい。そんな想いから、キャリアを大きく転換させた堀内さん。事務所も構え、地域活性に必要なことを考えた。

「地場産業を盛り上げると、夢を持って地域に戻ってくる人が増えたり町が盛り上がることに繋がるんじゃないか、という仮説を立てたんです」

「たとえば神戸マッチさんにも、地域のたくさんの方々が内職で関わっているんですよ。おばあちゃんが家でマッチ箱にマッチを詰めていたり。ですから産業が衰退すると、人が地域の外に出て仕事しないといけなくなり、地域が過疎化していくんです」

地域の特色や産業は、そこに住む人々が営んできたもの。人口流出や少子高齢化は、地場産業のエネルギー衰退と直結しているのだ。

「地場産業の雇用を一人でも増やしたいと考えたのですが、衰退していく産業をV字回復させるのはめちゃくちゃ難しい。マーケティングをやらないとモノは売れません。商品開発をしていくデザインと売っていくマーケティング。これがトランクデザインの根幹になっています」

「トランクデザインでは自社のプロダクトを10ブランド持っていますが、産地と流通をどうやって繋いでいくかを考えています。クライアントワークでもデザインした製品をバイヤーに紹介できるようにしていて、アウトプットまでの道筋をノウハウとして持つようになりました」

兵庫のものづくりに物語のある暮らしを掛け合わせた「Hyogo craft」では、作り手の想いが伝わる製品を開発。丹波篠山の伝統的な王地山焼を、カップやプレート、スープボウルなど現代のライフスタイルにしっくり馴染むデザインに。

兵庫という地域を超え、ものづくりの輪を広げる機会も増えた。「LOCAL CRAFT DYEING」は、西脇市で織られた播州織の生地を、広島県福山市で縫製して生まれたシャツだ。

「2009年から地場産業の仕事をやってきて、いろんな人から『地場産業の何が面白いんだ』と言われ続けたこともありました。ですが、国がクールジャパンの事業を立ち上げたり、日本のものづくりを大切にしたり、海外にアピールするようになりましたよね。製造メーカーや伝統工芸といった地場産業が、国の戦略として取り入れられるようになり、ものづくりにとって追い風になってきたと感じています」

トランクデザインも日本のものづくりの魅力を海外に届けるべく、積極的に海を渡っている。

「自分たちで(販路を)切り拓いて、15か国位に商品を出しています。器やアパレルなどをリュックに入れて、いろいろな国で飛び込み営業しています(笑)。国によって考え方が違うので、どうローカライズしていくかリサーチしながら考えていますね」

デザインの力で産地に利益を還元する

堀内さんが地場産業への貢献を始めて十数年。ものづくりに対する消費者の考えにも、変化が感じられてきたという。

「モノを買う選択肢の中に、地域・素材・人が要素になり始めましたよね。マーケットを広げやすい状況になったかなと感じています。産業の継続に貢献できたhibiのように、インパクトを残せるような次なるブランドが出てきたらいいですね」

というのも、兵庫県にはまだまだポテンシャルを持った産業がたくさんあるはずだという。

「兵庫県は北は日本海、南に瀬戸内海があります。エリアによって食文化や方言も違うほど、とても広い地域なんです。これだけ多様な地域で生まれるものづくりは、やっぱり面白い。そのことを兵庫県民としてしっかりと発信したいですね」

「まずは地元のものづくりを地元の人に届ける。それから地元のものづくりを日本全国へ、そして世界に発信する、というロードマップを作って段階的にやってきました。今はもう一周回って、平均的にやっている状態です」

兵庫のものづくりをさらに輝かせるために、トランクデザインが目指しているかたちとは。

「職人同士が繋がって、チームとして工芸品を世界に渡せるようになるといいなと考えています。僕たちは兵庫のものづくりに限らず、日本全国の伝統工芸や産地のプロデュースをやっているので、もっと地域連携できるようにしていきたいですね」

時には、他の地域で頑張っている人々から刺激を受けることも。

「福井県のRENEWという工房見学イベントがあって、僕らも毎年出店しているんです。RENEWは10km圏内にものづくりが集積されていて、交流が生まれやすくてすごく良いですよね。ものづくりのツーリズムを僕らも作りたいと考えているんですけど、兵庫は広いので移動にかかる時間が長くて、職人同士がどうやって連携するかが課題です」

そんな課題を感じながら、地域のためにできることを模索中。2019年には、カフェ&ストア・トランクデザイン神戸塩屋をオープン。兵庫の食材を使用したお食事や工芸品と触れ合うきっかけを提供している。

「カフェでは地元で作られた器を実際に使ってもらったり、体験してから購入してもらうことができます。カジュアルな広い間口から、工芸という深い世界に入ってもらえるようにしました」

ローカルには素敵な職人や魅力的な作品がたくさんある。そのことをもっと知ってもらうべく、海外に向けた発信にも積極的だ。

「LOCAL CRAFT JAPANというプロジェクトを作り、海外向けに発信しています。2023年はパリやオランダ、台湾に行ってきました」

地場産業を主軸に置きつつ、国内外問わず柔軟に活躍する堀内さん。トランクデザインが考える、地場産業を元気付けるデザインとは。

「表現することだけがデザインではなくて、結果を出す仕組みを作るところも広い意味でのデザインだと思うんです。僕たちでいうと、流通を機能させていくことも、ビジネスを作っていくためのデザインかもしれない。誰のためのデザインなのか、スタッフといつも議論しています。売上が上がってようやく作り手さんや産地に還元できる。産地の魅力をリサーチして、編集してアウトプットして、それを産地に還元していく図式こそ、僕らのデザインなんじゃないかな」

地域を知れば知るほど、受け継がれてきた伝統や技術を磨く職人たちの価値を実感できる。知られざる魅力がまだまだ満載の神戸を訪れると、嬉しい発見に出会えるのだろう。

トランクデザイン 

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王地山焼

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LOCAL CRAFT DYEING

LOCAL CRAFT JAPAN

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