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「社長や先輩社員よりも新人優先」会いたい人をお招きする神戸学校【フェリシモ】

ダイレクトマーケティング事業を手がける株式会社フェリシモは、猫部やミュージアム部などユニークなコンセプトを掲げ、たくさんのオリジナル商品を展開。今までなかったような商品開発で人々のハートを鷲掴みにしている。時にそのアイデアが生まれるきっかけとなるのが、社外から登壇者を招く講演会「神戸学校」だ。狂言師の野村萬斎氏、アートディレクターの佐藤ねじ氏、フードエッセイストの平野紗季子氏など今をときめくオーソリティーを招くとともに、新進気鋭のアーティストや知る人ぞ知る名プレイヤーの“ここにしかない”メッセージライブを実現。しかも神戸学校の企画・運営は、フェリシモの新人たちが担うという。神戸学校誕生のきっかけや地域への想いを、プロジェクトに携わる渡辺明奈さんに伺った。

神戸学校は新人優先で運営するから面白い!

フェリシモが開催する「神戸学校」は、さまざまな業界から登壇者を招いてディスカッションをするメッセージライブ(講演会)。“神戸発未来へ「経験と言葉の贈り物」”をコンセプトに、毎月一回開催し続けてきた。

2023年度の神戸学校プロジェクトリーダーを務めるのは、中途入社でフェリシモに加わった渡辺さん(取材時は入社二年目)。入社当時の神戸学校は「22世紀に向けて頑張っている22人と会う」という目標を掲げていた。

「神戸学校のコンセプトを聞いたとき、学びのあるお仕事をさせていただけるんだと感じました。どの仕事でもそうだと思うのですが、人の話を聞いたりしてどんどん肉付けていかないと、人生面白くないですよね」

阪神淡路大震災の2年後、1997年にスタートしてから、これまで神戸学校に招いたゲストは316人(2023年12月時点)。関わったフェリシモのスタッフは約350人に上る。

「現在、所属している正社員が355名くらいですので、ほとんどの社員が神戸学校のスタッフを経験した計算になります。一年目の新入社員と新二年目社員が神戸学校を担当するんです。受付、誘導、司会、ゲストの接待など当日の運営全てを行います」

会場となる同社本社1Fにあるホールは大規模とは言いがたい。だからこそ、ゲストと顔が見える距離で意見を交わすことができる。

研修の一環として会社が登壇者を選んでいるのかと思いきや、人選も神戸学校のスタッフが担うという。

「新入社員や新二年目社員といった若い人たちがお客さま目線で会いたい人をお招きするということを大コンセプトに立てています。偶発的に事業に関係のある方や社長が出会った方をお呼びすることもありますが、最優先は新人です。なぜなら若い新入社員は、未知の世界の何かを持ってきてくれます。私たちと化学反応を起こせるかもしれません。社長や先輩社員よりも、ここでは若手の意見を優先させてもらっています(笑)」

神戸学校に参加することで、新入社員の興味や夢をシェアできる。それが刺激となって、プロジェクトが身を結ぶこともあるのだ。

お客さまと一緒に学び続けることを目指して

フェリシモの創業は1965年に遡る。カタログ事業をスタートした後、1989年に社名をフェリシモに変更。その頃から学びを重視する社風は息づいていたという。

「神戸学校の前身は1980年代に始まった、地球人生涯学習塾。当時の経営層が経営・経済や芸術などさまざまな分野からお招きしてみんなでお話をうかがっていたんです」

「80年代は生涯学習というコンセプトが世の中に広がった時期でした。フェリシモでも『学ぶことは変わること、変わることは生きること』をスローガンに掲げました。人間は学び続けて自ら成長させていく存在だと捉え、会社に入ってもさまざまな分野の人の話を聞いて勉強することを大切にしてきました」

その精神は神戸学校にも受け継がれた。登壇者が活躍するフィールドも実にさまざま。デザインやアート、映画といったクリエイティブ業界、教育やスポーツ、農業、哲学や脳科学といったアカデミック領域など、全方位にアンテナが張り巡らされている。

神戸学校はフェリシモ以外の人も参加可能。豪華な登壇者を迎えつつ、地域に開かれた勉強会として継続してきたのは「震災で被災をした人たちに心が躍動するような時間を通じて元気になっていただきたい」という社長の思いもあった。

「フェリシモは通信販売の会社なので、お客様と直接触れ合う機会があまりないんです。神戸学校はそのような機会としてもすごく大事にしています。人間として成長していくことって、大切ですよね。私たちはもちろん、お客様や周りの方々と成長していきましょうという考え方をずっと持っています」

フェリシモは学ぶことを重視する会社。そんな社風はオリジナル商品開発にもしっかりとあらわれている。猫と人がしあわせに暮らせる社会を目指す「猫部」では、猫好きを満足させるアイテムを開発・販売しながら、犬・猫の保護支援活動にも注力。

防災アイテムの開発も手がけるなど、社会に目を向けながら、消費だけで終わらせない事業を展開している。

ゼロから考えるDNAで独創性あふれる社風に

フェリシモに中途採用で入社した渡辺さん。同社は中途採用の人材を経験者社員と呼び、その人が持つ知見や感性を活かしている。

「私の主務は、フェリシモのチョコレートミュージアムの企画です。兼務として神戸学校と幸福のチョコレートの運営管理を担当しています」

大阪出身の渡辺さんは、兵庫県の大学に進学。フェリシモが展開する海外のローカルチョコレートを集めたカタログ「幸福のチョコレート」が好きで、チョコレート関係の仕事に就職することを夢見ていた。

「フェリシモのチョコレートバイヤーみりに憧れて、新卒の就職活動でフェリシモを受けたんですけど、落ちました(笑)。それで金融関係に就職して仕事をしていました。社会人になってからも幸福のチョコレートの商品をずっと買い続けていて、本当に好きなものに携わる人生の方が楽しいだろうなと思っているときにコロナ禍を経験。もう一度フェリシモに挑戦し、約二年前から経験者社員として働いています」

みりに続く2人目のチョコレートバイヤーとして仕事に打ち込む日々。チョコレートの買い付けに同行するなど、スキルと経験を着々と積み重ねている。

渡辺さんのようにモチベーションとポテンシャルがみなぎっているのがフェリシモの新人たちだ。神戸学校では運営スタッフとして刺激的な講演会を企画。ゲストが誰かにかかわらず神戸学校自体に参加することを楽しみに年間パスポートを購入してくださる方も出てきている。

スタッフとして神戸学校を運営してきて約二年。新しいブランド開発につながった気付きも得られた。

「地球村研究室代表の石田秀輝先生をお呼びしたことがありました。石田先生は沖永良部島に暮らしていて、地球環境を改善するシステムや現在と未来の間を埋める『間抜けの研究』をされています。課題解決のためには、省エネなどを強いるフォーキャスト思考ではなく、今を楽しみながら未来のために繋げるバックキャスト思考が大事という観点でお話しいただきました」

「石田先生のお話しをひとつのきっかけに、フェリシモで新しいブランドコンセプトが立ち上がりました。“未来のためになる商品だけれども、今を生きる人にもキュンとくる”ことを重要視して、ものをセレクトしています」

新人社員たちに与えられる裁量や責任はなかなか大きい。神戸学校事務局が新人社員たちに伝えているのは「神戸学校だから作れる講演会にしよう」ということ。

「ネットで拾って分かる情報をただ喋ってもらっても面白くない。大好きだからお招きした登壇者たちに、神戸学校でしか聞けないことを話してもらえるように構成しています」

ゲストに求められるのも、深くて充実したメッセージ。登壇当日までにコミュニケーションを丁寧に重ねることもあるのだとか。

神戸学校の講演は、事業や利益に直結するとは限らない。それなのに時間と情熱を惜しみなく注ぐのは、フェリシモならではのDNAが受け継がれてきたから。

「フェリシモは事業性、独創性、社会性」を大事にしています。この3つの輪が重なっている部分が大切です。『人の真似は絶対にしない』とは社内でよく言われています。私たちだからこそできることは何か、ゼロから考える癖が付いていると思います。ですから、神戸学校も一つひとつの講演をゼロから考えるんです」

 “受け入れ上手”な神戸で、学びと成長を

神戸学校が開催されるのは平日ではなく、土曜日だ。社員にとっては休日に当たるが、参加希望者は多い。

「長期休暇制度が神戸学校とセットで設けられているんです。土曜日に出社して神戸学校に参加しある条件を満たすと、最長一か月の休暇が取れます」

一か月間の長期休暇は役職問わず取得でき、有意義に活用することが推奨されている。

「パワーアップしてよりクリエイティブな仕事をするために自分を成長させて帰ってきなさい、という考えですね。未来の自分のために、有意義な時間を積み重ねていくコンセプトが根底にあります。長期休暇を取得すると報奨金をもらえますし、朝礼で表彰されるんです。海外に旅行に行ったり勉強してきたり、子どもと夏休みを過ごす社員もいます」

入社二年目の渡辺さんも、長期休暇取得まであと少しのところに来た。若手や入社数年の社員にも、長期休暇のチャンスが届きやすい点が画期的だ。

未来のために学びとチャレンジを積み重ねるフェリシモは近年、地域活性のためにとあるプロジェクトを始めた。

「フェリシモが神戸ポートタワーの運営をすることになり、2024年4月26日にはリニューアルオープンします。神戸のシンボルとして1963年から立っているタワーをプロデュースすることで、神戸全体を盛り上げていきたいです」

神戸ポートタワーのリニューアルは、地域に対する恩返しでもあり、未来への可能性を広げるチャレンジでもある。

「フェリシモは大阪で創業し、阪神淡路大震災が起きた1995年に神戸に引っ越してきました。当時、ビルから見た神戸の街はブルーシートがたくさん掛けられていて、人々の表情もすごく沈んでいたそうです」

「本社を移転したとき、神戸の企業や地域の人々は私たちをあたたかく迎えてくれました。私たちは通信販売の会社なので、大きい橋やビルを建てることはできません。ですが人々の心が躍動するような時間を提供したいと思い、97年4月から神戸学校をスタートさせたんです。これまでにいろいろなことにチャレンジし、事業を通してお客様と共に復興支援プロジェクトにも取り組みました。神戸がフェリシモを育ててくれたようなところもあります」

神戸ポートタワーリニューアルに当たっては、地域の人々の想いに触れることもあったという。

「リニューアルする前にカバーに寄せ書きをしてもらったんです。たくさんの寄せ書きを見て、神戸ポートタワーは地域の人にとって思い入れが深いものだと気付かせてもらったと、担当者も言っていました」

フェリシモは神戸と共に、これからも独創的な価値を創造していく。新しいステージに向かって走り出した今、改めて地域への想いを聞いてみた。

「神戸のことを“発信下手だけれど受け入れ上手”と表現する社員もいます。神戸は海と山があって食べ物も美味しい。コンパクトにまとまっていて、いろいろなものが足りているから、魅力を外に伝える必要性がそこまでなかったのかもしれません。大阪や京都と比べると、日帰りの街というイメージもあります。神戸での滞在時間を少しでも長くしてもらいたいですね」

「神戸が受け入れ上手というのは、“日本初”として伝わるものが多いからです。サッカーの公式試合、ゴルフ場、コーヒーがお店で飲めるようになったのも神戸が初と言われています。海外から入ってきたものを柔軟に受け入れてアレンジするのも上手です。美味しいものを食べて、綺麗な洋服を着て、豊かな時間を過ごすことが大好き。神戸の人たちは、生活そのものを楽しんでいるんですよね」

フェリシモの商品は利便性やデザインに魅力があるほか、日常を輝かせる気付きがある。その源のひとつが神戸学校であり、神戸という地域から受ける刺激なのかもしれない。リニューアルを迎える神戸ポートタワーとフェリシモの独創性が、神戸をどんな風に彩っていくかその目で確かめてみてほしい。

フェリシモ 神戸学校

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