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サステナブル(持続可能)な価値を届けるためにパークホテル東京ができること

東京都港区東新橋にある「パークホテル東京」は、国際連合が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)に賛同し、サステナブルな社会の実現を目指すホテルだ。

パークホテル東京のコンセプトは「日本の美意識が体感できる時空間」。アートを媒介に、日本の良さや文化をゲストに体感してもらえるような、さまざまな取り組みを行っている。

もともと外国人ゲストが多かったためSDGsを意識し始めたが、アート活動を通して障がい者へ貢献するなど、アートホテルならではの取り組みも目立つ。パークホテル東京におけるSDGsの活動について、アートディレクターの藤川欣智(よしとも)さんにお話を伺った。

<関連記事>アートとの距離が縮まる。美術館とは異なるアートホテルの多様性

パークホテル東京がSDGs宣言をしたきっかけ

SDGsとは、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げられた目標のこと。2015年9月の国連サミットで採択された。

「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」など、サステナブルな世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成される。

パークホテル東京がSDGs宣言をしたのは2020年10月。宣言に至るきっかけは2つあった。

1つめは、アートを基軸にしているホテル空間において、2018年から障がい者アーティストの活動の場の創出と自立支援を行うようになったこと。

「障がい者がアートで夢を叶える世界を作る」を理念に、アート事業を行う一般社団法人障がい者自立推進機構パラリンアート運営事務局(以下、パラリンアート)の協力のもと、世界中の障がい者アーティストが手がけた作品を展示。CSV(共通価値の創造)として、持続的にアーティスト活動の場を提供し、ホテルに訪れる国内外の人たちへの発信を試みている。

2つめは、海外からのゲストを多く迎えるグローバルなホテルとして、サステナブルな取り組みが必須と感じるようになったこと。

パークホテル東京は、もともと訪日外国人、特にSDGs先進国とされるヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアからのゲストが多かった。海外のオンライン旅行代理店にホテル情報を掲載するときは、必ずSDGsの活動について確認される。

コロナ禍で直近の外国人旅行者は少ないものの、将来的にインバウンド需要が戻ってきたら、サステナブルな取り組みを行っていないホテルは選択肢から外されてしまうのではないか。その不安の芽を摘むために、グローバル水準に合わせた取り組みが必要だと感じた。

アート活動を通して、障がい者へ貢献する取り組み

パラリンアートは「障がい者がアートで夢を叶える世界」の実現を目指し、社会保障費に依存せず、民間企業と個人の協力で障がい者⽀援を継続できる社会貢献型事業を行っている。

社会参加への理解を得にくいことや金銭的な困窮は、障がい者の多くが抱えている課題だ。現状、これらの課題を解決するための仕組みは不足していると言わざるを得ない。

パラリンアートは、障がい者アーティストの作品をさまざまな企業や団体に活用してもらうための橋渡しを担う。障がい者が持つ才能を世間に発信するとともに、採用されたアーティストや障がい者施設へ報酬を支払うことで、彼らの社会参加と経済的自立を推進する。

「障がい者アーティストの存在を知って、アートを扱っているホテルとして、その方たちに活動の場を提供したいと思いました。パラリンアートは常設の展示会場を持っていません。しかし、私どもが場所を貸し出せば、作品を観てもらう機会をつくれます。パークホテル東京としても、展示作品に『多様性』を持たせられるのがメリットです」(藤川さん)

持続的にアーティスト活動の場を提供し、国内外の人たちへ発信をする。たくさんの訪日外国人をゲストに迎えているパークホテル東京ならではの取り組みだ。

展示作品は購入でき、売り上げの一部はパラリンアート運営事務局を通して、アーティストの自立と社会進出支援に使われる。「才能ある障がい者アーティストがきちんと適正なお金を得られる社会になったらいいですよね」と藤川さんは語る。

ホテルとしての「つかう責任」

多くのゲストが滞在するホテルでは日々たくさんのものが消費される。人・社会・地球環境へ配慮した「エシカル(倫理的)」な消費行動の取り組みは、多くのホテルが抱える課題だろう。

「以前は、環境問題や社会問題は、大企業がお金をかけてCO2削減やカーボンニュートラルに取り組んでいくもの、といったイメージがありました。でも、調べていく中で、自分にもできることはたくさんあると気づいて。個人でもこういうことができるなら、ホテルとしてこういうことができるんじゃないか、と行動に移すようになりました」(藤川さん)

パークホテル東京の客室には、タイのオーガニックコスメブランド「THANN」のアメニティが用意されている。植物・ミネラル由来成分95%以上配合で、 鉱物油、パラベン・MIT、着色料、香料、動物性原料の成分は使用せず、動物実験をしていない商品だ。

また、全客室に節水型トイレを採用し、シャワーヘッドを節水タイプのハンスグローエ社製「ECO smart」に交換したことにより、20~30%の節水を可能にした。

「SDGsのゴールのひとつに『つくる責任、つかう責任』があります。ホテルは何かを作る会社ではないけれど『つかう』ことはたくさんします。例えば、提供するストローをプラスチックから紙にすれば、二酸化炭素削減ができ、地球温暖化の対策につながる。そんなふうに、自分たちにできることを発見していこうと思っています」(藤川さん)

現在パークホテル東京では、紙ストローからさとうきびストローへの切り替えを進めている。サトウキビは従来、産業廃棄物として処理されていた食品残渣とPLA(ポリ乳酸)で作られた100%天然成分のアップサイクル製品。紙ストローに比べて環境負荷が低い。

客室用ミネラルウォーターはプラスチックボトルの使用を廃止し、紙製品(ハバリーズ製)を導入している。ハバリーズ製品は、FSC認証のリサイクル可能な紙包材を使用しており、紙から紙への再生で100%リサイクルを行う。また、1本につき1円を世界自然保護基金に寄付している製品でもある。

ひとつひとつは小さなことでも、ホテル全体で見れば大きな違いだ。それが今だけでなく、ずっと続いていく。人・社会・地球環境へ配慮したエシカルな消費行動の導入は「つかう責任」に内包される「えらぶ責任」と言えるかもしれない。

サステナブルな価値を届けられるホテルに

「海外の方から見ると、日本には『使い捨ての国』のイメージがあるかもしれません。そう思われては意味がないですから、一ホテルとして何ができるのか、しっかり見つめ直す必要があります。

環境に配慮した製品の導入にはコストがかかるので、一時的には利益と相反する部分があります。でも、需要が増えれば製品の値段は下がります。ホテル業界全体で、サステナブルなもの選びを当たり前にしていくのが一番良いこと。先んじてそれを実践していくのは、東京のホテルとしての責任もあると思っています」(藤川さん)

ホテルのサステナブルな取り組みは、エコだけではない。SDGsが形骸化しないためには、きちんと知ることが大切だ。知識を身につけることで何が大事なのかが見え、想像力や発想力が広がっていく。

「欧米からのゲストを含めて、旅行者全員が安心して泊まれるグローバル水準を目指したいですね。欲を言えば、パークホテル東京は多様性を重視するアートホテルなので、ゲストが未知のものに出合い、そこから感じ取った何かが、発想や行動を変えるきっかけになれば嬉しいです」(藤川さん)

パークホテル東京には、陶器とガラスの作品を金継ぎした工芸作品がある。異なる素材が自然の接着剤である漆によって合わさった、多様性を感じさせる作品だ。また、リサイクル鉄の彫刻作品「風神雷神」には、馬の蹄鉄(ていてつ)が使われている。

そうした作品を見たゲストが、サステナブルな印象を受けたり、多様性について考えたり……。環境問題や社会問題にも関心を持つかもしれない。訪れた人の内面で起こる変化は、「日本の美意識が体感できる時空間」をコンセプトにしたアートホテルだからこそ届けられる、サステナブルな価値ではないだろうか。

参考情報

パークホテル東京
東京都港区東新橋1丁目7番1号 汐留メディアタワー
03-6252-1111(代)
https://parkhoteltokyo.com/ja/

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