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「仕事をするほどお金がかかってしまう」職員の“実験思考”でジレンマを克服【東京都清瀬市役所】

ここ数年志望者の減少傾向が続いていた地方公務員の人気が、一気に増加に転じたという報道があった。2022年の春のことである。コロナ禍に帰省することができなかったり、収入が減った若者へのエールとして故郷の役場から特産物が届けられたりと、地方とのつながりを意識する機会が増えたことに関係がありそうだ。

一言で地方公務員といっても職務はさまざま。採用区分や配属される部署によって業務の内容は大きく変わる。ときには、市の意向で思わぬ業務が舞い込んでくることだってあると聞く。例えば、都心から電車で約30分の距離に位置する清瀬市の役場に務める海老澤雄一さんがその一人。ある時は養蜂家、またある時は農家、さらには営業マン。フィールドを自在に立ち回り、結果を残していく凄腕職員のマインドとは?

※本記事は「ふるさとチョイスAWARD2021」時の内容となり、最新の状況と内容が異なる場合がございます。

肩書きは、総務部建築管財課管財係主査です

東京都清瀬市の公式サイトにある各課の案内によると「建築管財課管財係」とは、こうだ。主な業務内容は、

  • 市有財産の管理
  • 公共施設営繕業務
  • 公共施設等総合管理計画の実行

あまり耳馴染みがないが、「管財」とは財産を管理すること。つまり、海老澤さんら管財係のメンバーは清瀬市の財産を管理するという重要な職務を担っている。具体的に市の財産とは、庁舎、校舎、道路、公園などの土地や建物、そのほか市が所有する物品や権利などあらゆるものが含まれる。

「公園や街路樹の整備、枯木対策、児童遊園の草木整備、遊具の保全など、それらを管理するには当然ながら維持費がかかります。将来の人口減少から歳入の減少が予測される当市のような自治体にとって、無駄を減らすことが喫緊の課題とされる中で、我々は仕事をすればするほど、費用がかかっていました」(海老澤さん)

市内の木々の伐採や清掃を行った場合、草や葉、枝1㎏あたり約40円、道路に流出した土など1㎡で約18,000円の処理費用がかかる。平成23年度は産業廃棄物の処理に4,809,000円かかっていた。※参考:清瀬市公式サイト「エコプロモーションの取り組み」

そこで、清瀬市が始めたのが「清瀬エコプロモーション」だ。

「産業廃棄物の処理費用は年々増加の傾向にありました。エコプロモーションは、処分費を減らすだけでなく副産物を資源として生かす取り組みです。産業廃棄物として処分されていた枝や落ち葉を、ウッドチップや腐葉土などに加工して再利用したことで、平成26年度以降の産業廃棄物の処理費は0円。歳出の削減につながりました」(海老澤さん)

ここから「清瀬エコプロモーション」は加速することになる。

平成26年3月からエコプロモーションの一環として清瀬市は、地域の活性化、花のあるまちづくり事業の充実、健康食品はちみつの活用を目的に、東京都初の自治体職員による養蜂「東京清瀬市みつばちプロジェクト」を清瀬市役所屋上でスタートすることを決定した。※参考:清瀬市公式サイト「エコプロモーションの取り組み」

海老澤さんに白羽の矢が立ち、それからまもなく養蜂家という肩書きが加わった。

自然を生かす「はちみつプロジェクト」

東京都清瀬市は、埼玉県の新座市や所沢市に隣接する人口75,000人ほどの緑豊かな街。清瀬の土地は黒土が多く、古くから根菜類の栽培が盛んで、中でもニンジンは都内の収穫量全体の約45%を占めている。

だからこそ、はちみつプロジェクト——?

「花粉媒介昆虫のミツバチは、農産物を生産するうえでとても大事な生き物です。清瀬市の基幹産業は農業であることから、ミツバチの飼育を始めました。ミツバチの直接的な効果の検証は難しいですが、ミツバチが清瀬市内を元気に飛び回れるのは、清瀬の農業が健全に営まれているという証です」※参考:清瀬市公式サイト「東京清瀬市みつばちプロジェクト」

都心から25km圏内にありながら、市役所で蜂蜜が採れてしまうほど清瀬は自然に恵まれている。自然環境のバロメーターとなるミツバチは、農業の街の“宣伝部員”というわけか。

「養蜂なんて未経験でした。トップダウンだったので、研修をすることもなく、図書館の本、インターネットを頼りにツバチの飼育を始めました。市役所本庁舎の屋上に農地から飛散した土を再利用した花壇を作り、巣箱を3箱設置して試験的にスタートさせました。はじめは不安でしたが、なんとか蜂蜜の採取にも成功し、平成26年からの4年間で平均64キロの蜂蜜を収集することができました。ふるさと納税の返礼品などに使えるほどの量を収集できるまでなったのも、時には刺されながら続けてきた成果です(笑)」(海老澤さん)

清瀬市役所産の蜂蜜「Kiyohachi(きよはち)」は、平成27年度からは、ふるさと納税返礼品としても活用され、平成29年度までの3年間で220万円を超える寄付を受けることになった。さらに2018年からは地元や近隣企業とのコラボ商品も登場する人気ぶり。

財源を圧迫する無駄を減らすためにスタートしたプロモーションは、多数の外部団体との連携を進めながら、いつしか歳入を確保する一大プロジェクトに成長していた。

清瀬市内で長年和菓子の製造・販売を営む「清月」の「はちみつカステラ」

「きよはち」を使用したオリジナルジェラート

「きよはち」を使用したハニーGEL

清瀬の農業はチャレンジ精神で実る

海老澤さんは養蜂以外にも、現在行われていない地域での産業を試験的に行う取り組みにも尽力している。

「市内で未耕作の農作物を市が実験的に栽培して農家の方に紹介し、新たな特産品を作ろうという『New Product Project』です。ミツバチの受粉からシークワーサーの実を大量に収穫することができた時には、可能性を感じました。次の狙いはホップです」(海老澤さん)

主にビールの原料として知られるホップは寒冷地での栽培に適しているとされ、これまで国内では北海道や東北地方などで作られてきた。今年で3年目を迎えた清瀬産ホップは順調に収穫量を増やし、清瀬駅南口周辺で催された「2022年秋のふれあい祭り」で、清瀬初のクラフトビール「清々(きよきよ)ビール」(武蔵野市の「26Kブルワリー」が醸造する)がお披露目された。

国内のクラフトビール人気が定着し、その年に収穫した日本産ホップでつくったビールを楽しむお祭りが年々盛り上がりを見せている中で、清瀬産のホップの未来にワクワクする。

ベテラン職員が蒔いてきた“実験思考”が根付いた市役所の動向から目が離せない。

東京都清瀬市

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