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「事務仕事は珈琲で企画考案はお茶?」ひとり用茶器で始める日本茶生活【チャプター】

デスクワークにコーヒーブレイクが欠かせないという人は多いが、お茶でリフレッシュしたい日もあるだろう。2021年に株式会社茶庵が発売した「チャプター」は、働き方が多様化した現代にぴったりのひとり用茶器。このチャプターはクラウドファンディングで目標金額1700%を達成した企画で、発売開始直後から人気商品となり、今やアメリカにも流通している。茶庵の代表取締役にしてチャプター開発者のひとり、伊藤尚哉さんにプロダクトの着想やおいしいお茶の淹れ方を教えていただいた。

現代のライフスタイルに寄り添うひとり用茶器

チャプターの魅力は、ありそうでなかった茶器を実現したこと。伊藤さんが提案したかったのは「デスクワーク中にお仕事する人向けの、ひとり用の茶器」なのだという。

「急須はひとり分のものが少なくて、食卓で三、四人に注ぐような昔のライフスタイルに最適化された茶器ですよね。嗜好品をみんなで楽しむのもいいんですけど、今の時代なら個人の価値観に合う楽しみ方があってもいいなと思ったんです。そのために、まずはひとり用の茶器が欲しかったのが出発点です」

クラウドファンディングとしてプロジェクトがスタートしたチャプター。目標金額の1700%を達成して開発された商品は、発売開始後からリモートワーカーやフリーランスを中心として品切れになるほど人気に。お茶のおいしさを引き出しつつ、忙しいときでもさっと淹れることが可能だ。

「チャプターは蓋付きの湯呑みとして意味づけていて、内側にエッジの加工が施してあり、(注ぐお湯の量を示す)ラインが付いているんです」

多治見市の丸朝製陶所が誇る高温処理製法「多治見締め」によって、素地のよさを残しつつ、頑丈さや汚れにくさも両立。仕事への集中力を妨げないようにミニマルなデザインを意識し、クリアグレー、マットブラック、クレイベージュの3色を展開している。

チャプターを販売する茶庵は、日本茶ブランド「美濃加茂茶舗」の生産・販売もしている。お茶に精通した伊藤さんにチャプターを使ったおいしいお茶の淹れ方を教えてもらった。

「内側のラインまでお湯を注いだら、ティーバッグを入れます。それから蓋を閉めて蒸らしてください。蒸らすと温度がキープされます。美濃加茂茶舗のお茶であれば、80度から90度が適温。蓋を閉めるのは、それ以上温度が下がらないようにするためです。1分経ったら蓋を開けます。うちのお茶のティーバッグは2回飲めますので、ティーバッグはチャプターの蓋に置いてください」

チャプターは、日本茶に対する敷居の高さを覆す茶器。まるでインスタントの紅茶を飲むように、日本茶の香りや味を楽しめる。

それでいてデザインは上質で、お洒落なインテリアにも馴染む。チャプターはTENT(治田将之氏と青木亮作氏によるクリエイティブユニット)との共同開発だそう。

「チャプター開発以前に、あるウェブの企画でTENTさんとご一緒する機会がありました。どういうときにお茶を飲むかという話題になった際、『事務仕事をしているときはコーヒー。企画のアイデアを出すときや肩の力をちょっと抜きたいときはお茶を飲むよ』と仰っていたんです。その感覚って確かにあるなと思い、ひとり用の茶器を作りたいと話したら、一緒にやりましょうということになりました」

探究心が刺激されるお茶の世界

伊藤さんは生まれも育ちも名古屋。大学卒業後はお茶とは全く関係ない業界の営業職に就職し、その後に転職した先がお茶屋さんだった。

「茶葉を売る名古屋の会社で、暖簾をくぐったらおばあちゃんがいて、ほぼその方ひとりで切り盛りしているところでした。何十年もお茶屋さんをしている老舗で、クレカも使えない。その当時、僕はあまりお茶に興味はなかったのですが、面白そうだなと思って入社してからハマっていったんです」

「お茶屋さんに入ってから初めて急須をさわった」と語る伊藤さん。男手ひとつの現場で、営業から販売、仕入れなど幅広い仕事に邁進。その甲斐あって、お茶に関する幅広い知見を得られたそう。

「茶葉の産地や品種、淹れ方ひとつにしても、お茶は全然違うんです。でも、どれもおいしくて個性がある。『なんでこんなに違うんだろう』という探求心が湧いてきますよね」

お茶への探究心が募る中、働いていたお茶屋さんが廃業することに。

「家族経営の会社でしたが、跡継ぎもいないし、社長は90歳くらいだったんです。どうしようかと思ったのですが、たまたまその時、美濃地方のIT系ベンチャー企業の経営者と知り合いでした。その知人は『美濃地域のブランディング事業をやってみたいけど、お茶に詳しいメンバーがいない』と言っていたんです。それでイベントでお会いしたときに近況を話したら、一緒に仕事をすることになりました」

伊藤さんはそれからもお茶の世界を深掘りしていった。2018年[1] には日本茶インストラクターの資格を取得。そうして2019年に日本茶ブランドの美濃加茂茶舗を、2020年に茶淹を共同創業で設立した。

チャプターの開発など、従来のお茶屋さんとは異なったアプローチにチャレンジする伊藤さんのもとに、意外なところからのリアクションが届いた。

「チャプターを購入して、『このブランドいいな』と思ってお茶を仕入れてくれるお客さんが8割ほどいるんです。大きなところだとアメリカ。こんまりさん(『片付けコンサルタント』の近藤麻理恵氏)がアメリカを拠点に活動していて、日本のいいものをアメリカで売るオンラインショップをしているんです。そのショップからはチャプターを常時500個ほど置いてほしいと言われています。アメリカでも評判がいいんだなと感じました」

日本茶ブランド「美濃加茂茶舗」の味わい

日本茶の歴史は奈良・平安時代まで遡る。これまでにたくさんの名茶が生まれてきたが、美濃加茂茶舗のお茶の特徴を聞いてみた。

「美濃加茂茶舗のお茶はブレンドしているので、水出しでも熱湯でもぬるま湯でも、それぞれの淹れ方のよさを出せることが特徴です。初心者の方でも割と手軽に楽しんでもらえるようなラインナップにしています」

チャプター開発でデスクワーカーやリモートワーカーを考慮していたように、お茶の開発においても現代人のライフスタイルを意識しているという。

「たとえば煎茶だとカフェインが含まれています。うま味成分のアミノ酸であるテアニンという成分も含まれていて、リラックス効果や集中力を高めたりする効果を持つと考えられているんです。適度にリラックスできるので、仕事中にもおすすめですよ」

チャプターを使えば、初心者でも日本茶を気軽に味わうことができる。そのときに気をつけたいのがお茶を淹れるときの温度だ。

「温度によって抽出される成分が全く違ってきます。熱湯で淹れるとカフェインやカテキンなどの成分がすごく抽出されるので、渋みのきいたお茶になるんです。50度や水出しのお茶のように低温の場合、うま味成分のアミノ酸が抽出されますが、カフェインやカテキンが抑えられます。結果的に水出しだと、うま味が強くて渋みの少ないお茶になります」

さらに、美濃加茂茶舗の面白さは、お茶を淹れる温度によって違う味わいが楽しめること。この魅力の肝となるのが、茶葉のブレンドなのだという。

「うちの場合だと、5月末頃に新茶の収穫シーズンに入ります。そこで茶葉の種類やブレンド比率を決めてしまうんです。時期や天候によって微妙に焙煎の温度が違ったりするのですが、基本的には一年を通して販売する味がその日に決まりますね」

毎年毎年、原料となる茶葉の状態は少しずつ異なる。そこから1グラム単位の微妙なさじ加減で配合を調整しながら、美濃加茂茶舗の味に仕上げていく。

「おいしい茶葉を集めてブレンドするので、不味くなることはありません。茶師の方にサポートしていただきながら、100点満点の99点と100点をずっと行き来している感覚です。でもお客さんがおいしいと思うのは、僕らにとっての98点かもしれない。定番商品として自信を持って販売するための確信を、その日に得なきゃいけないという責任感がありますよね」

美濃加茂茶舗の商品開発では、茶師はなくてはならない存在なのだそう。茶師の田口雅士さんは岐阜県東白川村出身。国立茶業試験場で修行した後、生まれ故郷でお茶の選定や調合のプロフェッショナルとして活躍している。茶庵では、茶師や焙煎担当者と力を合わせ、チームでお茶の生産から販売までを行っているのだ。

地域の恵みを受けて成長する美濃加茂茶舗

美濃加茂茶舗があるのは、岐阜県美濃加茂市美濃太田町。さらに山の奥深く、美濃加茂郡東白川村にもご縁がある。

「東白川村を初めて訪れたのは、前職のお茶屋さんに勤めているときでした。岐阜には『

白川茶』というブランド茶があるのですが、その発祥地とされるのが東白川村です。茶畑や製造工場があるということで、アポなしでとりあえず行ってみたんです(笑)」

実際に訪れてみると、東白川村で名茶が生産されている理由がわかったという。

「標高が高くて空気がすごく澄んでいるんです。そして寒暖の差が激しく、収穫期の4月や5月でも夜は0度を下回るのに、日中は20度ほどにまで上がるのです。夜の気温が高い地域では、茶葉が日中に光合成して栄養を蓄えても、夜には放出してしまう。夜の気温が低いと冬眠状態に近くなるので、茶葉の中に栄養が留まるんです」

現在でも月に1、2回は東白川村を訪れるという伊藤さん。村の人のやさしさにいつも助けられているのだとか。

「生産者の方には本当によくしていただいていて、美濃加茂茶舗の商品も東白川村製造工場の一角をお借りして作っています。配送もその工場で全部やっていただいているんです」

チャプターをきっかけに日本茶の価値が再発見されつつある今、伊藤さんには新しい目標ができた。

「東白川村の茶業全体で生産者や担い手が少なくなっています。茶業をやめた土地や荒れ果ててしまった茶畑があるので再生したいですね。販売量が多くなると供給が足りなくなるという問題もあり、今後はさらに“上流”の部分から携わってみたいです」

古くから多くの人の喉を潤し、心を癒やしてきた日本茶。時代やライフスタイルが変わっても、チャプターや美濃加茂茶舗のおかげで、誰でも気軽に日本茶を味わうことができる。暮らしの中のひと休みに、おいしい日本茶をぜひ味わってみよう。

美濃加茂茶舗

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